2023年2月17日にデロイト トーマツ主催の地域金融機関セミナーが開催されました。これからの地銀経営についての提言をいただいた基調講演に続き、第二部では地域や特徴の異なるファンドからお招きした3名の登壇者による、パネルディスカッションの様子をお届けします。

高前田 彰吾氏

株式会社QRインベストメント
投資事業部マネージングディレクター

2008年に北國銀行に入行し、個人・法人担当としてスタートした。2015年よりコンサルティング部門で、中小企業の事業承継支援やM&Aの仲介業務を歴任。2021年6月、事投資専門会社および業承継ファンド立ち上げを機に現在のQRインベストメントに所属し、現在はPE領域を中心に投資業務を行っている。

古市 大輔氏

百五みらい投資株式会社
マネージングディレクター(投資委員)

2004年百五銀行入行。三菱UFJ銀行ストラクチャードファイナンス部門への出向後、LBOファイナンスなどのアレンジメント業務に7年間従事。後半3年間はチームリーダーとしてチームを牽引した。当社設立の企画に関与し経営企画部を経て当社設立に伴い着任。投資からPMIまで一気通貫して対応し、投資先5社に社外取締役として関与。MBA(経営学修士)。

川添 勇樹氏

四国アライアンスキャピタル株式会社
取締役営業部長

2002年に四国銀行入行。営業店にて事業会社へのファイナンス業務に従事後、2016年より企画部門にて四国アライアンスの企画・推進を担当。四国アライアンスキャピタルの立ち上げに携わり、
2018年4月より同社へ出向。ファンドマネジャーとして投資およびハンズオンに従事し、2021年6月より、取締役営業部長として投資全般を統括。

奥野 哲平(ファシリテーター)

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
マネージングディレクター

国内銀行にて事業会社向けファイナンス・IBビジネス業務、大手証券会社へ出向しM&Aアドバイザリー業務に従事。会計系アドバイザリーファームを経て、独立系PEファンドのスタートアップに携わるなどした後、2019年11月より現職にて、主に国内ミドルキャップ案件を中心にM&Aアドバイザリー業務を提供中。

登壇各社のご紹介

株式会社QRインベストメント(QRI)

石川県の株式会社北國フィナンシャルホールディングスの子会社として、2021年6月に設立されました。2010年より銀行にて再生ファンドの運営を行っていましたが、会社設立を機にファンド立ち上げを進め、現在は企業のライフステージごとに5つのファンドを有しています。総額262億円の投資枠があります。

出所:株式会社QRインベストメントHPよりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

百五みらい投資株式会社(百五)

三重県の株式会社百五銀行の子会社として2019年12月に設立されました。事業承継ファンドとして、中小企業の目的意識、やる気、それらを共有する共同体意識を守り、強化することをモットーとしています。30億円規模のファンドを2つ運営しています。

出所:百五みらい投資株式会社作成

四国アライアンスキャピタル株式会社(SAC)

四国を地盤とする4行(株式会社阿波銀行、株式会社百十四銀行、株式会社伊予銀行、株式会社四国銀行)の出資で、2018年1月に設立されました。事業承継ファンドは現在2号ファンドでの投資を進めており、これまでに19社に投資してきました。

出所:四国アライアンスキャピタル株式会社作成

ファンド運営の現在地と課題

ここからは各ファンドにて取り組まれていること、抱えている課題について、テーマごとにお届けします。

・ファンドのコンセプト
・銀行のM&Aチームとの協力体制
・ファンド人材の育成
・投資案件の発掘(ソーシング)
・投資中のサポートと出口戦略

ファンドのコンセプト

本日ご登壇のみなさまは、地域金融機関のファンドということで、民間のプライベート・エクイティ・ファンドのように投資収益ありきで活動していらっしゃるのとは違う面もあるのではないかと考えています。ファンドコンセプトとそれを進めるにあたっての難しさや課題をお聞かせください。

はじめは銀行グループのある石川県を中心とした投資を考えていましたが、途中から地域や業種、企業のライフステージを限定しない方針にシフトしました。一番規模の大きいQRファンドで幅広い地域、幅広いライフステージの企業への投資に取り組んでいます。

