ミッションに「社会の変換点を生み出し、前進する未来を創造する。」を掲げ、ブランディングやコンサルティングを手掛ける株式会社シー・アイ・エー(以下、CIA)。同社は“企業やブランドのDNAは何か”を徹底的に掘り下げ、アウトプットに落とし込むことをモットーにしています。
今回は、そんなCIAのファウンダー シー ユー チェンと15年以上の付き合いがあるデザインスタジオ「CRÈME(クレム)」の創業者、相崎 準氏を招き、鼎談を実施。同氏が手掛けたプロジェクトをベースに、相崎氏のデザイン論をひもときます。
目次
相崎 準氏
CRÈME
ファウンダー、建築家
ブルックリンにあるデザインスタジオ、CRÈMEの創業者。多様なバックグラウンドを持つクリエイターとともに、レストラン、家具デザイン、ホテル、ブランディングなど多様な領域のプロジェクトをグローバルに展開。直近ではScarpetta Tokyo(スカルペッタ東京)やDeloitte Tohmatsu Innovation Park(デロイト トーマツ イノベーションパーク)のデザインも手掛ける。受賞歴は、2021年インテリアデザインベストオブイヤー賞(ブランディング部門)、Midscale Hotel Guestrooms(中規模ホテル客室部門)ゴールドキー賞、Gourd Project (Dezeen Awards Sustainable Design of the year および Interior Design's NYCxDesign awards ファイナリスト)、Timber Bridge Project (NYCxDesign 2018 大賞)ほか。
シー ユー チェン
株式会社シー・アイ・エー
ファウンダー&エグゼクティブ・アドバイザー
40年近い実績があるブランドコンサルティング会社、株式会社シー・アイ・エーの創業者。“Japan Branding”を提唱し、新業態・ブランドの原型を提案するなど、数多くの会社のブランディングを支援、提供している。また、Innovation Prototypingを通して改善プロセスを実践し、成功率を高めている。東京建築士会住宅建築賞受賞。著書に、『インプレサリオ』(ダイヤモンド社、2005年)がある。
江島 成佳
株式会社シー・アイ・エー
代表取締役社長
ブランディングのコンセプト開発・企画立案からトータルディレクションおよびマネジメントの実行責任者を歴任。金融、IT、不動産、自動車メーカー、運輸、病院、教育、流通・小売業、飲食業など幅広い業種のブランディングに従事。VI開発やプロダクト、サービス開発、空間設計、コミュニケーション施策なども手掛ける。2021年5月より株式会社シー・アイ・エー代表取締役社長に就任。
ホスピタリティをベースにしたデザイン
チェン
私が相崎さんとお会いしたのは、相崎さんが2004年にCRÈMEを設立したばかりの駆け出しの頃でした。当時はブルックリンの若手注目デザイナーの1人であった相崎さんですが、今やメジャーな存在となり、グローバルにプロジェクトを展開しています。今回は相崎さんのデザイン論をひもといていこうと思います。
江島
相崎さんと当社は、コワーキングスペースやシェアオフィスなどを備えた、新しいビジネスイノベーション拠点Deloitte Tohmatsu Innovation Park(以下、デロイト トーマツ イノベーションパーク)のプロジェクトでも協働いたしました。最初に、デザインに当たってのコンセプトを教えてください。
デザイン上のメインコンセプトは「自然」と「テクノロジー」です。前者は、私たち人間が生きていく中で絶対に対話をしなければならないもの。また後者は、インキュベーター空間としての役割も担うデロイト トーマツ イノベーションパークには欠かせないテーマですね。その両者をどのように“共存させていくか”をベースにデザインしました。
江島
デロイト トーマツ イノベーションパークのキーワードである「CO-EVOLUTION(共進化)」にも通じるメインコンセプトですね。このプロジェクトを含め、相崎さんがデザインを手掛けるうえで意識している“CRÈMEらしさ”は何だとお考えですか?
