株式会社シー・アイ・エー(以下、CIA)は「未来のあるべき姿を描き、想像し、クリエイティブに社会に貢献する」をモットーに事業を展開しているブランド・コンサルティング会社です。今回は、CIAのファウンダーであるシー ユー チェンと代表取締役社長の江島成佳が過去のプロジェクトでその手腕を頼った株式会社SciFunxion(以下、サイファンクション)代表取締役の岡田 光氏を招き、ホスピタリティ含むツーリズム業界の現状や岡田氏の仕事観などについて語り合いました。
岡田 光氏
株式会社SciFunxion
代表取締役
ヒルトン、ハイアット、ペニンシュラなどの外資系ホテルでのセールス&マーケティング経験を経て、2003年トランジットジェネラルオフィスに入社、常務執行役員兼CCOとして、ホテル、旅館、レストラン、レジデンス、オフィス、スパ、鉄道、宇宙観光、環境教育、地域再生案件などの、ブランディング、クリエイティブディレクション、プロジェクトマネージメント業務の統括を10年以上担当。2022年独立し、アート&サイエンス関連のコンサルティングを専門にした株式会社SciFunxionを設立、同社代表取締役。同年、任天堂創業家山内家のファミリーオフィス「Yamauchi- No.10 Family Office」Business Incubation部門のManaging Directorに就任。その他、環境教育会社「株式会社BIG EYE COMPANY」の取締役も兼任。
シー ユー チェン
株式会社シー・アイ・エー
ファウンダー&エグゼクティブ・アドバイザー
40年近い実績があるブランドコンサルティング会社、株式会社シー・アイ・エーの創業者。“Japan Branding”を提唱し、新業態・ブランドの原型を提案するなど、数多くの会社のブランディングを支援、提供している。また、Innovation Prototypingを通して改善プロセスを実践し、成功率を高めている。東京建築士会住宅建築賞受賞。著書に、『インプレサリオ』(ダイヤモンド社、2005年)がある。
江島 成佳
株式会社シー・アイ・エー
代表取締役社長
ブランディングのコンセプト開発・企画立案からトータルディレクションおよびマネジメントの実行責任者を歴任。金融、IT、不動産、自動車メーカー、運輸、病院、教育、流通・小売業、飲食業など幅広い業種のブランディングに従事。VI開発やプロダクト、サービス開発、空間設計、コミュニケーション施策なども手掛ける。2021年5月より株式会社シー・アイ・エー代表取締役社長に就任。
日本のツーリズム業界にはポテンシャルはある。一方、課題は二次交通の整備
江島
岡田さんはパークハイアット東京やザ・ペニンシュラ東京などの外資系ホテルでセールス・マーケティング業務に従事したあと、株式会社トランジットジェネラルオフィスに入社し、ホテルや旅館、レストラン、鉄道、宇宙観光など多様な領域におけるブランディングやプロジェクトマネージメント業務を経験されてきました。ツーリズムの世界を歩んできた岡田さんから見て、ホスピタリティを含むツーリズム業界の現状をどのように感じておられますか。
岡田
ツーリズム業界のホテル領域については、私がホテリエとして働いていた20から30年ほど前の、独立系のホテルが林立していた頃とは大きく様子が異なりました。具体的には、航空業界と同様に、ホテル間のネットワークを構築する「アライアンス」および顧客の囲い込みを図る「ロイヤリティプログラム」の導入がホテル領域でも進んでいます。つまり、ホテルのチェーン店化が進行しているんですね。そのため、価格もコントロールされており、利用者目線では、穴場ホテルを見付ける楽しみは減ってしまいました。
また旅行領域では、旅行形態が団体旅行から個人旅行へ、旅行の目的が観光自体を楽しむことから特定の場所に行き「写真を撮って投稿すること」にシフトしています。
江島
ツーリズム業界を取り巻く環境は大きく変化しているのですね。では、日本のツーリズム業界にはどのような変化が求められているのでしょうか。
岡田
地方の小規模、中規模都市の主要駅からの「二次交通の整備」は必須でしょう。日本では二次交通が十分に整備されておらず、電車でのアクセスが容易な東京・京都には観光客が集まりますが、二次交通の乏しい地方へはなかなか観光客の足は向きません。
またホテル領域に限ると、日系ホテルは海外外資のホテルと比べて、「従業員人の流動性が少ない」傾向があり、それも課題です。
