選手の年齢・経験がFM(競技面)とBM(経営面)に与える影響
DTFA Times編集部にて再編
2022年は日本中がサッカーW杯に沸いた年となりました。日本代表が優れたパフォーマンスを披露し、強豪国のドイツとスペインを破ってベスト16に進出しました。この成功には、登録メンバー26人中20人が海外クラブに在籍するなど、日本人選手の海外での活躍という要因もありました。
一方で、日本代表の平均年齢が27.8歳で歴代2番目の高さであることがニュースで取り上げられました。しかし、4年後のW杯に向けた初戦である今年3月のウルグアイ戦では、平均年齢が3.3歳若返り24.5歳となりました。若返ったチーム構成により、今後の国際大会でのさらなる飛躍に期待が高まっています。また、2023年シーズンからJリーグでのU-21選手の出場を促進する施策が導入され、サッカー界では選手の年齢に関する話題が頻繁に取り上げられています。
そこで本コラムでは選手の年齢や経験に着目し、クラブの競技面における成績(Field Management、以下FM)とビジネス面における成績(Business Management、以下BM)との関連について分析・考察を行いました。
※当記事はJリーグ マネジメントカップ2022に掲載した内容を一部改訂して転載しています。目次
年齢とFM・BMの関係
年齢とクラブ成績の関係を明らかにするために、まず、平均年齢とFM(勝率)との間にどのような関連性があるかを分析していきます。図1は2022年にJ1に所属していた各クラブの平均年齢と勝率をプロットしたものです。クラブ間で平均年齢と勝率には幅広いばらつきが見られますが、多くのクラブは平均年齢と勝率の中間付近に集中しています。この分析から、平均年齢と勝率の間に明確な相関関係は見られず、直接的な影響は少ないといえます。
各クラブの平均年齢と勝率に明確な相関が見られない背景には、複雑な要因が影響していると考えられます。選手の年齢増加は、個人レベルでの経験の蓄積やスキルアップといった勝利への貢献の要因として捉えることができます。一方で、身体能力の低下やクラブの育成方針による影響も考えられます。身体能力の低下を経験でカバーできるか、といった議論はたびたびなされています。
次に、平均年齢とBMの関係について考察します。ここでは、BMの項目として売上高に注目しました。図2では、平均年齢と売上高の各項目についての関係を図示しました。この図からは、平均年齢と売上高には明確な相関が見られないことが確認できます。つまり、選手の平均年齢が高いもしくは低いからといって、売上高が直接的に高まるわけではないといえます。以上より、平均年齢とFM・BMの間では相関が見られないことがわかりました。
しかしながら、クラブの勝率や売上高に影響を及ぼす要因は選手の年齢以外にも多く見つかります。在籍選手の特性に焦点を当てても、スター選手や生え抜き選手の存在、海外クラブからの復帰選手の数など、検討すべき数多くの要因が存在します。そこで、次はクラブの勝率や売上高に影響を及ぼす可能性のある要素として選手の経験や経歴に焦点を当てます。
経験とFM・BMの関係
ここでは選手のプロフィールデータを利用して、選手の経験や経歴とFM・BMの関係について考察していきます。具体的には、各選手の前所属クラブ情報を利用して、海外経験や日本代表経験、移籍回数と年齢との関係を明らかにします。なお、ここでは海外経験を海外のプロクラブに一度でも在籍した経験があることと定義し、移籍回数については、Jリーグと海外リーグでの移籍回数をカウントすることとします。
経験とFM
まず選手個人の経験や経歴とFM(勝率)との関係を検証します。図3は選手の経験と勝率の関係を示しています。クラブごとの平均移籍回数と勝率には強い負の相関が見られました。言い換えると、所属選手の平均移籍回数が増えるにつれて、勝率が低下する傾向にあります。その一方で、日本代表経験選手の割合と勝率には強い正の相関が見られました。これは、日本代表経験選手が多いクラブは勝率が高い傾向にあることを示しています。
これらの結果からわかることは、デビューから同一クラブに在籍する生え抜き選手を日本代表クラスや海外リーグに輩出できるレベルまで育てることができている、育成システムが整っているクラブは、勝率が高くなる傾向があるということです。選手の平均移籍回数が多いクラブの勝率が低くなるのは、育成システムが機能していないため、場当たり的な選手補強を行い、その結果戦力の上積みが思うようにいかず勝率が低迷してしまうためだと推察されます。
以上の分析結果から、選手の移籍回数がFMに影響を与える要因として重要であり、その背後ではクラブの育成システムのレベルが影響していると示唆されます。
経験とBM
次に、選手の経験や特徴とBMとの関係を検証します。具体的には、選手の海外経験、移籍回数、外国籍選手の割合と売上高との関連性についての分析を行いました。以下では、選手の海外経験と移籍回数のそれぞれに焦点を当てて、クラブ経営への影響を詳しく見ていきます。
図4で日本人選手の海外経験、外国籍の選手の割合、および日本代表経験とBMとの関係を示しています。この図からは、選手の経験や特徴とBMに正の相関があることがわかります。つまり、海外経験割合、外国籍選手の割合、および日本代表経験のある選手割合が高くなると、売上高が上がる傾向にあるといえます。一方で、図5でJリーグ内での平均移籍回数と売上高の関係を示しています。この図から、選手のJリーグ内での平均移籍回数が多くなると、売上に負の相関があることがわかります。つまり、Jリーグ内での移籍を経験したことがある選手の割合が多く、また移籍回数が多くなると、売上が下がる傾向にあるといえます。
この結果から、例えば海外から帰国した選手や外国人選手を目的にスタジアムに来場する観客が一定数存在することや、多くの人気生え抜き選手がいる場合に売上が向上する可能性があることが示唆されます。
また、日本代表経験がある選手の割合が高くなると売上が向上する傾向にあることから、勝率と同様に、日本代表レベルの生え抜き選手を育成できると、その選手がクラブの顔となり、売上高にも良い影響を与えると示唆されます。また、育成だけではなく、海外から帰国した選手を獲得できているクラブもビジネス成果が良い傾向にある可能性があります。つまり、育成システムが整っているクラブにはスター選手が生まれやすく、海外から帰国する際のクラブ選びにも良い影響を及ぼしていると推察されます。
総じて、選手の海外経験や移籍回数、日本代表経験は、クラブの売上高に与える影響が強くあることが示唆されました。生え抜き選手が少なくクラブに複数回移籍した選手が多いと、ファンは選手に愛着を持ちにくいため、ユニフォームやグッズの売り上げが減少する傾向にあるといえます。また、選手個人を目的に観戦する層を取りこぼすことになります。その一方で、海外から帰国した選手や日本代表経験者が多く在籍するクラブは売上が高い傾向にあることから、ビジネスチャンスをうまく生かしていると評価できます。
まとめ
本コラムでは、2022年のサッカーW杯における日本代表の活躍を背景に、選手の年齢や経験がクラブの競技面(FM)とビジネス面(BM)の成績にどのように影響するかを分析しました。平均年齢とFM・BMには売上高には強い相関関係が見られず、選手の年齢が売上高に直接的な影響を与えるわけではないことが示されました。しかし、選手の海外経験や日本代表経験、移籍回数と年齢との関係が明らかになり、これらの要素がクラブの成績に影響を与える可能性が示唆されました。選手の経歴がクラブのFM面とBM面の両方に影響を与えることが明らかになったことは、これまでも現場の感覚知としては存在していましたが、データ分析の観点からもそれを裏付ける興味深い結果となりました。