ものづくりへの徹底したこだわりで大手取引先の信頼を獲得
FAポータル編集部にて再編
全国には優れた製品・サービスなどを有しているにも関わらず次の成長を目指す際にキーとなる人材不足に悩む企業、またこれまでの多様な経験・知見を生活かす場を模索している経営人材が数多く存在します。
本シリーズでは大都市から地域に移って活躍している経営人材を取材し、キャリアや地域で働くことの魅力に迫ります。
目次
藤井 英一氏
株式会社パルファン
代表取締役社長
大手自動車メーカーに勤務した後、1986年に株式会社パルファンに入社。2021年に代表取締役に就任。株式会社パルファンは、インナーウェア、ショーツ、ランジェリーの企画開発および製造販売を行い、製品の企画設計から製品の品質管理までトータルに対応できる、OEM生産を軸に事業を展開するインナーウェアメーカー。グループ社員数は約6,000名で、国内SPA企業やアパレル企業を得意先とする。
自前主義にこだわり他社と差別化
――株式会社パルファン(以下、パルファン)の事業内容を教えてください。
パルファンはインナーウェアの企画開発と設計、生産を行うOEMメーカーであり、我々の製品は国内の大手アパレルメーカーなどのブランドで販売されています。製造はタイの自社工場で行っているほか、2022年からは日本の本社内に工場を立ち上げて製造を始めました。
事業がスタートしたのは1956年で、創業者である藤井薫が布帛(ふはく)の製造販売を行う藤井商店を創業したのがきっかけです。その後、布帛およびインナーウェアの製造販売を行う株式会社藤蝶に組織改正を行い、そこからインナーウェア部門が分離してパルファンが設立されました。
私が入社したのは1986年で、その翌年タイのナコンパトム・サンプランに現地企業との間で合弁事業を立ち上げることになります。
当時、パルファンでは日本の各地に縫製工場があり、「メイド・イン・ジャパン」でインナーウェアを製造していました。ただ当時の取引先であった流通業のある企業から、「我々がバックアップするので海外に進出しないか」と声をかけられたんですね。その際、パルファン側も流通大手の協力が得られるのであればということで、海外に進出することになり、入社したばかりの私がいろんな国を視察することになりました。そうした国の中で目にとまったのがタイで、現地の縫製工場との間で合弁事業をスタートしています。
当時はまだ海外進出する企業は少なく、タイで合弁事業を立ち上げたときは「海外へ進出する必要はないんじゃないか」とよく言われたことを覚えています。
また当時のパルファンには商社的な部分もあり、外部の工場に製造を依頼したものを販売するケースもありましたが、現在ではすべて自社工場で製造しています。我々はOEMメーカーであるため、顧客が発注したものを、顧客の要求通りに作らなければなりません。その際、外部の工場を利用するよりも、自前主義で製造したほうが望ましい面が多かったことが背景にあります。当然ながら、外部の工場を使った製造にもメリットはありますが、私たちのビジネスについていえば、自前主義にこだわったことで他社との差別化を図ることができたと考えています。
取引先を分散するのではなく、超大手に100%集中する
――自社工場にこだわることになったきっかけは何だったのでしょうか。
初代社長は本当にパワフルな人で、会社を大きく育て上げてきたスーパーマンだったため、急に亡くなってしまったときに「パルファンは大丈夫か」という噂が立ったんですね。
そのときに製造業で勝ち抜いていくためには、どういったやり方をしなければならないのかを真剣に考えました。それで、自社工場、そして外部の協力工場で製造したものを世界中で売るというそれまでの方針を見直してみたところ、外部の工場での製造にはデメリットが多いことに気付いたんです。ものづくりの強みを活かして事業を展開しなければ、グローバルな競争の中で負けてしまう、そのためには自社工場を立て直さなければならないと考え、海外の製造拠点すべての社長を私が引き継ぎ、立て直しを進めていきました。それが自社工場での製造にこだわることになったきっかけです。
また、海外のある方からアドバイスしていただいたことも印象に残っています。その方が経営していた企業は我々と同じ衣料品メーカーであり、グローバルでも有数の流通業と取引していました。そうした超大手と取引する際には、取引先を分散しようなどと考えるのではなく、その取引先に100%集中し、競合に負けないようなやり方を考えるべきだと言われたんです。日本では、1社に依存するのはリスクが大きい、取引先を複数に分散すべきだといいますが、それではダメだというわけです。
その後、別のアメリカの流通大手と取引する際に教えられたことを実践し、「要望にすべて応えます、とことん対応させていただきます」と伝えたところ、日本人にしてはマインドが違うなと言われて、受注につなげることができました。その後も教えてもらったことを大切にしていて、現在も売り上げの7~8割は日本の大手小売店からのものとなっています。
売って儲けるのではなく「作って儲ける」
――精力的に動かれていますが、そのパワーの源を教えてください。
日本人は世界に通用するものづくりができる国民で、日本の製造業をあまり甘く見ないでほしい、そういう気持ちがあります。確かに生産地でいえば、我々も大半はメイド・イン・タイランドになっていますが、ものづくりの精神はメイド・イン・ジャパン、つまり“メイド・バイ・ジャパン”なんですね。
