Bリーグのアリーナ構想の現在地
DTFA Times編集部にて再編
Bリーグは、2022年で7シーズン目を迎えました。新型コロナ感染拡大の影響による観客入場数制限は解除され、クラブ主管試合の最多入場者数が更新されるなど、本来のBリーグの雰囲気が戻ってきたことを実感します。さらに、現在開催中のシーズン(2022-2023年シーズン)のBリーグは久々の3地区制、昇降格制度も復活したレギュレーションとなっていることから、順位変動の激しいエキサイティングなシーズンになることでしょう。
そんなBリーグの盛り上がりの鍵を握るのは、やはりアリーナではないでしょうか。コロナ禍を乗り越えた今、満員のアリーナを創り出しながら、各クラブがどのように競技面/経営面で成長していくのかとても楽しみなところです。今回は、Bリーグ各クラブが推し進めるアリーナ構想の現在地をまとめつつ、アリーナがクラブ・地域・パートナーに対してどのようなプラスの効果をもたらすかを考察してみたいと思います。
目次
沖縄アリーナ開業で、琉球ゴールデンキングスが急成長
図表1は、過去6シーズン(2016-17~2021-22)の、琉球ゴールデンキングス(以下、琉球)の入場料収入データです。2021年シーズンに相当する期の入場料収入は778百万円となっており、対前年比+142.2%、コロナ禍前も含めたトレンドで見ても急激な成長を記録していることがわかります。また、その入場料収入はB1クラブ全体(22クラブ)の入場料収入の約2割を占めており、そのインパクトの大きさが見て取れます。そんな琉球の成長の要因は、ホームアリーナの沖縄アリーナの開業にあると見て間違いないでしょう。2021年4月に開業した沖縄アリーナは、「観る」ためのアリーナという特徴を持つこともあり、アリーナの作り自体が琉球のホームゲームの観戦体験向上に貢献していることがうかがえます。
また、クラブ運営会社グループが指定管理者となり、ソフト(クラブ)とハード(アリーナ)を一体運営するアリーナビジネスの展開というスタイルも、図表1のような入場料収入の増加、図表2のような入場者数の増加につながっているでしょう。観戦がより楽しくなるようなアリーナの利用、アリーナが持つ強みを生かした観戦時の演出といった相乗効果が生まれ、地元ファンをはじめとする多くの人が「現地で観たい!」と思えるような仕掛けができているものと考えられます。
このように、クラブがアリーナの活用、運営を主体的に行うことで、観戦体験の向上→入場者の増加→クラブの経営面での成長というサイクルを、沖縄アリーナ設立・運営を通じて実現した琉球の実績は、今後のBリーグにおけるアリーナ構想の重要なベンチマークになるでしょう。
アリーナ構想は、クラブ経営への貢献のみならず、様々なパートナーシップの形を生み出す
沖縄アリーナを皮切りに、今やアリーナ建設ラッシュといわれるほど、クラブのアリーナ構想は続々と進行しています。その中には、パートナー(Bリーグではスポンサーをパートナーと呼ぶ)主導で、新アリーナへの投資を通じたクラブの支援、自社のビジネスチャンス創出、地域活性化への貢献を目指す動きがあり、Bクラブにおけるパートナーシップの在り方に対して様々なヒントを与えてくれるものではないかと考えています。今回は図表3の中から、千葉ジェッツふなばし(以下、千葉J)と西宮ストークス(以下、西宮)のケースを見ていきましょう。
千葉Jは、ホームアリーナ(仮称)LaLa arena TOKYO-BAY(以下、LaLa arena)の開業を2024年に予定しています。このアリーナは、千葉Jのオーナーであるミクシィとディベロッパーである三井不動産の合弁会社がパートナーとして主導する民設民営のアリーナです。
ミクシィは、傘下のクラブのホームアリーナ設立をオーナー自ら主導することにより、クラブとアリーナの一体運営を目指しています。そこには「エンタメ×テクノロジーの力で、世界のコミュニケーションを豊かに」をステートメントとして掲げ、エンタメ事業に注力するミクシィの狙いがあると考えられます。試合を観てすぐ帰宅ということではなく、アリーナやその周辺施設がフィジカルなコミュニケーションの場として選択され、地域に賑わいをもたらすことを目指しているのではないでしょうか。そこに、三井不動産がパートナーとなることでアリーナの価値はさらに高まることが期待されます。LaLa arenaは、名前の通り、三井不動産が展開するららブランドのショッピングパークと隣接する計画となっています。
