2025年1月22日に、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社(以下、DTVS)/野村證券株式会社主催の「デロイト トーマツ イノベーション サミット 2025 / アントレプレナーサミット・ジャパン」が行われました。
本イベント内の「Morning Pitch Special Edition 2025 」では、213社のスタートアップの中から最優秀賞とオーディエンス賞を選出。宇宙、不動産テック、医療、スマートシティ、量子通信、生成AI、地方創生と多様な領域を担う7社のファイナリストがいずれ劣らぬ革新的なソリューションを紹介し、社会を変える可能性を感じさせる特別な機会となりました。

2025年には上場会社100社へ13を迎えたMorning Pitch

Morning Pitchは、DTVS主催でスタートアップと大企業の事業提携を生み出すことを目的としたピッチイベントです。2013年1月の開始以来、 毎週木曜AM7時から開催されています。DTVS代表の斎藤祐馬は「これまで累計約2,400社のスタートアップが登壇し、その後に上場した企業は93社です。2025年中に100社が見えてきました」と紹介しました。

本イベント「Morning Pitch Special Edition 2025」は年に一度の特別版で、2024年の登壇企業213社の中から、審査員が選ぶ最優秀賞と来場者が選ぶオーディエンス賞の受賞企業を選出します。ファイナリストは7社、Star Signal Solutions株式会社(宇宙)、matsuri technologies株式会社(不動産テック)、アイリス株式会社(ヘルスケア/医療)、LQUOM(量子通信)、株式会社Singular Perturbation(スマートシティ/犯罪予測)、Allganize Japan株式会社(生成AI株式会社NEWLOCAL地方創生)となりました。

この7社が成長し、実装が進めば、きっと社会が変わるだろうと思わせるピッチの連続でわくわくしました。また、JAXA発や現役医師による起業、量子や生成AIなどの先端技術、テクノロジードリブンではない地方創生、既に海外実績豊富な企業など、ファイナリストの多様性も印象的でした。

年間最優秀賞matsuri technologies

年間最優秀賞を受賞したmatsuri technologiesは民泊ビジネスを展開します。代表の吉田圭汰氏は、「空き家問題を解決したい。日本の民泊市場は伸びしろしかありません」と熱のこもったピッチを展開しました。同社は直近1年で売上が3倍になる成長を遂げています。契約、決済、本人確認、チェックイン/チェックアウト、清掃・備品管理など一連の業務をスマートフォンで一元管理するアプリStayXを開発し、施設管理を行っています。特に手間がかかる清掃作業について、フードデリバリーのモデルのようにギグワーカーをマッチングし、スマホ撮影写真から清掃品質を自動でチェックするなどデジタル化を徹底し、運営コストを削減しています。

設立は2016年で、コロナ禍で大打撃を被りました。吉田氏は「当時、旅行産業がなくなるという人もいました。しかし、私たちは必ず人は旅をすると信じて耐え、マーケットが開いた後に向けて仕込みました。あの苦労によって私は真に経営者になれたのだと思います」と語りました。審査員も苦境を乗り越えた経験に興味深く耳を傾けていました。

オーディエンス賞アイリス 

写真左よりDTVS斎藤祐馬、アイリス沖山氏

アイリスの代表である沖山翔氏は現役の医師です。白衣を着て登壇し、終始クールなトーンでピッチを行いました。喉の写真からAIでインフルエンザの診断を支援する医療機器nodocaは、厚生省承認で保険適用にもなり、全国の医療機関で利用されています。沖山氏は、医師が目視で診察を行うため国内外に画像データベースがなかった喉に着目し、AI学習データとして蓄積を進めています。nodocaによるインフルエンザの診断は、鼻の粘膜を採取する一般的な抗原検査と同等以上の精度を発揮し、患者に痛みがない、飛沫が飛ばない、短時間で診断結果が出るなどのメリットがあります。AIの学習が進むことで、コロナや癌など様々な病気の診断や未知のウィルスの発見などに拡大していく計画も示されました。観客にとって身近な医療領域であることに加え、「安心して受診してもらえるよう、このようなイベントを通じて生活者の理解を得ていきたい」という沖山氏の思いが、オーディエンス賞につながったのではないでしょうか。