私がパルファンに入社する前に勤めていた自動車メーカーでは、次の工程はお客さまだという考え方をしていました。お客さまなのだから、自分の工程をしっかり完結させて成果物を引き渡さなければならないというわけです。そういった精神でものづくりに取り組めば、当然のことながらいいものを作ることができます。ただ、世界で戦うにはそれだけでは不十分で、さらにコストを下げて価格的にも世界で戦えるものにしていかなければなりません。
さらにものづくりに関していえば、私たちのタイ工場では、全ラインをTSS(トヨタソーイングシステム)とよばれる、立ちミシン方式を採り入れていて、これによって生産性を高めています。機械による自動化も進めていますが、単に機械に頼るだけでなく、人間と機械を融合しながら自動化を進めることで、品質の基準を高めていく。このようにどこにも負けない技術で製造していることが、私たちの強みにつながっていますし、こうした工夫することはすごく面白いなと思います。
例えば去年と今年でまったく同じ製品を作ることになったとき、生産能力を去年よりも20%向上することができれば売上を拡大することができますよね。これを我々は作って儲けるといっているんです。売って儲けるのではなく、作って儲けることができる、これが製造業の面白さで、何もないところから製品を生み出してお金をもらうわけですから、様々な工夫ができますし、そのためのヒントはあちらこちらにあります。それを面白いと感じれば、仕事のやり方はいくらでも生まれてくる。
そうした工夫の1つに、型紙を作るパターンの作業があります。女性の体は立体的ですが、下着を作るための素材は平面です。この2Dから3Dを生み出すとき、パターンの作り方1つで生地の使う量を減らしつつ着やすさも追求できる。こういった楽しみを見いだすことができたら、仕事は辞められないものになります。本当に面白いですね。
目標を追いかけるのも楽しいですね。私は一時期、世界で最も売上が大きい欧州SPA企業に勝てるのはパルファンだけだと本気で考えていました。同社は自社工場と協力会社の工場を使って自ら製造しているんですね。2位から10位までのアパレルメーカーは、自社工場を待たないファブレスメーカーであり、仕入れた製品を売ることが儲けの源泉になっています。一方、同社は売って儲けるだけでなく、作って儲けることもできる、だから2位以下のアパレルメーカーは追いつけないんだと私は考えているんです。それで、同社を追い抜くことができるのは、自ら工場を持って製造しているパルファンだと言っています。
自らを振り返り、自分の価値観を明確にすることが大事
――パルファンで求めている人材像や、女性のキャリアについての考えを教えてください。
私たちにとって、もっとも大切なのは人材です。この人材採用のための面接でいつも話しているのは、1人ひとりの個性がものすごく大事だということです。例えばこの業界で世界一となることを目標にして頑張る、そういった方向感は合わせつつ、それぞれの個性は大切にして仕事に取り組んでほしいですね。
さらに採用に関して、男性と女性を分けて考えるといったことはありません。女性は出産でやめてしまうからと言う人もいますが、子どもができるのは日本のためにもなるので、ぜひ応援したい。そのための制度も整えているので、それをしっかり利用して休んでいただき、出産・育児が一段落して戻ってくるときには、すぐに仕事があるという状況を作る。そのように女性が働きやすい環境を整えています。
――これから経営者になりたいと考えている、30~40代のビジネスマンに対してアドバイスをお願いします。
実は私たちの会社では、仏教思想の中の「ものの考え方」を取り入れています。自分の価値観をしっかりと見極め、なぜ働いているのかというパーパスを明確にする、そのためのツールとして仏教思想のものの考え方は有効であると考えています。
昨今はインターネットで様々な情報が手に入りますが、そこには本物もあればフェイクもあります。それを見抜くためには、自分の価値観をはっきりさせることが重要であり、そのためには自分を振り返る必要があります。ものの考え方や思想は、自分を見直すために使う、定規やコンパスのような道具だと捉えられます。
その道具を使って自分を振り返り、例えばあのとき自分はどうあるべきだったかを考える、そういった作業を怠らないことが大切ではないでしょうか。そうすれば、どんな仕事、どんな職場であっても生きがいを見つけることができるし、貢献することができると私は考えています。
特に経営者になるのであれば、自分の価値観を振り返ること、点検することにしっかり時間を割いてほしい。パルファンについていえば、そのための材料は会社として提供したいと思います。もし自分自身について振り返ることを怠り、自分の価値観が正しいと思い込んでしまうと、それは慢心につながりますし、独裁者のようになって人からの支持を失うことになりかねません。慢心がそういった結果を生むわけですよね。
経営者になると、自分が正しい、自分の言う通りにしておけと考えてしまうことがあります。でも、それは本当に正しいのかと、言ったそばから自分で省みる力を身に付けるためには、先人のものの考え方や思想を学ぶことが重要ではないでしょうか。経営者として「日々問うてみる 自分という師がいたなら 己はついて行くだろうか」という言葉を常に忘れないようにしたいですね。
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