景気循環による経済的影響は企業にとって不可避なものです。しかし、世界および地域経済に対し長期的な見通しを持つことにより、企業は景気循環のリスクを最小化することができます。デロイトは、世界のビジネスリーダーたちに必要な、マクロ経済、トレンド、地政学的問題に関する明快な分析と考察を発信することにより企業のリスクマネジメントに貢献しています。
本連載では、デロイトのエコノミストチームが昨今の世界経済ニュースやトレンドについて解説します。今回は、Deloitte Insightsに連載中のWeekly Global Economic Updateの2024年8月5日週の記事より抜粋して日本語抄訳版としてお届けします。

Ira Kalish

Deloitte Touche Tomatsu
チーフエコノミスト

経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。

好調な第2四半期の実質GDP

ユーロ圏の経済は力強さを欠くものの、昨年の不況に近い状態からは明らかに回復しつつあることが、7月末に発表された2024年第2四半期のGDPからいえそうです。欧州連合(EU)の発表によると、第2四半期におけるユーロ圏20カ国の実質GDPは第1四半期比で0.3%増加と、前期と同じ伸びを示し、前年同期比では0.6%の増加となりました。なお、2023年の第3、第4四半期における実質GDPは前期比で横ばいでした。

ユーロ圏の第2四半期における実質GDPは、ドイツの第2四半期の実質GDPが第1四半期と比べて0.1%減少したために伸び悩みました。これで過去3四半期のうち2期において、ドイツの実質GDPが減少したことになります。ドイツ政府は、この成長の弱さは企業の設備投資や建設投資の減少が原因であるとの見解を示しています。同国の投資は、高いエネルギーコスト、中国での需要の低下、国内需要の低迷、中国やアメリカとの競争の激化など複数の要因によって打撃を受けている状況にあります。

一方、ユーロ圏の他の国々の経済は順調です。スペインでは、第2四半期の実質GDPが第1四半期対比0.8%増加しました。これは、昨年の第4四半期の0.7%増に続く成長であり、スペイン経済は好調であるといえるでしょう。同国政府の発表によると、消費支出(0.3%増)、投資(0.9%増)、輸出(1.2%増)を含むGDPの全ての主要構成要素で大幅な増加がみられたほか、同国の失業率は2008年以降の最低水準となっています。一方で電気料金の低下が主因となって同国のインフレは減速しており、これが消費支出の増加を後押ししたと考えられています。

その他のユーロ圏諸国では、成長は概ね緩やかでした。フランスの第2四半期の実質GDPは第1四半期比で0.3%増、イタリアでは0.2%増となりました。予想を上回るフランスの成長は、主に輸出増に起因するものですが、同国の現在の政治情勢が景況感を悪化させ、結果として投資に悪影響を及ぼすことが考えられます。

今後のECBの動向に注目が集まる

投資家は9月の欧州中央銀行(ECB)の動向に注目しています。多くの市場参加者はECBが引き続き利下げをすると予測しており、公表された最新のGDPは金融政策の判断に大きな影響を与えないと考えています。全体としては、スペイン経済の好調さがドイツ経済の低迷を相殺し、ユーロ圏のGDPは緩やかな拡大となっています。インフレ動向に関する明るい兆しを示す最近のデータも踏まえると、ECBが利下げに踏み切る環境が整ったともいえますが、今後の金融政策の行方はインフレの減速がどの程度続くかに依存するでしょう。

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Deloitte Global Economist Networkについて

Deloitte Global Economist Networkは、デロイトネットワーク内外の視聴者向けに興味深く示唆に富むコンテンツを発信する多様なエコノミストのグループです。デロイトが有するインダストリーと経済全般に関する専門知識により、複雑な産業ベースの問題に高度な分析と示唆を提供しています。デロイトのトップマネジメントやパートナーを対象に、重要な問題を検討するレポートやThought Leadershipの提供、最新の産業・経済動向にキャッチアップするためのエクゼクティブブリーフィングまで、多岐にわたる活動を行っています。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

増島 雄樹 / Masujima Yuki

マネージングディレクター・プリンシパルエコノミスト

外為トレーダーとしてキャリアをスタート。世界銀行、日本銀行、日本経済研究センター主任研究員、ブルームバーグシニアエコノミストを経て、2023年4月より現職。マクロ経済予測・費用便益分析・政策提言を中心に、エコノミクス・サービスを提供。為替に関する論文・著書多数。2018年度ESPフォーキャスト調査・優秀フォーキャスター賞を受賞。博士(国際経済・金融)。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートイノベーション

大塚 充 / Otsuka Mitsuru

シニアコンサルタント

総務省入省後、情報通信行政を中心に特殊法人の監督や制度改正、白書の執筆などの業務に従事。その他、内閣官房、内閣府、金融庁、財務省に在籍したほか、在ベトナム日本国大使館において主に経済協力に関する業務に従事。2023年にデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。経済学を活用した調査研究業務などに携わる。