ポストコロナのオフィスに必要な会議室とは――プラザクリエイトが考える会議室のミライ
Zoomなどのツールを用いたオンライン会議が広まり、オフィスに出社している人と在宅勤務をしている人でオンライン会議を行うことが珍しくなくなりました。ただ従来のオフィスはオンライン会議を行うことを想定して作られているわけではなく、様々な問題が出てきています。その解決策として、電話ボックスのような個室ブースをオフィス内に設置する企業が増えています。今回、その個室ブース事業を展開する株式会社プラザクリエイト本社の新谷隼人氏に、事業を始めた背景やポストコロナ時代のオフィスと会議の在り方などについてお話を伺いました。(聞き手:編集部 毛利俊介、川添貴生)
目次
新谷 隼人氏
株式会社プラザクリエイト
常務取締役、ソウゾウ事業本部長
広告代理店、リクルートを経て2019年にプラザクリエイト入社、2021年6月プラザクリエイト本社取締役に就任。新規事業の創造と既存事業の立て直しの両輪を担う。
プリントショップ企業が個室ブース事業に踏み出した理由
――プラザクリエイトは写真プリントショップのイメージがありますが、なぜ個室ブース事業を始めたのでしょうか?
プラザクリエイトは写真事業から始まった会社で、「パレットプラザ」と呼ばれる写真のプリントショップを全国に展開して36年になります。ただ昨今ではデジタルカメラやスマートフォンが普及したことにより、プリントせずに写真を楽しむことが一般化するなど、消費者の行動変容が起こったことで新しいビジネスに進出する必要が出てきました。
もともと当社には、各地の駅前やショッピングモールに証明写真撮影機を設置する事業がありました。この事業はすでに他社に売却していますが、海外から部材を調達し、ボックスに組み立て、それを全国に設置するといったオペレーションのノウハウは社内に残りました。このノウハウを生かして何か新しい事業ができないか、様々な検討を重ねた末に生まれたのがこの個室ブース「One-Bo」の事業です。
――個室ブースに転用するアイディアはどうやって生まれたのでしょうか。
新規事業を考えている時期にちょうど新型コロナウイルスの流行が始まり、当社でも社内の至る所でオンライン会議が行われるようになりました。ただ、オフィスではオンライン会議がすごくやりづらいことに気付いたんですね。
自分の座席でオンライン会議をやると周囲の音や自分の声の大きさが気になります。特にイヤフォンをした状態で話すと自然に大きな声になりがちで、それがオフィスに数人いるとお互いの声を拾ってしまい会議の参加者に迷惑がかかります。さらには隣の会議で話されていた機密情報が別の会議の参加者に漏れるというリスクもあります。それを防ぐには自分の座席ではなく会議室を使う必要がありますが、10人ぐらいが入室できる広さの会議室を1人で使うといった状況になるため、すぐに埋まってしまいます。
この問題を解決するために、個室のミーティングスペースを増やすことができないかといった議論を始めました。この個室のボックスを組み立て設置するという作業は私たちが証明写真撮影機のビジネスで培ったノウハウを転用できますし、製品として他社に販売できるということに気付きました。試作品を作って自分たちのオフィスに置いてみたところ、好評だったこともあり、このビジネスに取り組むことを決めました。
個室ブース市場は拡大中
――どのような企業で導入ニーズがあるのでしょうか。
現状では、大都市圏の中小企業が中心になっていますが、ある地方自治体では、DX化を推進するという流れの中でオンライン会議も積極的に採り入れるという方針があり、その一環での導入ニーズがあるようです。簡単に個室として利用できること、 そして低コストで導入できることが利用の後押しをしているようです。このように行政でもニーズがあることから、今後は地方の民間企業でもニーズは高まるだろうと考えています。
個室ブース市場としては、公共施設やオフィスを合わせて2020年時点でおおよそ3,000台が設置されているといわれています。さらに今後、オフィスとテレワークを組み合わせたハイブリッドな働き方が広まり、それに伴ってオンライン会議が社会に定着することを考えると、個人的には2025年には2万台程度の市場規模にはなるのではないかと予測しています。
――昨今ではメタバースが注目されていて、新たなワークスペースになるのではないかともいわれています。この影響で個室ブースの市場が縮小する可能性はあると思いますか。
私自身も興味があって体験したのですが、現状の技術を前提とするのであればおそらく短期的な拡大には至らないと感じています。特にVRゴーグルを使う形だと、疲労感が大きいんですよね。VRゴーグルの価格は下がっていて、企業としても導入しやすくなっているとは思いますが、それを装着したまま仕事し続けるのは厳しいでしょう。
エンターテインメント領域であれば、現状でも可能性はあるかもしれません。例えば、忘年会をメタ空間で開催しましょうというのは楽しそうですよね。ただプロジェクトを進めていく場などとして考えた場合、現状ではメタ空間をワークスペースとして用いることはイメージしづらい。
その為にも、デジタルコミュニーケーションの技術やSlackを中心としたテキストコミュニケーションのスキルを来るデジタル空間がビジネススペースの主になる時に備えて、組織として高めていくことは喫緊の課題だと感じています。
これからのオフィスとビジネスマンに求められる「スペースリテラシー」
――オフィスや会議の変化に合わせてビジネスマンの意識も変わっていきそうですね。
そうですね。これまでは会議の種類にかかわらず、オフィスの会議室で行うことが一般的でした。しかしオンライン会議が普及してきたことで、好きな場所で会議を行えるのと同時に最適な場所で行うことが求められるようになりました。そのときに重要になるのは「スペースリテラシー」です。
プロジェクトの進捗や議論する内容などによって、会議の最適な場所は変わると思っています。たとえば機密性の高い内容について議論するのであれば、周りの目を気にせずに話せる場所が必要になりますし、逆にリラックスして話したいのであればお気に入りのカフェでオンライン会議に参加してもいいかもしれない。
いずれにしても、その状況や会議の性質に合わせて会議を行う場所を選ぶ必要がある。これがスペースリテラシーで、オンライン会議が普及した後は特に重要なスキルになるのではないかと思います。
――コロナ禍が終わったら、またビジネスマンの働き方が変わっていくかもしれません。今後オフィスはどのように変わっていくと考えていますか。
出社する理由を見いだせないオフィス空間は、おそらく意味がなくなっていくでしょう。社員から選ばれるオフィスを会社としては用意していかなければならない。
従来のようにオフィスに出社するのが当たり前ではなく、必要だから、オフィスの方が作業しやすいから出社する、そのように変わっていくのではないでしょうか。たとえばチームで創造性を発揮する必要があり、そのためにリアルでコミュニケーションしたい、そういったニーズに応えられるオフィス空間を従業員に対して提供するといった考え方です。
一方でオフィスに対するニーズは、その時々で変わっていく可能性が高いため、ニーズの変化に対応することが求められるでしょう。また全員が出社することが前提でなくなれば、オフィスのコンパクト化も進むと考えられます。
そのコンパクトなオフィスの中で、従業員の創造性を高める仕掛けを作っていく。さらに従業員が出社したいと思う空間作りが求められます。そうした変化に対応するためのソリューションの1つとしてパーソナル・ミーティング・スペースを設置する企業が増えていくのではないかと思っています。