ホスピタリティは、出会うお客様によって磨かれます。一方、従業員の流動性が少なく、ほかのホテルで働いた経験に乏しい環境にいるホテリエは、多様なお客様に磨かれる機会も相対的に少なくなってしまいます。多様なお客様と出会い、高いホスピタリティを持つホテリエの数を増やすためにも、流動性を高めることが大切だと考えます。
チェン
日本のツーリズムの展望についてはどのような所感を持たれていますか。
岡田
課題はありつつも、ポテンシャルはあるとは思います。その証左に、第二次安倍政権が観光立国の実現に注力し始めた2014年からコロナ禍前までの観光客数は、順調に増加していました。背景には治安の良さ、公共交通機関の定時運行やコストパフォーマンスに加え、日本のPRの成果もあったのでしょう。
コロナ禍であっても治安が悪化しなかったことについては、国際的に高い評価を受けています。さらに日系のホテルに限れば、「立地の良さ」が大きな強みです。その強みを生かし、課題の「二次交通の整備」も進めることができれば、日本のツーリズム業界躍進のチャンスも広がるのではないでしょうか。
人生は有限。だからこそ、時間貧乏からの脱却が大切
江島
現在、ツーリズム業界が変化していることがよくわかりました。そんな変化の激しい業界で活躍されている岡田さんご自身の変化は何かありましたか。
岡田
これまで忙しく働いてきたこともあり、自分の中で「時間が何より大切である」というマインドチェンジはありましたね。言い換えると、「時間貧乏からの脱却」を目指すようになりました。
人はいつか必ず死を迎えてしまいます。だからこそ、時間の使い方を大切に、仕事だけでなく、プライベートにも時間を使い、幸せな時間の割合を増やしていきたいと考えています。そのため、ビジネスについても、“自分にとってパーパスとパッションが見つかる内容”に限ってやっています。
チェン
僕くらいの年齢になると、時間の大切さが身に沁みてわかります。「幸せな時間を増やすことが、一番豊かなこと」なんですよね。
ビジネスについて、岡田さんは現在どのようなことをやられているのでしょうか?
岡田
任天堂創業家である山内家のファミリーオフィス「Yamauchi-No.10 Family Office」では、ビジネスをインキュベーションする「Business Incubation部門」の責任者をしています。同オフィスの、短期的な利益だけを追求するのではなく、社会貢献性や志、チャレンジングマインドも重視して長期投資を行う姿勢にはすごく共感できます。
また、2022年3月に独立して立ち上げたサイファンクションでは、環境課題解決コミュニティーのブランディング&デザインのコンサルティングをさせていただいています。クライアントもパーパスを同じくした、好きな方および組織に絞ってお仕事をうけさせていただいております。
パーパスが同じ人と仕事がしたい
チェン
岡田さんの事業内容や社会貢献性およびパーパスに重きを置く姿勢から、“パーパスドリブンインキュベーター”というキーワードが浮かびました。
岡田
そうですね、まずパーパスドリブンはすごく重視しています。極端な話ですが、例えばパーパスを同じくするクライアントであれば、報酬をいただかずにボランティアをしても構わないとさえ思っています。
またインキュベーターについても、例えば、実際に昨今騒がれているフードクライシス(食糧危機)領域において、企業同士のマッチングを手掛けたこともありました。人と人、もしくは組織同士を繋いでサポートする、その意味でインキュベーターという表現も当たっていますね。
チェン
やはり岡田さんはパーパスドリブンインキュベーターですね。今の時代、パーパスを重視した、「パーパスがあればお金はあとからついてくる」というスタンスはすごく重要です。我々CIAが手掛けるブランディング領域も「面白いからやろう、お金はあとからついてくる」と言って始めたプロジェクトは全部成功しているんです。その意味で岡田さんのスタンスは素晴らしいと思います。
岡田
生きていくために最低限のお金は必要ですが、私は特に富豪になりたいわけではありません。「パーパスやパッションが合う人と、少しでも社会に役に立つ仕事をして、そこそこのお金をいただければ嬉しい」、現在はそんなスタンスで仕事に臨んでいます。そうして、自分にとって幸せな時間を増やしていけたら良いなと思っています。
江島
ツーリズム業界の現状や展望のお話だけでなく、我々CIAも重視している「パーパスを大切にする働き方」の実践についてお聞きことができ、時間貧乏からの脱却を目指す私としてはとても参考になりました。本日はありがとうございました。