第1回 サステナビリティ経営実装に向けた経営戦略
有限責任監査法人トーマツ
張本 青波
ESG/サステナビリティアジェンダが日常的にビジネスシーンで語られるようになった今、企業はこれまでの開示規制対応から一歩先へと進めて、サステナビリティを経営に実装していく段階にあります。取り組みを進めていくうちに、サステナビリティ推進の難しさに直面するケースも少なくありません。
本稿では、サステナビリティ経営実装シリーズ第1回「サステナビリティ経営のあり方と経営実装~経営戦略、推進体制、人的資本の観点から~」の内容を基に、サステナビリティを経営戦略の根幹に実装していく際のアプローチについて解説します。(編集:ESGアドバイザリー 菅井晴子)
目次
サステナビリティの経営実装に必要な3つの要素
サステナビリティの経営実装にあたって、最初に検討すべき要素として「戦略」「組織体制」「人的資本」の3つが挙げられます。具体的にどのようなことを検討する必要があるのでしょうか。前編では、「戦略」の観点から解説します。
経営戦略から見るサステナビリティ経営とその実装
価値創造に向けたサステナビリティ経営の実装を実際に進めていくためには、まず自社のパーパス、ミッションおよび長期ビジョンについて、取締役会といったガバナンス機関や経営陣も巻き込んで丁寧に検討したうえで、短期的・中長期的に自社を取り巻くリスク・機会を分析する必要があります。そのうえで、分析結果を踏まえた事業戦略や組織変革を検討することが有効だと考えられます。
ここでは、そのポイントや具体的なアプローチについて整理します。
サステナビリティ経営を進める2つのポイント
従前のCSR活動においては多くの場合、一部の部署だけが対応していることから、各事業活動と統合されない傾向がありました。サステナビリティを全社的な取り組みとして各事業活動と統合するためには、自社にとっての取り組み意義を明確化したうえで、様々な部署を巻き込む必要があります。そのキーとなるのが「組織化」と「自分事化」です。
前者の「組織化」については、サステナビリティ推進室や委員会の立ち上げ、担当役員や責任者の明確化が有効な打ち手となります。こちらについては、本稿後編にて詳しく解説します。
後者の「自分事化」については、組織化がある程度社内で進んでいたとしてもつまずきやすく、様々な工夫が必要となります。「自分事化」のハードルを越えるためには、まず経営トップがサステナビリティへのコミットを明確に示すことが肝要です。サステナビリティ経営を現場に落とし込むためには、経営トップが意思決定の場面や社内社外で発信する際に、サステナビリティにコミットしている点を示すことによって、現場の従業員は安心してサステナビリティ推進に取り組むことができるようになるでしょう。
これらの土台があったうえで、個々人の主体性を高める工夫として例えば、「個々人の仕事の意義を検討する際にサステナビリティに対する取り組みについても検討する」「個人の目標設定や業績評価においてサステナビリティの観点を加味するといった人事制度面での配慮を行う」など、その企業のこれまでの組織風土に応じた仕組みを導入することが重要と考えます。
「自社らしい」サステナビリティ経営を設計する方法
組織化や自分事化を進める前提として、自社の「パーパス(存在意義)」からバックキャストしてサステナビリティを戦略に落とし込むことが重要です。そのためには「我々は何を成し遂げたいのか」という自社の目線と、「世界は何を求めているか」という外部の目線が重なり合う部分を自ら検討したうえで、重要課題(マテリアリティ)を特定することが重要です。
ここからは、マテリアリティを特定するプロセスにおけるポイントを説明します。
マテリアリティの詳細な検討を進めるにあたっては、シナリオ分析を活用して将来想定される経営環境について経営陣が十分に討議・検討することで、経営陣や関係当事者が将来の社会・環境の変化および自社のパーパスに関する共通認識を持つことが有効です。さらに、フォーキャスト的な実現可能性の観点も踏まえたうえで、実際のアクションプランに落とし込むことにより、現場の納得感を醸成することが可能になります。
マテリアリティ特定にあたっては、自社が属する業種の特性を考慮しながら、自社のパーパス・経営理念にまで立ち戻ることが重要です。これらのプロセスを経たうえで自社らしいテーマを選ぶことで、従業員や各事業部による「自分事化」を円滑に進めることにつながってくるといえます。
第2回では、「組織体制」の観点からサステナビリティ経営推進体制の構築と運用について解説します。