難しさという点では投資案件の発掘(ソーシング)ですね。グループ会社でコンサルティングをやっている株式会社CCイノベーションのM&Aチームから事業承継案件を紹介してもらうことを想定していたのですが、実際はかなり少なかったので、ソーシング強化の必要性を感じています。

私どものコンセプトはQRIさんと非常に似ており、地域にとらわれない事業承継に力を入れています。

当ファンドではLBO(*1)を基本としているのですが、その資金を親会社の百五銀行から調達するときに利益相反となってしまうケースがあり、そういった調整が難しいですね。

*1:レバレッジドバイアウト。企業を買収する際に、買収先のキャッシュフローや信用力を担保にして銀行などから資金調達する手法のこと

当ファンドは特に4行の地盤である四国地域において、事業承継の問題でヒトも企業も減っていく状況を何とかしたいという強い思いが基になって創設されました。

4つの銀行が等しく出資していますが、各県の主要産業も違いますし、各行がファンドを通じて大事にしたいことも多少ニュアンスが異なる部分もあるので、それぞれの意見を調整しながら運営していく難しさを感じています。

ありがとうございます。ファンドを立ち上げるタイミングで、コンセプトを明確にし、その通りに運営していくことが重要だと感じました。

銀行M&Aチームとの協力体制

銀行のM&Aチームと一緒に業務を進める機会も多いと思います。彼らとどのように関わっていらっしゃるのか、教えてください。

M&Aチームが取り組む事業承継では、家族、従業員、第三者などいろいろな引継ぎ先が考えられます。第三者に引き継ぐことになったときに、買い手候補のひとつとして当ファンドを入れてもらうような、フラットな形で進めています。

そうですね。当社の設立から3年が経って、ようやく、銀行のM&Aチームと同じ目線で取り組めるようになってきました。しかしその一方で、こちらのリソースが足りず、案件の入口段階から一緒に入り込めていないところが課題かなと思います。

私どもは銀行の支店のあるエリアの企業様を投資対象としていますが、特に四国地方を中心に取り組んでいることもあり、「いきなりM&Aはちょっと・・・」などと抵抗を感じるお客さまが多くいらっしゃいます。銀行のM&Aチームや事業承継チームとは、そんなお客さまに対して、2段階M&A(*2)の橋渡し役として当ファンドをご紹介してもらえるよう、日々コミュニケーションをとっています。

*2:事業承継M&Aにあたり、一段階目として経営権の一部をファンドなどに売却したうえで経営への関与は継続し、ファンドなどが第三者へ売却などする際に残りの経営権を譲渡する手法

ファンド人材の育成

銀行グループ内部のコミュニケーションについてお話しいただいたところと関連して、人材育成についても教えてください。

銀行員としてのキャリアを積んできた方が、ファンドのメンバーとしてエクイティ投資を行うとなるとまた別のスキルが必要になるのではないかと思います。人材育成について意識して取り組まれていることがあればお聞かせください。

私はデロイトさんに短期間出向し、ビジネスデューディリジェンス(*3)を勉強しました。ほかのメンバーは全員が銀行の出身者ということもあり、私が学んだことを伝えながら、日々の業務の中で必要な知識を学んでいます。今後は知識と経験を持った方を外部から採用することも検討していきたいです。

*3:M&Aの対象会社の将来の可能性とリスクを把握し、事業計画の実現可能性の分析を行うこと

私どももQRIさんと同じで、メンバー全員が銀行からの出向者です。エクイティ投資をやりたいという想いを持つメンバーが集まって、創業時からいままでたくさんの失敗をしてきました。これから入ってくるメンバーの育成については、企業分析などの基礎知識を身につけていることを前提としたうえで、現場で実戦経験を積むというのがひとつの答えではないかと考えています。基礎知識を身に着けてもらうために、QRIさんのように出向を活用することも検討したいです。

