2024年1月現在、全国各地で数多くのスタジアム・アリーナ整備プロジェクトが推進・構想されています。スタジアム・アリーナプロジェクトは音楽興行や企業の展示会など多彩なイベントを実施することで多様な収益機会を確保したり、都市開発を行うことで不動産の価値向上を実現したりと、様々な可能性を秘めたビジネス展開が可能です。一方で、ビジネスとして十分な収益を上げるためには、稼働率の向上や安定的な固定収入の確保など、考慮すべきポイントがいくつか存在します。そこで今回はスタジアム・アリーナの最新動向やビジネス成功の要諦などについて、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)片桐亮に、DTFA Times編集部の津留見和久が話を伺いました。

片桐 亮

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
マネージングディレクター

金融系シンクタンク入社後、官民連携案件や都市開発事業等を対象にアドバイザリー業務を担当。地下鉄、上下水道、空港、道路など各種経済インフラに加え、スタジアム・アリーナ・MICE施設、病院、公営住宅、動物園、都市公園を含む各種社会インフラ関連施設など、幅広い分野での実績を有する。

スタジアム・アリーナ整備が進む背景に「B1リーグ」の存在も

――日本におけるスタジアム・アリーナ市場の動向を教えてください。

2024年1月現在、全国各地でスタジアム・アリーナの整備プロジェクトが計画または実施されています。背景として、2022年9月に定められた「B1リーグ(B.LEAGUE PREMIER)参入のための条件」の存在が大きいでしょう。

――B1リーグは男子プロバスケットボールリーグの1部リーグですね。どういうことでしょうか。

2026-2027シーズンより、B1リーグへ参入するための条件の1つに「収容人数5,000人以上のアリーナを持つこと(*1)」が規定されました。この規定を満たすために各地でアリーナ整備計画が進んでいます。

そのほか、秩父宮ラグビー場の整備を含む明治神宮外苑地区の再開発事業や国立競技場運営事業を行う民間事業者の公募などの動きも、マーケットを動かしている印象です。

――スタジアム・アリーナ整備に関する国の政策・取り組みについても教えてください。

第二次安倍政権時に表明された「2025年までにスタジアムを全国に20ヵ所整備する」という方針が、スタジアム・アリーナ整備が進む契機となりました。

また現・岸田政権では令和4年第5回経済財政諮問会議(2022年4月27日)にて「スタジアム・アリーナなど、新たな分野へのPFI(*2)の対象拡大を図るとともに、できるだけ多くの自治体に取り組みを促す」という趣旨の発言をしています。加えて、「新しい資本主義」を体現する手法としてPPP/PFI(*2)の積極活用を掲げています。

これらの国の動きはスタジアム・アリーナ整備を強力に後押しするものであり、今後5年間で急速に両者の建設・整備は急速に進む可能性があります。

*1:工事着工済あるいは実施設計の進捗状況によっては、必ずしも2024年10月の初回審査時点にアリーナが完成していなくても問題はない

*2:PPPとは官民連携して公共サービスの提供を行うスキーム。PFIはPPPの代表的な手法の1つで、公共施設などの建設・維持管理・運営などを民間の資金・経営能力・技術的能力を活用して行う手法のこと

スタジアム・アリーナビジネス成功のための4つのポイント

――スタジアム・アリーナビジネスを成功させるうえで重要なポイントは何でしょうか。

「マルチユースの実現」「安定したCOI収入」「不動産開発と一体化した都市開発ビジネス」「スポーツチームとの一体運営によるビジネススケール」の4点が挙げられます。

――順番に伺います。最初に「マルチユースの実現」とは何でしょうか。

スタジアム・アリーナの用途は、ホームスポーツチームの本拠地としての利用がベースではあります。ただし、それだけでは十分な収益を上げることができません。そのため、スポーツのみならず展示会やライブイベントなど様々なコンテンツを提供する、マルチユースなアセットにすることが大切です。そうすることで、収益性および稼働率の向上のほか、多様なプレイヤーをつなぐ“ハブ”としての役割を果たし、エリアの価値向上に資する起爆剤にもなり得ます。

各種コンテンツとプレイヤーの“ハブ”となるスタジアム・アリーナ
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

