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中国人民元をめぐる問題

※記事中の内容、所属および役職は公開時点のものです

景気循環による経済的影響は企業にとって不可避なものです。しかし、世界および地域経済に対し長期的な見通しを持つことにより、企業は景気循環のリスクを最小化することができます。デロイトは、世界のビジネスリーダーたちに必要な、マクロ経済、トレンド、地政学的問題に関する明快な分析と考察を発信することにより企業のリスクマネジメントに貢献しています。本連載は、Deloitte Insightsに連載中のWeekly Global Economic Updateの2026年9月28日週の記事より抜粋して日本語抄訳版としてお届けします。

中国は、高品質な製品を低コストで生産する能力に支えられた輸出大国です。しかし、中国の貿易相手国の多くは、中国の輸出力の強さは自国通貨である人民元の価値と関係があると主張しています。これに対し中国は、(物価の調整をしない)名目為替レートベースでは人民元が最近米ドルに対して上昇していると反論するでしょう。これは事実です。また、複数の通貨からなる通貨バスケットに対して、人民元は比較的安定していると主張するかもしれません。これもまた事実です。
しかし、国際決済銀行(BIS)によれば、相対的なインフレ率で通貨価値を調整した場合、人民元は今年に入って上昇しているものの、この10年の初期からずっと、実質為替レートベースではむしろ下落しています。その結果、他の条件が同じであれば、中国の輸出品は数年前と比べて価格競争力が高まっていることになります。そしてこの事実は、中国の多くの貿易相手国にとって懸念事項となっています。

中国の輸出に対する不満は、様々な形で表れています。米国にとっての問題は、人民元の価値そのものとではありません。ベッセント米財務長官は、中国が輸出補助金を提供していると不満を表明しており、中国側はこれを否定しています。一方、欧州では通貨がより大きな懸念事項となっています。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、「欧州の視点からすれば、相手側の通貨が25~30%過小評価されているなかで競争を強いられるという状況を、長期的には容認できない」と述べました。さらに同首相は、補助金と相まって、人民元の過小評価がドイツ企業による競争を困難にしていると付け加えました。
人民元が過小評価されているとすれば、それは主に、中国の為替市場介入による為替調整政策によるものです。仮に市場に委ねた場合、大幅な貿易黒字、中国の比較的低いインフレ率、そして米ドルの価値に対する下押し圧力を踏まえると、人民元の価値は上昇する傾向にあるだろうと考えられます。実際、中国はある程度の人民元高を容認する姿勢を維持してきました。しかし、中国は混乱を招く事態を避けるため、上昇を緩やかに進める方針を維持してきました。課題は、他国が中国に対して、より保護主義的な措置を講じる可能性を公然と議論していることです。そのため中国は、欧州やその他の地域で高まる貿易制約への政治的圧力を相殺するのに十分な人民元高を容認するプレッシャーに直面する可能性があります。

しかし、通貨高だけでは十分ではないかもしれません。特に、中国の輸出企業が、利益率がほぼ、あるいは全くないほど極めて競争的な価格で販売を続ける場合にはなおさらです。むしろ中国は、輸出依存を低下させるため、内需をさらに押し上げる必要があるかもしれません。内需の拡大は、輸入品をより安価にする強い通貨からも恩恵を受けるでしょう。これにより、中国の生活水準が向上する可能性があるほか、ディスインフレーション(デフレにならない範囲での物価低下)の効果がもたらされる可能性もあります。そうなれば、政府はより柔軟に景気刺激策を実施できるようになるかもしれません。

翻訳者
合同会社デロイト トーマツ
パートナー/チーフエコノミスト
増島 雄樹

合同会社デロイト トーマツ
川瀬 茉里奈