円安を背景にインバウンドの増加と日本人の海外旅行の手控えで、国内観光需要が回復しています。2023年のプラス効果は前年比でGDPの0.5%になると見込まれます。

2つのエンジンが日本経済を下支え

円安や内外のインフレ格差を背景に、インバウンド(訪日外国人)の増加で観光需要が回復しています。2023年4~6月期のインバウンド消費はすでにパンデミック前の95%の水準に達しています。国内の観光需要を支えるもう1つのエンジンは、日本人の海外旅行の手控えです。インバウンド拡大とアウトバウンド(日本人出国者)の伸び悩みの合わせ技による、2023年の日本経済への押し上げ額は、前年比でGDP(国内総生産)の0.5%に達すると見込んでいます。

日本の旅行収支はコロナ前超え
出所:ブルームバーグデータよりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

変遷する訪日外国人消費

気になるのはインバウンド回復の持続性です。米国・カナダや一部のアジア新興国を中心に、年末までには訪日外国人旅行消費額は19年の水準は超えてくると見込まれます。

実際、訪日米国人の旅行消費の伸びは著しく、2023年4~6月期の消費額は1,733億円と2019年4~6月期の倍額(旅行者数は約2割増)で、2019年通年の3,228億円の5割以上で、円安と日米のインフレ格差以上の大きな伸びとなっています。

コロナ前からの大きなトレンドの変化としては、お土産などのモノ消費から滞在・体験などのコト消費に、また、東京や大阪といった大都市から自然や文化のある地方へと消費の裾野の広がりが挙げられます。コト消費が、観光需要の持続性を高めている一方で、お土産を大量に販売したり、大箱のホテルに団体客を詰め込んだりといった手法による伸びは今後は期待できなくなりそうです。

日本人の出国者数は伸び悩みが国内観光にはプラスに
出所:ブルームバーグデータよりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

下振れリスクもあります。日銀の政策修正や米連銀の利上げの打ち止め・引き下げで24年にかけて円高リスクが高まり追い風の1つが止む可能性があること、日本向け団体・ツアー旅行をまだ解禁しおらず成長も鈍化している中国からの観光客の消費額はまだコロナ前の3割程度で、今後の急回復を望めないことには留意が必要となりそうです。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

増島 雄樹 / Masujima Yuki

マネージングディレクター・プリンシパルエコノミスト

外為トレーダーとしてキャリアをスタート。世界銀行、日本銀行、日本経済研究センター主任研究員、ブルームバーグシニアエコノミストを経て、2023年4月より現職。マクロ経済予測・費用便益分析・政策提言を中心に、エコノミクス・サービスを提供。為替に関する論文・著書多数。2018年度 ESPフォーキャスト調査・優秀フォーキャスター賞を受賞。博士(国際経済・金融)。