――続いて、「安定したCOI収入」についても教えてください。

COI(Contractual Obligated Income)とは「契約による長期安定的な収入」のことです。例えば、スタジアム施設等の名称に社名やブランド名を付けられる「ネーミングライツ(命名権)」やVIPルーム・シートなどに企業名を付与する「スポンサーシップ」などが挙げられます。また、VIPルームやラウンジなど利用権を企業と年間契約することで安定収入を獲得する手法もあります。COIはアイデアと工夫次第でいくらでも拡張できる点が特徴です。

――COI収入をいかに工夫して伸ばすか、スタジアム・アリーナビジネスの腕の見せ所ですね。3点目の「不動産開発と一体化した都市開発ビジネス」とは何でしょうか。

「不動産開発と一体化した都市開発ビジネス」を詳しく言い換えると、「ショッピングモールやホテル、オフィスビルなどスタジアム・アリーナを中心とした多面的な不動産開発を行うことで、価値の高い都市を開発するビジネス」です。付加価値の高い都市が生まれれば、それに伴い不動産の価格が上昇するため、大きな収益が生まれる可能性があります。

――さながらIR事業のようですね。「不動産開発と一体化した都市開発ビジネス」の事例も教えてください。

2008年にオープンした、ドイツ・ベルリン東駅地区にあるメルセデス・ベンツ・アレーナです。

同アリーナ建設前、同地区は“ブラウンフィールド”と呼ばれるようなエリアでした。そんな、決して評価および価値の高くないエリアにおいて、アリーナに加えショッピングモールや音楽ホール、ホテルなどを建設しました。その結果、東ベルリン駅地区の都市再生を実現したことに加え、周辺の不動産価値は上昇し、大きな収益を生み出しました。

この事例のように、スタジアム・アリーナを核として、ブラウンフィールドのような価値の低いエリアの都市開発を行う成功事例も数多く存在します。

――最後のポイント「スポーツチームとの一体運営によるビジネススケール」を教えてください。

スポーツチームがスタジアム・アリーナ運営に参画することで、ファンエンゲージメントの向上およびスタジアム・アリーナの施設ブランド価値の向上を実現します。両者を実現して多くのファンがスタジアム・アリーナに訪れることでスポーツ観戦マーケットが拡大するほか、ネーミングライツの価値向上やデジタルツイン・メタバースなどを活用した新しい顧客体験の提供など、多様な収益拡大機会を確保できます。

収益性を高め、地域のシンボルとなるための「アイデア」が大切

――スタジアム・アリーナビジネスを行うためには「資金調達」が大きなハードルかと思います。資金調達のポイントについても聞かせてください。

スタジアム・アリーナ整備にあたっては、100〜500億円程度の大規模な資金が必要になるため、一般的には公的資金・民間資金を組み合わせて資金調達を行います。

さらに、例えばスタジアム・アリーナ着工段階ではスポンサーによるフルエクイティ、安定稼働後はトラックレコード(実績)を踏まえた多様な金融プレイヤーによるファイナンスなど、ビジネスの段階に応じて多様な手法を組み合わせる必要もあります。

――最後にスタジアム・アリーナビジネスにおいて、DTFAはどのような貢献をしていきたいと考えていますか。

現在DTFAでは、資金調達のスキーム構築や事業性の検討、運営スキームの検討など、PMOとしてスタジアム・アリーナビジネス支援を行っています。

またスタジアム・アリーナビジネスで一番大切なのは「アイデア」です。「どのように稼働率を高めるのか」「COI収入をどう確保するのか」といった収益を高めるためのアイデアのほか、スタジアム・アリーナが地域のシンボルとなるためのアイデアも必要です。その点DTFAでは、社会的インパクトを可視化する指標「SROI(Social Return On Investment:社会的投資収益率)」も用いて、(地元)企業からのスポンサードや地元住民からの賛同を受けるためのアイデア・仕組みづくりにも貢献できると考えています。

――実際にDTFAではソーシャルインパクトパートナーとして、J3リーグ・FC今治を運営する株式会社今治.夢スポーツの事業をSROI分析し、社会的価値の可視化に取り組んでいますよね。今後もDTFAはスタジアム・アリーナビジネスへの貢献を果たしていきたいと考えています。

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