日本経済、不健康に上振れ――コロナ前超えも先行きは不透明
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
増島 雄樹
日本経済は悲願のパンデミック前のピーク超えを果たしました。円安を背景にしたインバウンド(訪日外国人)による下支えが効いた格好です。ただ、その変化をつぶさに見ると依然、政府支出と外需がけん引しており、決して筋肉質な成長とはいえません。今後は、海外経済が景気後退・減速する中、輸出の減少や物価上昇下での日用品の買い控えのリスクもあり、緩やかに景気が減速し、リスクが上下にある不透明な状態が続きそうです。
目次
日本の実質国内総生産(GDP)はコロナ前超え
内閣府から8月15日に公表された2023年4~6月期の実質GDP成長率は前期比年率+6.0%と、事前の市場予想(前期比年率+2.9%、筆者予想:同+3.7%)を大きく上回り、前期の伸び率(+3.7%)から加速しました。その結果、日本の実質GDPの水準は過去のピークの557.4兆円(2019年7~9月期)を超え、560.7兆円に達しました。米欧経済がいち早くコロナ前の水準に達していた中で、パンデミックの日本経済への負の影響は一区切りついたといえそうです。
ただ、その回復の経路は、まだ持続可能なものというには距離があります。2023年4~6月期のGDPがコロナ前ピークの水準対比で0.6%拡大している一方で、国内の民間需要は大きく縮小しています(家計消費-2.9%、住宅投資-10.2%、設備投資-1.9%)。経済の拡大に寄与しているのは政府支出(+7.1%)と輸出(+5.4%)で、内需が成長のエンジンになっている訳では必ずしもありません。
GDP成長率(需要項目別)の推移――輸入減少が23年4~6月期を押し上げた
今回発表のGDP成長率の事前予想の上振れ要因は、外需の増加(輸出の増加と輸入の大幅減少)と在庫の減少が限られたことにあり、家計消費や企業の設備投資は事前予想を大きく下回り、コロナ前からの日本の不健康な成長をそのまま引き継いでいます。住宅投資が3四半期連続で拡大なのは好材料ですが、日本銀行のイールドカーブコントロールの柔軟化で長期金利が上昇したことがどう影響するかに注意が必要です。
また、日本の最大の輸出先である中国の減速は懸念材料となります。7月の工業生産、小売売上高、固定資産投資は事前予想を下回り、中国人民銀行は、中期貸出制度(MLF)の1年物金利をサプライズ引き下げ(2.65%→2.5%)しました(8/15公表)。中国人の団体旅行が日本向けも解禁となったのは朗報ですが(8/10公表)、中国国内景気の悪化でインバウンドへのプラス効果はある程度相殺される可能性があるでしょう。
国内家計最終消費支出の動向――サービス消費は減速だが賃上げの期待も
今回、縮小した実質家計消費の主犯人は、日用品が多く含まれる非耐久財消費のマイナスと観光需要に沸くサービス消費の減速です。物価上昇がブレーキとなってきています。ただ、サービス価格の上昇は光熱費の上昇だけでなく、賃金の上昇を反映している側面もあり、実質サービス消費が拡大している限りは必ずしもマイナス材料とはいえないかもしれません。
日本経済の見通し
今回のGDPの公表値の上振れを受けて、2023年度の実質GDP成長率の見通しを前年比+1.9%(7月末時点で+1.0%)に上方改定、24年度は+1.0%(7月末時点で+1.2%)に引き下げました。見通しには中国経済の減速は織り込んでいる一方、米国経済は深い景気後退には陥らないとの前提を置いていますが、中国の不況が米国経済に波及するほど深刻な事態になれば、23年度の成長率は下振れする可能性がある一方、米国経済が軟着陸するのであれば若干上振れし、上下にリスクのある先行き不透明な状況が続くと見込んでいます。