相崎
“ホスピタリティ・デザインがベースにあること”です。ホスピタリティ・デザインとは、ユーザーの視点から物事を見ることです。例えば、ゾーニング1つ取っても、“ユーザーがこのスペースをどのように使って、どのような体験をしていくのか”を徹底的に突き詰め、ホスピタリティに根差したデザインを設計するようにしています。
例えば、最近のホテルの空間作りは、人が集う広めのスペースの横に、こぢんまりとしたスペースがあるのが主流です。広い空間でお出迎えをしてもらいたい人もいれば、静かにホテルに入りたい人もいるためですね。このような“様々な人のニーズに応えるレイアウトを創造すること”を、デロイト トーマツ イノベーションパークのデザイン時にも意識しました。
デザインに対する日本企業と欧米企業の理解の違い
チェン
相崎さんは、2022年10月に日本に初上陸した、ニューヨーク発のモダンイタリアン・レストランScarpetta Tokyo(以下、スカルペッタ東京)のデザインも手掛けました。スカルペッタ東京のデザインで意識したことは何でしょうか。
相崎
レストランが舞台だとすると、お客様は役者です。レストランは、お客様が訪れて、食事を取られることで、初めて完成すると考えます。その意味で、私たちが手掛けたのはあくまで舞台作り。舞台で役者さんが素敵なシーンを演じられるように、天井の高さやバーの配置など、舞台の細部にまでこだわったデザインを徹底しました。
チェン
スカルペッタ東京では先日、相崎さん、江島、私の3人で食事をしましたが、レジデンシャルのような温かみが感じられる、とても素敵なレストランでした。
相崎
ありがとうございます。「スカルペッタ」という言葉はイタリア語で、残ったソースをすくうパンのこと。ソースをパンですくって食べるように、スカルペッタには“飾らないで、食事をエンジョイしてほしい”というコンセプトがあります。スカルペッタは富裕層をターゲットとするレストランのため、エレガントな雰囲気は出しつつも、コンセプトの“気取らなさ”も演出するデザインにしました。
江島
スカルペッタ東京のプロジェクトを含め、相崎さんはこれまで様々な国の企業の案件を手掛けてきたと思います。日本企業と欧米企業、デザイナー観点から違いを感じることはありますか。
相崎
もちろん例外はあるものの、概ねデザインおよびクリエイティビティへの意識は欧米企業の方が高い、という印象があります。デザインが良ければそれだけ魅力的な空間が生まれ、人が集まり、そこにはお金が落とされる。この意識が日本企業には低いと感じられることがありますね。そのため、日本企業のクライアントとは互いの一致点を探す作業がよく発生します。
江島
一致点を探す作業とは、例えばどのような工程でしょうか。
相崎
例えば、クライアントから「コスト的にこのデザインは変更してほしい」という要望が寄せられ、私たちが代替案を掲示する、という工程は度々発生しますね。ただ一方で、私たちとしても譲れないところは譲りません。デザインの本質を保てる代替案があれば提案しますが、本質が崩れてしまうようなデザイン変更は譲らずに主張します。この柔軟性と信念のバランスはとても難しく感じますね。
“物を良くすること”がデザインのベーシックな意義
江島
これからの時代に求められるホスピタリティ・デザインについて、どのようにお考えですか。
相崎
正直、私自身も答えを模索している最中です。ただ。ホスピタリティの原点は“人をもてなすこと”であり、“人に優しくすること”。この原点にこそ、ホスピタリティ・デザインの意義が詰まっていると考えます。その意味で、これからのホスピタリティ・デザインは、自分にだけ、もしくは特定の人だけに向けたデザインではなく、もっと広く、世界や環境に向けたデザインを志向する必要があるのではないでしょうか。
チェン
ハートのあるデザインおよびプロジェクトを作る必要があるということですね。最後に、CRÈMEが今後目指すものをお聞かせください。
相崎
“物を良くすること”がデザインのベーシックな意義だと考えます。いちデザイナーとして何ができるのかを試行錯誤しつつ、環境問題や貧富の差、人種差別など世界が抱える問題を少しでも良い方向に進められる仕事をしていきたいですね。
チェン
相崎さんと我々CIAが今後もより密に協働しながら、新しいプロジェクトを創造して、日本や世界に対して変化を起こしたい。個人的には、そのような未来も期待しています。本日はありがとうございました。