強盗の件数が日本の1500倍のブラジル、テロが頻発するブルキナファソ、女性が若年妊娠と貧困に苦しむタンザニア。これらの社会課題に取り組む女性起業家が、大阪・関西万博で開催されたイベントに登壇し、世界で困難に立ち向かい道を切り拓く体験が語られました。デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(DTFA)が運営を担当する女性活躍支援プロジェクトToget-HERが本イベントを主催しました。

女性活躍支援プロジェクトToget-HERが万博で特別イベント開催

女性活躍を支援する一般社団法人Toget-HERが、2025710日・11日に大阪・関西万博のウーマンズパビリオンで特別イベントを開催しました。10日には「社会課題を解決する女性起業家たち​」と題したプログラムに、南米やアフリカで、犯罪・治安、貧困、女性の雇用などの社会課題に取り組む3人の女性起業家が登壇し、Toget-HERをリードするDTFAの大塚泰子がモデレーターを務めました。

「世界の悲しい経験を減らしたい」「貧困をなくしたいという志を持って単身ブルキナファソに拠点を移した」「タンザニアで、16歳で双子を妊娠して退学したアナに出会った」など印象的なコメントが多いパネルディスカッションとなりました。

画面上左上 菊池モアナさん、右上 梶田真実さん、下 原口瑛子さん、手前 DTFA 大塚泰子

株式会社Singular Perturbations 梶田真実さん 独自アルゴリズムで犯罪発生数を68%削減

最初に自己紹介をしたのは、株式会社Singular Perturbations(シンギュラー パータベーションズ)代表の梶田真実さんです。統計物理(理論)を専門とする研究者でしたが、病気にかかったことなどをきっかけに、社会をより良くするために知識や能力を使いたいと考えるようになり、起業したと言います。

イタリアでスリに遭った後、曜日や時間、場所などがスリが起きる確率が高くなる条件に当てはまっていたことに気づきました。そこで人口、過去の犯罪データ、衛星画像、建物属性等様々なデータを使い、独自のアルゴリズムに基づき犯罪予測を行うシステムCRIME NABIを開発し、「世界の悲しい経験を減らす」というビジョンを掲げ事業を進めています。世界的に犯罪件数が多い中南米を主要ターゲットとし、ブラジルやホンジュラスの警察などにサービスを提供しています。転移学習を使いデータが少なくても予測が行える、AIの専門家でなくても犯罪のパトロールや監視カメラのモニタリングを効果的に行えるといった強みがあり、ブラジルのミナスジェライス州では盗難の発生数を68%削減するという効果を得ました。

女性としての難しさを聞くと、「私は物理学、起業、警察と、男性の割合が非常に高い中で生きてきています。その中でリーダーシップを発揮するためには、納得性が高いロジックや成果を示すことが大切だと考えています。また、やはり属性が似ている人とは関係を築きやすいというのはあります。ブラジルで初めて警察向けの事例ができた都市は、首長が女性だったことが関係しているかもしれません」と答えました。

【Borderless Burkina Faso】原口瑛子さん テロの影響を受ける国で女性の雇用を創出

ソーシャルビジネスを専門とする株式会社ボーダレス・ジャパングループから、原口瑛子さんと菊池モアナさんが、事業を行うアフリカ現地から登壇しました。

原口さんは、学生のときにケビン・カーターの有名な写真「ハゲワシと少女」を見て、貧困をなくしたいという志を抱いたと話し始めました。2022年に単身ブルキナファソに拠点を移し起業します。ブルキナファソは世界最貧国の1つで、テロも頻発しています。原口さんが現地の人と膝を突き合わせて語り合ううちに、就学率・就労率が低い女性が特に弱い立場に置かれていることを知りました。女性達に自立できる安定収入と帰属できるコミュニティを提供できるビジネスを行いたいと考えました。

ブルキナファソはシアナッツの生産が世界トップレベルで、その資源を活かしシアバターを事業化しました。シアバターの加工・製造を行う女性組合と連携し、海外の化粧品メーカーに販売を行います。取引先からは原料の作り手の顔が見えるトレーサビリティの高さが評価されているといいます。さらに、革製品のケア用品などシアバターの用途拡大にも取り組んでいます。

「貧困の解決という大きな課題に対しては大海の一滴でしょうが、私の挑戦によって、ほかの誰かが後に続きやすくなるかもしれないと思っています。私は子供時代を熊本で過ごしましたが情報が乏しかった。今はどこにいても、世界で様々な活動している女性を身近に感じることができますよね、このイベントや万博もその機会の一つです」と語りました。

【Borderless Tanzania】菊池モアナさん 生理用ナプキンの製造工場を全国に展開したい

菊池さんは大学で「教育が社会課題解決のカギを握る」と学び、現場を見たいとタンザニアに行きました。そのとき、16歳で双子を妊娠して退学し、貧困の中で自殺も考えた少女アナに出会いました。タンザニアでは、女性の4人に1人が10代で望まない妊娠をし、学校を辞めざるを得ず、中絶を禁じられ、シングルマザーとして貧困に苦しんでいるという厳しい現状を知ります。菊池さん自身も若くして妊娠・出産を経験しましたが、「日本は様々な援助があり恵まれている。助けてもらった分、タンザニアの女性達をサポートしたい」と決意したそうです。

タンザニアでは生理用ナプキンの製造工場を設立し、若年妊娠で退学した女性達に働く場を提供しています。ナプキンは中~高所得者向けに販売し、利益から貧困層の少女達にナプキンや性教育を寄付する仕組みです。「初めは安く作ろうと考えましたが、いくら安くても、貧困ライン(一日280円)以下で生活している貧困層には手が届かないと気づきました。彼女たちは生理用品がないので紙や端切れなどで代用し、水も満足に使えないため不衛生で、尿路感染症が風邪レベルで流行しています。生理ケアができないため学校を休み、授業についていけなくなって退学する子も多い」と説明します。国連人口基金などとも連携し、これまでナプキン53万枚の寄付を行ったほか、工場を全国に展開する計画を進めています。最初の訪問で出会ったアナは、今は工場のリーダーとして生き生きと働いているそうです。

女性の視点が社会課題の解決にどうつながったか、という質問には「男性社会では『若い女性が子供を産んで家にいるのは普通だ』と思われてしまうので、見落とされやすいテーマを扱えています。ただし、外国人の小娘として扱われる難しさはあります。政府の役人から袖の下を要求されたりもします」と答えました。

上川陽子前外務大臣もエール「大変頼もしく、感動しました。また話を聞きたい」

上川陽子衆議院議員も会場でセッションを聞いていました。「私はWPSWomen, Peace, and Security、紛争・災害・暴力等の課題への女性参画)に取り組んでいます。皆さん使命感を持ってその現場で活動されていて、大変頼もしい。課題に立ち向かい、切り拓いていく力に感動しました。持続し拡大していく中では、さらに大きな問題を乗り越えていかなくてはならないでしょうし、自分が今持ってない力が必要となるフェーズもあるでしょう。この先のお話もまた聞きたいです」とコメントし、3人の女性起業家にエールを送りました。

DTFAの大塚は、「皆さんのお話には感動しました。女性は『次世代のために、いい社会を作りたい』という意識が強いと思います。そういう女性の強みを活かしていきたいですね」と締めくくりました。

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