審査員は全てのファイナリストを称賛

表彰式で審査員は「7社とも優れていて僅差だった」とコメントしました。他5社の革新的なスタートアップを登壇順にご紹介します。

Star Signal Solutions(スター シグナル ソリューションズ)

代表の岩城陽大氏を筆頭に、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の専門家が集結したスタートアップです。人工衛星が他の衛星や宇宙ゴミとの衝突事故を回避するS-CANを提供します。10cm以下の宇宙ゴミを検知するなどの高度な技術を有します。衛星は社会インフラとなり民間企業の参入も進んでいますが、将来的に宇宙が混雑し、衝突という交通事故によって通信障害やGPSの停止など大きなトラブルが発生するリスクが高まっています。2050年には宇宙にもナビが必須になると見込んでいます。

LQUOM(ルクオム)

量子コンピューティングは、近年量子誤り訂正の技術が急速に進化し、2030年と言われていた実用化の早期実現も期待されます。Morning Pitchの中でも人気が高いテーマの一つとなっています。LQUOMは、量子インターネットの時代が到来した際にセキュアに通信を行える、量子通信技術をもとに起業したテクノロジースタートアップです。量子ネットワークのスケーリングを実現する長距離量子通信の中継器などを開発しています。代表の新関和哉氏は「まだ実現していない技術なので、今なら世界で戦えます」と自信を見せました。

Singular Perturbation(シンギュラー パータベーションズ)

物理学博士である梶田真実氏は、イタリアでスリ被害に遭った経験から、犯罪被害をなくしたいという思いで起業したそうです。独自のアルゴリズムによるCRIME NABIは、ブラジルやホンジュラスなど海外の警察組織で利用された実績を有します。犯罪データ、人口密度などの都市データ、地理データなどに基づき犯罪発生リスクを予測し、警官のパトロール計画を提供します。的確な時間と場所にリソースを配置することができ、犯罪減少の成果を上げました。民間企業向けでは、石油業や鉱業のプラント警備にも展開を進めています。

Allganaize Japan(オルガナイズ ジャパン)

今をときめく生成AIですが、足元の課題として、使いこなせていない企業が多いことに着目し、プロンプトの入力、アプリ開発、自社データとの連携などをオールインワンで解決するAlli LLM App Marketを開発しました。全てのワークフローをAIで自動化することを目指します。日本法人代表の佐藤康雄氏は「VCには駄目だと言われましたが、グローバルで事業をするという創業時の決意を貫きました」と言い、先端技術が生まれる米国、新技術の導入が速い韓国、技術を使い込む日本の3カ国で事業を展開しています。

NEWLOCAL(ニューローカル)

多くの地方自治体が人口減少という課題を抱えています。同社は地方でまちづくりを行うスタートアップです。地方のパートナーとジョイトベンチャーを設立するビジネスモデルで、遊休施設を宿泊施設、飲食店、ショップなどにリノベーションし、観光客・移住者の誘致や雇用創出を図ります。野沢温泉を皮切りに、男鹿、御代田、丹後に事業を展開しており、今後5年間で10地域、それぞれ10億円の事業創出を目指します。代表の石田遼氏は「私自身は東京出身です。地域のリーダーとまちづくりに携わるのが面白い」と充実感を覗かせました。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
DTFAインスティテュート

小林 明子 / Kobayashi Akiko

マネジャー

IT事業会社を経て、調査会社の主席研究員として15年以上IT市場及びデジタル技術の調査研究・分析に従事する。専門領域は、エンタープライズアプリケーション、自治体・公共向けIT・スマートシティ、先端テクノロジー・イノベーションなど。2023年8月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画。