アリーナ開業後には、千葉Jのファンをはじめとする周辺地域の人々や遠方からの試合観戦者が、アリーナでの試合観戦、ショッピングパークでの買い物や食事を楽しむ姿が想像され、アリーナおよびクラブの試合開催によって生み出される人の動きを隣接するビジネスにも生かしていくようなパートナーシップとなっていることがわかります。アリーナでの千葉Jの試合というコンテンツで多くの人を呼び込むことが、隣接するショッピングパークの集客力向上、さらに周辺にある地域産業の成長、訪れる人々の1日の充実度の向上につながるモデルを作る戦略ともいえるでしょう。
このように、千葉Jのケースは、クラブ経営面での成長、パートナーのビジネスへの還元、訪れる人々の充実度や過ごしやすさの向上を通じた地域への貢献を一体で実現する、理想的なアリーナ構想といえるのではないでしょうか。
次に西宮のケースを見ていきましょう。西宮は、2025年に神戸市に開業する神戸アリーナをホームアリーナ(*1)として使用することを予定しています。神戸アリーナは西宮のオーナーであるスマートバリュー主導のコンソーシアムが設立する、民設民営のアリーナです。スマートバリューも前述のミクシィと同様に、西宮のクラブとアリーナの一体運営を目指しています。その背景には、スマートバリューの街づくりに対する考え方があると推察されます。スマートバリューは行政主体の地域社会の運営を民間企業やその他セクターなど多くの主体者が担っていく必要があるといった考え方を持っており、それを社会に実装する1つの形として神戸アリーナの設立を主導しています。
これは行政にとっても歓迎するべき取り組みであったようです。神戸アリーナ構想はスマートバリューが2022年8月に神戸市と締結した「都心・ウォーターフロントエリアの未来づくり」に向けた事業連携協定に基づき進める周辺地域一帯の再開発事業の一環であり、まさしく従来であれば行政が進めていたプロジェクトを民間主導で進めるケースとなります。スマートバリューが展開するデジタルガバメント、モビリティ事業などのノウハウも活用することによりスマートアリーナ、ひいてはアリーナを軸としたスマートシティ化という街づくりに貢献することになるでしょう。このように、民間が進める街づくりという大きなコンセプトの中に、Bリーグクラブの経営とアリーナ構想を絡め、地域の活性化を目指す取り組みもアリーナ構想の好事例といえるでしょう。
*1 :西宮ストークスは2023年に本拠地を西宮市から神戸市に移転予定
アリーナ構想の今後の展望と課題
今回のBリーグクラブのアリーナ構想にスポットを当てた考察より、アリーナ構想においては地域、クラブ、パートナー企業の三者が相互にベネフィットを享受するパートナーシップの形を創り出すことが重要であると考えられます。図表4のように、Bリーグが掲げる2026-27年シーズン開始の新レギュレーションが、「クラブ・アリーナを軸に地域が発展」「バスケで日本を元気に!」といった考え方がベースになっていることから、リーグが共創型のパートナーシップを求めていることもうかがえます。
クラブ経営とアリーナ運営においては、プロスポーツそのものの商業的価値に加えて、周辺産業への波及効果や地域活性化への貢献としてどのような価値が見込まれるかに注目し、投資ストーリーを作り出すことが必須になっているといっても過言ではないでしょう。アリーナは、スタジアムに比べ、天候に左右されず、スモールサイズの投資ができる点も考慮すると、リスクを抑えた投資で広範な価値創出を見込める点で魅力的なアイテムであることも間違いありません。
一方で、アリーナ構想を絡めながら、理想的なパートナーシップを創り出すことは決して容易ではありません。中長期的にクラブの所在地域で見込まれる集客(マーケットの大きさ)、オフシーズンのアリーナの稼働見通し、ステークホルダーの資金力、PFIなどの制度活用など、様々な論点への対応や複数のアクターの利害調整を行いながら検討を進める必要があり、それは簡単な道のりではないでしょう。
今後のBリーグでは、2026-27年シーズンの新レギュレーションの運用が開始(一部条件付きの延期措置あり)されると、アリーナに関連する基準が複数設けられるため、各クラブのアリーナ構想の検討が加速していくことが想定されます。残された時間が少なくなりつつあることから、先行事例、様々な専門知識を活用しつつ、アリーナ構想の検討を確実に進めていく必要があるでしょう。Bクラブへの支援に関心がある企業や団体には、Bクラブおよびアリーナを絡めたパートナーシップの在り方に沿った参入ストーリー作りを、クラブ関係者にはクラブ・アリーナの価値を最大限生かした経営強化を目指してもらいたいと考えます。