アルビレックス新潟が2位以下を大きく突き放し大差でJ2の3連覇を達成
DTFA Times編集部にて再編
2015年の立ち上げ以来、スポーツビジネスマーケットの拡大に寄与してきたデロイト トーマツ グループのスポーツビジネスグループがお届けするJリーグマネジメントカップ。Jリーグ所属チームが優勝をかけて競うのは、ビジネスマネジメント視点で設けられた4つのステージ「マーケティング」「経営効率」「経営戦略」「財務状況」の評価です。J2は3年連続でアルビレックス新潟が制しました。
※当記事はJリーグ マネジメントカップ2022に掲載した内容を一部改訂して転載しています。目次
Jリーグ マネジメントカップ2022のJ2優勝クラブはアルビレックス新潟
アルビレックス新潟はマーケティング分野、経営効率分野で1位、経営戦略分野で2位、財務状況分野で3位と全分野で好成績を収め、2位に45ポイントもの大差をつけて堂々の3連覇を果たしました。BM面においては他のクラブを寄せ付けない圧倒的な強さを見せ、特に物販収入は前期比+42.4%増加してJ1平均をも超えており、ファン・サポーターとクラブが理想的な関係で結束している様子が見て取れます。
平均入場者数・スタジアム集客率
J1同様、コロナ禍からの復活を印象付けるシーズンとなったJ2の平均入場者数は前年比+1,121人(+28.7%)の5,031人で、22クラブ中18クラブで前年比+10%超の水準を記録しています。特に増加率が高かったクラブは岡山、仙台、東京Vであり、それぞれ+75.3%(+3,129人)、+60.0%(+3,373人)、+52.6%(+1,709人)となっています。
増加率の高かった3クラブの共通点は、終盤までJ1参入プレーオフ進出を争っており、シーズン最後の2節で1万人前後を動員しているという点です。つまり、優勝争いだけでなく、魅力的なレギュレーションを設計するリーグ側の果たす役割も重要で、プレーオフの形式が微修正される2023年シーズンの結果も注目されます。
スタジアム集客率の平均はJ2全体で前年比+5.0P(+25.5%)の24.5%で、コロナ禍の収束とともに少しずつ観客が戻っており、全22クラブ中20クラブが前年比プラスとなりました。昨シーズン2クラブあった集客率10%以下のクラブがなくなり、集客率の底上げは進んでいます。コロナ禍以前の集客率(約40%)を再び達成するためにも、コロナ禍の収束を追い風にしたBM施策の充実が鍵となりそうです。
勝点1あたりチーム人件費
Jクラブのビジネス構造上、チーム人件費は年度当初の売上見込額から逆算して設定される傾向にあります。そのため降格のリスクもあるJ2においては、限られた予算でどのようにFM側での成果に結び付けられているか、BM側とのクラブ内連携が問われるのが経営効率の分野です。
本KPIは、コストの中で最も大きな比率を占めるチーム人件費を、いかに効率的にFM面の結果へ結び付けられたか、ということを可視化できる指標となります。2022年シーズンのJ2平均は、前年比▲0.2百万円(▲1.6%)の11.6百万円でした。最も効率的に勝点を獲得したのは熊本で、勝点1を4.5百万円で獲得したことになります。
新潟は前年比+65百万円(+9.4%)となっており、KPIの値としては前年比で▲1.2百万円(▲11.4%)の改善となり、同じくJ1昇格を果たした横浜FCも、前年比で▲34.1百万円(▲60.9%)と大幅な改善となっています。
このように人件費への投資がうまくFM面の成果に結び付いたケースでは本KPIが改善する一方、単年ではFM面での成果が出ないこともあるため、チームへの投資という重要なBM施策に関わる経営判断の効果を、本KPI評価を通して、より中長期的な観点で継続的に検証する姿勢が欠かせません。
勝点1あたり入場料収入
入場料収入についてみるとJ2の平均は前年比+0.1百万円(+4.2%)の2.9百万円でした。J1は前年比+7.9百万円(+102.3%)の15.6百万円と順調に増加している一方で、J2はほぼ横ばいの状況であり、回復が遅れている状況です。
