2023年2月17日にデロイト トーマツ主催の地域金融機関セミナーが開催されました。第三部では、地域金融機関における事業承継ファンドの現状とエクイティビジネスの展開について、株式会社福岡銀行 執行役員・産業金融部部長、株式会社FFG成長投資 代表取締役、草本桂氏の講演のレポートをお届けします。
なお、第一部および第二部の講演については下記の記事をお読みください。
第一部|地域を支える地銀経営のこれから—規制緩和と事業成長担保権で変わる未来
第二部|地域金融機関における事業承継ファンドの現状と今後
目次
草本 桂氏
株式会社福岡銀行
執行役員・産業金融部部長
株式会社FFG成長投資
代表取締役
1993年福岡銀行入行。約20年にわたり事業再生ノウハウを起点としたコーポレートソリューション業務、ファンド運営業務、ストラクチャードファイナンス業務などに従事。不良債権投資主体から本格的なバイアウト投資への変革の舵取り役として牽引。現在、産業金融部長としてコーポレートおよびエクイティ領域の統括だけではなく、FFG成長投資の代表取締役ほかも兼務。
出資規制緩和前の福岡キャピタルパートナーズのあゆみ
本題に入る前に株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)のビジネスパートナーであるファンド運営会社・株式会社福岡キャピタルパートナーズ(以下、FCP)設立のきっかけについて、少しご紹介します。
FFGの誕生は2007年なので、こちらは株式会社福岡銀行の歩みとなります。株式会社福岡銀行にとって2000年から2002年は不良債権との訣別の時期であり、再生支援体制の整備と不良債権処理に力を入れました。それらがひと段落したところで、不良債権処理を通じて獲得した事業再生ノウハウを横展開し、地域の前向きな発展に寄与しようと考え、地元企業を中心に出資を受け、FCPを設立しました。
FCP設立時の狙いと主な運営ファンド
地域経済への貢献を行うためには、FCPがマルチな機能を持つことが必要だと考えました。そのため、4つの機能を軸とした事業展開を目指しました。
しかし、2008年秋のリーマンショックなどが市場に与えた影響は計り知れず、VCをはじめ大口投資家からベンチャー企業への投資額は大きく減少しました。そのような社会情勢も相まって、当初目指した4つの軸を持つマルチ戦略ファンドにはなれませんでした。なお、ベンチャー企業への投資については、2016年にFFG100%出資で株式会社FFGベンチャービジネスパートナーズを設立しています。
次に、具体的にFCPが運営してきた主なファンドの概要を紹介します。
1号ファンドと2号ファンドは、その大半がグループ内の熊本・長崎の銀行の不良債権・再生案件で構成されています。
3号ファンドからは不良債権・再生案件に加え、バイアウト投資や事業承継案件にも着手しました。在京ファンドやM&Aアドバイザー企業といった外部リソースとのネットワークを強化し、多方面から様々なアドバイスをもらいながら本格的なバイアウトファンドへと舵を切りました。現在もハンズオンをはじめ、投資手法の多様化によるさらなる進化に挑んでいます。また、地域金融機関からも出資していただくとともに研修などの受け入れにも取り組んでいます。
17年間で培ったファンド運営における4つのポイント
当社での取り組み・経験を踏まえて、ファンド運営におけるポイントを4つにまとめました。
まず、投資家集めに苦戦しているようではファンド本来のミッションである投資が進まないため、有力投資家の安定確保は重要な要素です。銀行グループの投資専門子会社の場合は、こちらは銀行が100%カバーするところかと思います。
次に、パイプライン、すなわち投資候補先についての情報です。FCPではFFGに加えて、LP出資者や在京のPEファンド、外部のM&Aブティックとも幅広く連携しています。まずは銀行が中心となって投資先を探していますが、事業そのものをしっかり見なければならないと考えております。
エクイティ投資では事業に対して責任を持ちますから、優秀な人材の確保・育成は不可欠です。前段と重なりますけれども、エクイティ投資は融資とはまったく違うため、優秀な銀行員が優秀な投資家とは限りません。
FCPでは、私が部長をしている株式会社福岡銀行 産業金融部のメンバーのうち、事業そのものにスポットをあてられる人材を送り込んで、外部からのプロ人材との協業や、在京ファンドとの共同投資を通じて、経験を積んでもらっています。
最後になりますが、銀行だけでできることは限られているため、外部の力を利用・活用することはマストだと思います。不良債権処理・事業再生中心の時代から20年以上かけて培ってきた士業とのつながりはもちろん、在京ファンドをはじめとした様々な関係先からの情報をフルに活用して、ファンド運営に取り組むことを意識しています。
出資規制緩和後の環境変化とFFGの取り組み
