地方にとって若者が都会に流出して戻ってこないという悩みは常態化しています。この課題解決のため、愛媛県四国中央市では「若者が帰りたくなる四国中央市を創る」をテーマに掲げたシティプロモーションを展開しており、2023年3月5日、そのキックオフイベントとして高校生を主役とした「18っ祭!」を開催します。
若者の地方回帰策の実現に向けて試行錯誤する現場の声を紹介するシリーズの第1回目として、本プロジェクトに企画立案から携わるデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)の担当者にこの取り組みの目的やポイント、「18っ祭!」で関わった若者たちとの交流などについて聞きました。

長谷川 知栄

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
シニアヴァイスプレジデント

三次元CAD関連企業、外資系コンサルティングファームを経てデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。営業支援・CIO支援などの組織や業務に係る支援、新産業創出・業界再編などの行政案件、M&A戦略・実行に係る支援、海外進出・JV設立支援、知財戦略に係る支援などに従事。直近ではCIA社との連携をはじめ、ブランディング業務に従事。ブランディングアドバイザリー。

林 太郎

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
シニアアナリスト

日仏両国を主軸に事業コーディネーターとして多種多様な事業サポート経験を経てデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。事業立ち上げやライセンス契約、イベントや撮影企画にまつわる初期段階でのプロダクト戦略、ロードマップおよび事業計画策定など、多岐にわたる分野に参画。フランスにて15年、およびメキシコ、ブラジル、タイでのビジネス経験を保有。ブランディングアドバイザリー。

「選ばれる市」を目指して社会課題に向き合う

――どのような経緯で本プロジェクトに携わることになったのかお聞かせください。

長谷川:愛媛県四国中央市には、2023年度からシティプロモーションに取り組む構想がありました。日本では、人口減少および少子高齢化などの人口問題が急速に進展し、その結果、市民生活の活力低下や地域経済などへ影響が生じる、といった全国共通の問題があります。同様の問題に直面している四国中央市では、様々な分野で人々に「選ばれる市」となることで、持続可能なまちづくりを目指しています。

こうした市の職員の方々の本件にかける熱い想いを受けて、今回のプロジェクトがスタートしました。アイデアベースからクライアントと関わり、企画を走らせ、右脳と左脳をフル活用して社会課題に取り組むといったスタイルは、DTFAとしてはかなり珍しい事業です。

当初、「紙の生産日本一」である四国中央市の特色を生かして「包む」をテーマに紙を活用したアイデアを立案しました。巨大な水引のオブジェや産地との横連携など、地元が誇る紙産業をシティプロモーションに組み込むのはどうかなど、様々な角度から10年以上先の未来を見据えたまちづくりのアイデアを提案していきました。

そんな市との話し合いの中で、四国中央市には大学がないことも「選ばれる市」の実現においてネックになっていることに気付きました。子どもたちは高校を卒業すると地元で就職するか、就職や大学進学のために市外に出るか、といった選択を迫られます。そのため、若者にとって「18歳」が大きな起点になっているのです。

18周年を迎えた四国中央市と18歳新成人

――「18歳」というキーワードから、どのようにシティプロモーションのアイデアを広げていったのでしょうか。

林:2022年は四国中央市の誕生から「18周年」でもあり、新成人「18歳」を中心とした市民に、未来を実現する「18」の約束事をつくるワークショップを開催しました。まず、シティプロモーションの第一歩として、参加者には、まちの未来像をイラストにする“Vision Map”につながるイメージの言葉を思い描いてもらい、将来のイメージの共通意識を認知・育むところから始めました。

皆さんとのディスカッションを重ねる中で、市民の将来のイメージを俯瞰した形として提示するためには、市内だけではなく広く国内のアーティストにも参加を求め、クリエイティブの面から参加していただく方向性が定まりました。こうした背景で、高校生たちとアーティストが融合したイベントのアイデアがまとまっていきました。

――高校生たちをイベントに巻き込むスタイルはどのように発展したのでしょうか。

長谷川:当初、四国中央市の新成人「18周年」も踏まえ、「18」をテーマにして、新成人「18歳」の高校生も参加する成人式でのイベントを企画していました。しかし、コロナ禍の影響などによって、成人式での高校生のイベントを開催する案の実現が難しくなりました。そこで、18歳を主役にした別のイベントを立ち上げてはどうかという流れで動き出しました。