トップは新潟の7.1百万円で前年比+0.1百万円(+1.6%)で、入場料収入を前年比+121百万円(+25.5%)とする一方、勝点も68から84と伸ばし、見事にJ1昇格を決めました。また東京Vは、前年比+0.7百万円(+38.1%)の2.5百万円で本KPIはJ2における11位と中位ではありますが、内容を見ると、勝点が58から61と微増だった半面、入場料収入は106百万円から154百万円と+48百万円(+45.3%)と大幅に増えており、ブランディングの強化がBM面の好調につながったことがうかがえます。
SNSフォロワー数・SNSフォロワー数増減率
2022年シーズンにおけるJ2の平均は前年比+23,005人(+25.1%)の114,740人でした。
トップは40万人以上の増加を記録した東京Vで、インドネシアからアルハン選手が加入した影響で、昨シーズンの全体10位(95,157人)から一気にトップ(534,559人)へと躍り出ています。その東京Vに加え、水戸・甲府・仙台の3クラブが新たにフォロワー数10万人を突破し、J2の半数である11クラブがフォロワー数10万人以上を有するクラブとなりました。J2全体での底上げが進んでいるといえます。
フォロワー増減率の平均は前年比+23.9P(+199.5%)の35.8%となりました。増減率の平均を押し上げた要因である東京Vのフォロワー増加数は、+439,402人(+461.8%)を記録し、全クラブの中でも圧倒的でした。これは、Instagramのフォロワーが300万人超、国民的スターともいえるインドネシア代表のアルハン選手の獲得が影響しており、新たなフォロワーの多くはインドネシアをはじめとする東南アジアのファンである可能性が高いと考えられます。コスト面の負担が比較的少ないアジア圏のスターを獲得するという手法は、適切な戦力の補強と効率的な宣伝効果を実現するうえで、今後注目されるBM手法となるものと推察されます。
売上高・自己資本比率
Jリーグのクラブライセンス制度において財務基準はJクラブの安定的な財務体質の確保を求める基準となっています。コロナ禍の特例により財務基準は一時的に緩和されていますが、原則としてJ2においても債務超過でないことが必須条件となっているため、売上高や純資産を維持・拡大することは非常に重要です。
売上高の平均は、前年比+219百万円(+14.5%)の1,728百万円でした。通常のスタジアム運営が可能となったことで、全体としてもコロナ禍以前(2019年シーズン)の売上高(1,655百万円)を上回る水準に回復しています。近年各クラブが進めてきたデジタルマーケティングへの投資や集客施策、ECサイトによるグッズの拡販などの成果が着実に結果に結びついているものと考えられます。
売上高成長率の平均は、前年比+5.3Pの20.0%でした。昇格組である岩手・熊本を除くと20クラブ中17クラブでプラス成長となり、ディビジョン全体としては成長トレンドを維持しています。今シーズン特に高い成長率を記録したのは前年比149.5%の琉球です。FM面での成績は振るわなかったものの、国内プロスポーツクラブでは初となる暗号資産の販売をスポンサー企業協力のもとで実施した成果、その他収入が前年比約10倍となる1,079百万円の大幅増収となりました。
J2ではどのクラブも昇格を目指し、また、降格を回避するため、内部留保よりもチームの強化(FM面)に優先的に資金を割り当ててしまう傾向にありますが、不確定要素の多い経営環境においては、いつも以上にクラブの財務的安定(BM面)の強化を意識することが重要になります。クラブライセンス判定の猶予期間および特例措置により、債務超過によるライセンス不交付の基準は緩和されていますが、柔軟性のあるクラブ経営を実現するため、収益の確保と資本の増強は多くのクラブにおいて急務となっています。
J2の結果の詳細、優勝したアルビレックス新潟に焦点を当てた分析記事などは、Jリーグマネジメントカップ2022のレポートをご覧ください。次回はJ3の結果を紹介します。