2019年10月の銀行法施行規則の改正によって出資規制が一部緩和されたことで、銀行をはじめとする金融機関を取り巻く環境は大きく変化してきました。それに伴い、銀行ではどのようなビジネスチャンスが生まれ、そこでどういった役割を果たしていくべきなのか。私どもの考えと打ち手をご紹介します。
出資規制緩和が広げた、銀行のファンドビジネス
5%ルール(*1)に縛られてきた銀行にとって出資規制緩和は画期的な出来事でした。特に、投資専門子会社を通じた投資の場合、100%投資した先であっても子会社化する必要がなくなったことにより、活用次第で大きなビジネスチャンスを得られるきっかけになったといえます。
実際、2019年10月の改正以降、多くの銀行が投資専門子会社を設立しています。FFGもFCPの存在を踏まえ、2021年4月に投資専門子会社として株式会社FFG成長投資(以下、FFG成長投資)を設立しました。FFG成長投資の投資先には、小規模案件はもちろん、これまで債務超過等で企業価値が乏しく、M&Aの対象にならなかった企業も含まれます。また、バイアウト投資(バリューアップ投資)に力を入れている FCPの対象からは少し外れてしまう会社を支援するためのFFG成長投資でありたいとも考えています。
*1:銀行およびその子会社がほかの国内会社(一部金融業者を除く)の議決権を合算して5%を超えて取得・保有することを禁じたルールのこと
FFGが投資専門子会社を通じて果たすべき役割
ここからはFFGが投資専門子会社を通じて果たすべき役割について、私どもの考えをお伝えします。
前提条件として、取引先はもちろん、地域の事業者に対してソリューションを提供することが金融機関の役割です。つまり、事業に必要なヒト・モノ・カネのすべてを、私たち銀行で提供できることが理想なのではないでしょうか。
ここで一度、FFG成長投資のビジネスモデルを俯瞰してみます。
まず、ソーシング時点では「需要の惹起(じゃっき)」がキーワードになります。例えばキャッシュフローはなんとかなっているものの債務超過の企業があったとしましょう。この場合、一般的には企業価値がないとみなされますが、キャッシュが入ってきているので事業価値はあるはずです。そこでFFG成長投資が引き受けて負債を整理することでバランスシートが改善し、企業価値がある企業としてまた歩み出すことができます。
この一連の流れを「需要の惹起(じゃっき)」といい、苦戦している企業の入り口を整理したうえでさらなる成長が見込める相手にバトンタッチをしていく、すなわち“つなぎのつなぎ”としての役目を果たし、バトンを引き継いだFCPがハンズオンにより成長戦略を実行していく。このようなビジネスルーティンができることがFFGにとっての理想です。そのためにも引き続き投資人材の育成に力を入れていきたいと思っています。
エクイティビジネスで地域活性化を目指す
最後に、エクイティビジネスで地域活性化を目指すうえで私たちが考えていることをお伝えします。
地域経済の活性化に、私たち地域金融機関のエクイティビジネスは不可欠だと考えています。現在、私たちは人口減少や高齢化、デジタル化、そしてコロナ禍の影響など、ますます厳しい状況に直面しており、乗り越えなければならないハードルがたくさんあります。
こういった中で、地域金融機関が融資にとどまらず、投資・人材・情報の提供を行うことで、販売不振や後継者不在、人材不足といった問題を解決する手助けとなっていることは確かです。さらに、デジタル化の遅れが問題となっている中小企業の生産性向上や業務効率化、あるいは企業の統廃合にも寄与できるでしょう。
エクイティビジネスは、地域の持続可能な発展に役立ち、地域金融機関に新たなビジネスの機会をもたらします。これらのことを考慮すると、私たちはエクイティビジネスが地域経済の活性化に非常に役立つものであると信じています。
ここではエクイティビジネスの展開に向けて意識しておくべき考え方を6つ、取り上げてみました。
上記6項目の中で、「1.」については私たち銀行員が最も気を付けなければならない点であると考えています。エクイティビジネスは事業に責任を持つことであり、持続的な試みなくして成し得ないビジネスだからです。
「2.」~「4.」については、できることから始めることが将来の成果やノウハウの獲得につながると考えています。FFGを例に挙げれば、先にもお話しした通り、不良債権処理や事業再生で培ったノウハウを生かして対象企業にアプローチするほか、”つなぎのつなぎ”としてFCPをはじめとするファンドや事業承継会社にバトンを引き継いでいます。
「5.」「6.」に関しては、銀行でできることは限られているため、必要に応じて外部人材や外部専門家の力を借りることは欠かせません。
いずれにせよ、エクイティビジネスのターゲットは、非上場のオーナー企業いわゆるファミリービジネスです。投資にあたっては、精鋭部隊を結成するだけではなく、再生や事業承継のノウハウを磨き、ファミリービジネスを支えることが求められます。
産業構造が大きく変わろうとしている中で、私たちのエクイティビジネスが地域経済をより良い方向に導く原動力になると確信しています。