欧州の防衛費増加への転換が成長を後押しする可能性
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートイノベーション
髙木 康一

景気循環による経済的影響は企業にとって不可避なものです。しかし、世界および地域経済に対し長期的な見通しを持つことにより、企業は景気循環のリスクを最小化することができます。デロイトは、世界のビジネスリーダーたちに必要な、マクロ経済、トレンド、地政学的問題に関する明快な分析と考察を発信することにより企業のリスクマネジメントに貢献しています。
本連載では、デロイトのエコノミストチームが昨今の世界経済ニュースやトレンドについて解説します。今回は、Deloitte Insightsに連載中のWeekly Global Economic Updateの2025年3月17日週の記事より抜粋して日本語抄訳版としてお届けします。
目次
Ira Kalish
Deloitte Touche Tohmatsu
チーフエコノミスト
経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。
欧州では、防衛費を大幅に増額するべきだという意見が広がりつつあります。フィナンシャル・タイムズにおける最近の調査によると、米国を信頼できる同盟国と見なす欧州人はわずか16%でした。地政学的な影響を別とすれば、欧州の防衛費増加は財政出動を通じて欧州の成長を復活させる手段となりえます。特に、この歳出は借入の増加によって資金調達される可能性が高いためです。成長が速まれば、欧州の資産は世界の投資家にとって魅力的になり、ユーロの価値が上昇する可能性があります。また、成長が速まることは、借入コストの上昇や欧州中央銀行(ECB)による金融緩和のペースが遅くなることを意味します。
NATOの枠外での共同防衛能力を開発する過程で、欧州はユーロの国際的な役割を強化する基盤を整えることができるかもしれません。欧州連合(EU)による共同債発行は、欧州が大規模かつ流動性の高い欧州債のセカンダリーマーケットを創出する方向へ進むことを意味し、将来的には米国債支配に挑戦する可能性があります。米国の巨大な国債市場は、ドルが世界における支配的な通貨である一因となっています。しかし、欧州の政府や投資家はドルへの依存を減らしたいと考えている可能性があります。
欧州の財政的な再生の鍵となるのは、欧州最大の経済大国であるドイツです。新政権は、つい最近までは考えられなかった規模の国債発行に取り組む可能性があります。この考え方の変化は、米国の対欧州政策の変化によって促進されています。フィナンシャル・タイムズによる経済学者への調査では、ドイツはほぼ問題なく約2兆ユーロの債務を増やせる可能性があるとしています。同国の現在の債務残高の対GDP比が比較的低いためです。ドイツ国債は、他のすべての欧州国債の基準となります。ドイツ国債残高が劇的に増加すれば、ユーロが米ドルに代わる準備通貨および取引通貨としての地位を部分的に獲得することが可能になるかもしれません。
※本記事と原文に差異が発生した場合には原文を優先します。
Deloitte Global Economist Networkについて
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