銀行の営業店にいた人がいきなりファンド業務を行うのは、かなりハードルが高いのではないかと思います。そのため、当社には、専業のPEファンドに出向し経験を積んでから着任しているメンバーが複数名おります。出向を通じて、ファンド投資の基礎を学び、業界の雰囲気を体感するとともに、人的ネットワークの形成にも繋がると思います。QRIさん、百五さんと同じく、基礎を学んだ後は実践あるのみですね。

投資案件の発掘(ソーシング)

案件の発掘という観点でも、銀行の融資とファンド投資は異なる点が多いのではないかと思います。自社案件と外部案件のバランスや、案件化するまでに工夫している点をお聞かせください。

地方はファンドに馴染みのないお客様も多いので、銀行のM&Aチームと一緒に、選択肢のひとつとしてファンドをご紹介することから始めています。外部からの紹介案件についても今後増やしていきたいです。

私どもは、外部からの紹介・協業案件が全体の9割、残り1割が銀行グループ内からの紹介ですね。前者はできあがった案件なのでスピーディーですが、後者はお客さまのところに一緒に訪問するところから始めるので非常に時間がかかります。結果として9:1ぐらいの割合になっています。

私どもは百五さんの反対で、銀行グループ内からの紹介が9割ですね。はじめは営業店も慣れておらず、案件化が難しいものが多かったのですが、銀行の事業承継チームやM&Aチームとミーティングを重ねる中で銀行サイドにも知見がたまり、最近では質の高い案件が来るようになってきました。

それぞれのファンドで進め方が異なっていて、非常に興味深いですね。

投資中のサポートと出口戦略

次が最後の質問です。投資後の話になりますけれども、投資先の企業価値向上のためにできるサポートとして、どのようなアピールをしているのか、また投資の出口戦略についてお聞かせください。

CCイノベーションと一緒に、お客さまの課題を深堀りしたうえで、ガバナンス体制の構築や利益改善などを行っています。経営人材の循環をしていきたいので、まずはMBO(*4)で株式をお戻しする、難しければM&A、IPOといった順で検討しています。

*4:企業における従業員や経営陣が自社の株式や一部の事業部門や事業部門の一部を買収して買い取って、経営権を取得独立すること

身近な存在の銀行という立場を生かして、事業承継についてのお悩みをお客さまから引き出し、寄り添いながら、目指す姿に向かっていけることが当ファンドの強みだと考えています。投資をおこなった後は、会社のコンセプトにマッチする後継人材を一緒に検討し、彼らを中心に、会社自身で事業計画を描いていくことが多いです。

投資スキームにもよりますが、特にMBOの場合、時間やコストを惜しまずに人材育成や採用に力を入れるなど、後継者が事業を引き継ぎやすい仕組みづくりを心がけています。その反面、コスト増で一時的に利益が減少し、企業価値が上がりづらい面もありますが、中長期的な目線を持ち、できることを愚直にやっていく、会社の将来にとって何が必要かを常に意識して、それを実践することが重要だと考えています。

ファンド投資は地域・企業にとって価値ある事業

本日は貴重なお話をありがとうございました。最後にこれからのファンド運営に懸ける想いをお願いします。

当社パートナーの的場のコメントを紹介します。

ブランド理念として、『世のため人のために我々は存在し、人々の生活をよりよいものにする。よりよい社会のために活動する』と掲げています。投資活動を通じて地域の質と価値向上に大きく貢献するために日々活動していきます。

地域にとってなくてはならない会社の株式をお預かりし、属人化しているものを組織化したうえで承継していくことは非常に価値のある仕事だと感じています。三重県の銀行グループですが、地域にとらわれることない活動を続けていき、その中で得られた新たな知見や気付きを地元に還元したいです。

事業承継は本当に難しいと日々痛感していますが、ファンドを通じて企業の経営そのものに直に触れることは、銀行にとっても企業の本質を見極める力を鍛える貴重な体験であり、お客さまにも喜ばれる大変意義のある事業だと感じています。3号ファンド、4号ファンドと投資を続けていけるよう業務に邁進していきたいと思います。