「地方創生」という言葉は、長く日本の政策課題であり続けている。観光振興、移住促進、スタートアップ支援、デジタル田園都市、関係人口、ワーケーション、空き家活用、地域商社、ふるさと納税。政府や自治体による支援策、補助金、モデル事業は数多く存在し、各地でさまざまな挑戦が続いている。
しかし、その一方で見落としてはならない問題もある。地方創生の手法が広く共有されるほど、自治体の取り組みは似通っていく。どの地域も移住者を呼び込み、観光客を増やし、特産品を磨き、スタートアップを誘致し、サテライトオフィスを整備する。もちろん、それぞれに意味はある。だが、結果として「どこも同じような地方創生」を掲げることになれば、地域の差別化は難しくなる。
知識の共有は重要である。しかし、知識の同質化は、戦略の同質化を招く。戦略が同質化すれば、最後は限られた人口や企業、観光客を奪い合う自治体間競争になりやすい。人口減少が進む中で、すべての自治体が同じように「移住者を増やす」「観光客を増やす」と掲げても、全体最適にはならない。むしろ、職員は補助金対応や計画策定、KPI管理、プロモーション競争に追われ、疲弊していく。地方創生が、地方を元気にするはずの政策でありながら、現場に新たな負担を生むという矛盾も起きている。
では、自治体はどのように特色をつけていけばよいのか。ここで重要になるのが、個々の自治体が単独で差別化を考えるのではなく、日本全体の成長戦略の中で、自らの役割を捉え直す視点である。
その大きな流れの一つとして、政権が掲げる成長分野がある。AI、半導体、量子、宇宙、防衛、サイバーセキュリティ、エネルギー、バイオ、医療、農業、観光、コンテンツ、インフラ、防災など、今後の日本の産業競争力を左右する成長分野は多岐にわたる。これらは単に霞が関や東京の大企業だけで完結するテーマではない。むしろ、その実装の現場は地域にある。
たとえば、再生可能エネルギーや蓄電、送電網の整備は、都市部ではなく、自然資源や土地を持つ地域が主役になりうる。農業の高度化やフードテックは、農村地域こそが実証の場となる。防災、インフラ維持、レジリエンスの技術は、災害リスクを抱える地方都市や中山間地域でこそ必要とされる。医療・介護・モビリティの新しい仕組みは、高齢化が先行する地域でこそ切実であり、そこで生まれたモデルは、将来の日本全体、さらには世界にも展開できる可能性がある。
つまり、地方は「支援される対象」ではなく、成長産業の実装主体になりうる。日本全体の戦略を考えたとき、地域ごとに担うべき役割は異なるはずである。ある地域は再エネの拠点になる。ある地域は農業DXの先進地になる。ある地域は防災技術の実証地になる。ある地域は医療・介護モデルの輸出拠点になる。ある地域はコンテンツや文化観光で世界とつながる。地方創生とは、すべての地域が同じ成功モデルを追いかけることではなく、それぞれの地域が日本全体の中でどのような機能を担うのかを再定義することではないか。
もちろん、観光資源は多くの地域にある。インバウンド需要を取り込むことも重要である。しかし、観光だけに地域の未来を託すことには限界がある。観光は外部環境に左右されやすく、地域間の競争も激しい。大切なのは、観光を入口としながらも、その地域が持つ産業、自然、歴史、人材、技術、生活文化をどう組み合わせ、他地域にはない役割へと転換できるかである。
そのためには、「Central to Local」、つまり中央の戦略や資源を地域へ届ける流れだけでは不十分である。同時に、「Local to Local」、すなわち地域同士が互いに学び、補完し、連携する流れが必要だ。東京を経由しなければ地域がつながれない構造ではなく、エネルギーの地域、農業の地域、防災の地域、医療の地域、観光の地域が、直接連携していく。そのネットワークの中で、地域の魅力や機能を全国レベルで最適化していく発想が求められる。
地方の未来は、自治体ごとの孤独な競争の中にはない。日本全体の成長戦略と接続しながら、自分たちの地域は何を担うのかを問い直すこと。そのうえで、中央から地方へ、地方から地方へと知恵と資源を循環させること。地方創生を「似たような施策の競争」から、「地域ごとの役割を生かした国家的な再配置」へ変えていくことが、次の挑戦ではないだろうか。