参加する高校生たちは、先程の“Vision Map”のワークショップに参加して、四国中央市の将来像を描いていた高校生を中心に呼び掛けました。さらに、林さんは、市内で偶然出会った高校生を呼び込むといった凄技を見せてくれました。

林:市内を散策しているとき、観光名所の城跡で学生らしき人たちが広場の掃き掃除をしていました。私服で年齢層もバラバラ。その様子が気になったので、そばで監督していた大人の方に尋ねると「通信制高校の課外授業なんです」と教えてくれました。そこで私たちが高校生のイベントの立ち上げで動いていることを伝えて、参加の協力を取り付けた、という訳です。

様々な背景を持つ若者たちだからこそ、実は誰よりも行動力があったり信念があったり、そんな彼らも交え地元の魅力を発信することは、今回のイベントの趣旨に沿ったものでもあり、四国中央市のシティプロモーションにとってもプラスになると考えています。

――市内の高校生と実際に触れ合った印象はいかがですか。

林:高校生主体で、行政や地元の大人たちを巻き込み開催するイベント自体が初めてであることもあり、高校生たちは「ちょっと楽しいことをしてみたいな」「でもやる以上はしっかりやらなきゃ」という気楽でありながら程よい緊張感も併せ持ったスタンスで参加していると思います。

当初から折に触れて「今回は初めて尽くしで失敗するかもしれない、うまくいかないかもしれない。だからこそチャレンジしてほしいし、来年、再来年と後輩たちにバトンを渡して、つなげていって欲しい」「自分たちが立ち上げたイベントが起点となって、後輩たちや自分の子どもが暮らしやすい素敵な四国中央市に変わっていく姿を想像してみて」と、とにかく想像することを大切にしようと伝えてきました。

地域の理解と高校生の熱意で実現するまちづくりの一歩

――高校生に加えて、地域の反応や、地元の理解を得る過程で苦労した点はありますか。

林:地元を歩きたずねて回ったところ、新しいイベントに好意的な印象があります。ただ、地元では、新しい企画を考えてお祭りごとをやるのは大好きな一方で、継続していくことにハードルがあるとも伺いました。「熱しやすく冷めやすい」のがこの地域の特徴だといった話も印象的でした。

今回のシティプロモーションでは、高校生や若者が主体となってイベントを運営して、大学進学などで一度市外に出てしまうのは仕方ないとしても、卒業後に戻って来たくなるような空気を醸成していくことに意味があると説明しました。地元の方たちも課題と感じている点であり、協力していきたいと理解を示していただきました。

また、四国中央市は紙産業が基幹産業となっていることもあって、大企業と地元企業の関係性のバランスを見ながら推進していく姿勢が大切です。ただ、「18歳」をテーマに持続可能なまちづくりをスタートするためには、最初から企業に協力を持ちかけて広げていくのではなく、現地を歩き回り、地に足を着けた活動を通して高校生にフォーカスしていくスタイルが良いと思っています。我々が「東京」からやって来た、ということで抵抗を感じることも少なからずあったはずですが、若者の行動が少しずつ地域に広がって今年よりは来年、さらに再来年とイベントの認知度、また若者が本来持つポテンシャルを開花する機運が高まっていくと期待しています。

――最後に、今回の「18っ祭!」について、ひと言お願いします。

長谷川:私たちは、主役である高校生が自由に活動できるよう、根回しや地ならしに最善を尽くしました。四国中央市側の担当者の方々も、魅力あるまちづくりに対して熱い想いを持ち、非常に献身的に本件に関与しています。公的機関として最大限高校生や地域をサポートしています。地元の方々も、高校生たちの本件に取り組む姿を見て、賛同して、協力の輪が広がっています。

高校生が輝くために、そして四国中央市の「持続可能なまちづくり」の新たなスタートとして3月5日の「18っ祭!」をぜひ成功させたいと思います。

■18っ祭 TEENAGE EMOTION 開催概要

開催日時:2023年3月5日(日)10:00~16:00
会場:四国中央市役所 周辺エリア
・四国中央市役所
・市民交流棟
・愛媛銀行三島支店・愛媛信用金庫三島支店駐車場
・四国中央テレビ
URL:https://www.city.shikokuchuo.ehime.jp/soshiki/3/33198.html

次回は、イベント当日の模様をレポートする記事をお届けします。

DTFA Times編集部