2022年6月22日、デロイト トーマツは「ESG/DX時代の人的資本経営へ 欧米で標準化するHRテクノロジーやフェムテック」と題して講演を行いました。
冒頭、デロイト トーマツ コンサルティングの上林俊介が登壇して人的資本への関心が高まっている背景を説明し、続けてデロイト トーマツ ベンチャーサポートのセントジョン美樹が人材の意義が捉え直されている背景や、HRテクノロジーおよびフェムテックの活用について解説しました。最後に、上林とセントジョン美樹、そしてデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーの永津英子が対談を行いました。このイベントの模様をレポートします。

セントジョン 美樹

デロイトトーマツ ベンチャーサポート株式会社
海外事業部北米事務所
シニアマネージャー
米国デロイトコンサルティングLLP
日本サービス部門
デジタルイノベーション事業統括シニアマネージャー

外資系企業や国内大手企業におけるDXやダイバーシティ推進業務を経て、2018年6月にDTVSへ入所、日米オープンイノベーションに関与。GAFAの動向、デジタルヘルス(Femtech)HRテクノロジーなど、ユーザー・ヒトセントリックなテクノロジー調査や日系企業などへの示唆、助言を行う。DE&I×テクノロジーなどの講演、イノベーション推進のための企業文化啓蒙、マインド変革や役員向けの個別研修なども行う。

上林 俊介

デロイトトーマツ コンサルティング合同会社
マネージングディレクター

M&Aや再編局面における組織人事デューデリジェンス、リテンション戦略策定、組織人事PMIなどの人的資本関連M&Aサービスを専門としている。ガバナンスやマネジメント体制の整備、幹部報酬デザイン、組織デザイン、従業員エクスペリエンス、タレントマネジメント戦略、報酬モデルの統合、文化的統合などの幅広い領域でPIMに関与。近年は、人的資本情報の開示を契機とした人事・人材戦略のレビュー、策定などを支援し、社外への情報発信も積極的に行う。

永津 英子

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
取締役兼パートナー

財務・M&Aアドバイザーとして、21年以上の経験を有する。Asia PacificのFAのClient & Industry Leader、FAのインド室統括パートナー。Deloitte GroupのDiversity & Inclusionのコアメンバーとして、立ち上げ期からD&Iのコンセプトの立案・浸透をリード。制度・風土改革、次世代の女性幹部育成プログラム、コミュニケーション改善策の立案・実行。現在は、日本以外のアジアの地域における女性活躍支援プログラムの開発などに携わる。

企業成長に大きな影響を与える人的資本(上林俊介)

昨今、企業経営は大きな転機を迎えています。その1つのテーマとなっているのがESGでしょう。企業に対して環境(Environment)と社会(Social)、そして企業統治(Governance)のバランスが求められるようになり、ESGを意識した投資も広まっています。さらにデジタル革命により、企業価値(時価総額)の大半を無形資産が占めるようになっており、競争力の源泉として無形資産の1つである人的資本への投資が重要と認識されています。

次の図は、アメリカのS&P構成銘柄の時価総額に占める有形資産/無形資産の割合を表していますが、1975年時点では無形資産の割合はわずか17%であったのに対し、2020年には90%に達しています。

出所:OCEAN TOMO調査 INTANGIBLE ASSET MARKET VALUE STUDY(2020年)よりデロイト トーマツ グループ作成

ブランドや知的財産など、無形資産には様々な構成要素がありますが、その1つとして重要となっているのが人的資本です。企業の成長に対し、人的資本が与える影響は極めて大きくなっています。これに対応して、これまでの人材を資源、人件費をコストと考えて効率性を追求する従来のオペレーションから、人材を資本、人件費を人的資本への投資と捉えた新たな人材戦略へと速やかに転換し、人材マネジメントに関わる課題の解決に待ったなしで取り組まなければならない状況となっています。

出所:デロイト トーマツ グループ作成

アメリカで進む従業員エクスペリエンス・福利厚生の高度化(セントジョン美樹)

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を実践していくことを考えたとき、法規制の整備と企業カルチャーの醸成、そしてコミュニティが重要になると考えています。

法規制の点では日本が先進国であり、例えば男性の育児休暇に関する法律は整備が進んでいます。一方、企業カルチャー、つまりD&Iを実現する企業文化や風土の醸成は多くの日本企業において課題となっている部分ではないでしょうか。コミュニティというのは、特定のニーズや課題意識を共有する従業員グループなどで、例えば子育て中の親、あるいはLGBT(Q)、女性管理職などといったものが考えられます。こういったコミュニティが機能することで、これまで見過ごされてきた視点や新しいニーズ・気付きなどを、インクルーシブな風土作りへと役立てることができます。

企業が、こうした取り組みを加速していくために、今あらためて注目されているのが、HRや組織内コミュニケーションといった分野でのテクノロジーの活用です。

またDXの観点でヒト・モノ(サービス)・カネ、そしてデータを考えたとき、モノやカネのDXは進み、ITに関しても高度化が進められている一方、ヒトに関するDXは遅れています。例えば人事部長が経営ボードメンバーではないなど、経営に対するインパクトが小さく見られていたからです。またヒト視点の「財務諸表」といったものがなく、データ活用や科学的で高度な分析といった取り組みが不足しているなど、ヒトの観点を忘れがちでした。そのため、ヒトの部分をもう少し可視化しましょうといった流れが生まれているのが現状です。

出所:デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社作成

アメリカでは2017年頃からエンプロイー・エクスペリエンス(従業員エクスペリエンス・EX)に注目が集まり、そのトレンドが日本にも波及しつつあります。

さらに、従業員向けに、提供する福利厚生サービスのアンバンドル化がアメリカでは進んでいます。従業員に対してまとめて一括のベネフィットを提供するといった形では通用しなくなり、それぞれの特性に合わせたサービスを提供することが求められていること背景にあります。

同じ会社の従業員であっても、ライフスタイルや価値観はそれぞれで異なります。そこで様々なサービスの選択肢を用意し、従業員は自分たちのライフステージにあった必要なサービスを利用できる環境を整えているわけです。

お金(金銭的な給付)と健康支援、柔軟な働き方の3つの基本形に加え、キャリア開発のための教育や子育て支援などといった形で従業員を支援する、つまり従業員へ投資する取り組みも広まっています。

出所:米国CNBCのmake itの記事などを参考に、米国識者などのヒアリングなどを経てデロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社作成

そういった従業員向けのサービスを提供するための仕組みはプラットフォーム化が進んでいて、スマートフォン用アプリを使っていつでも、どこからでもアクセスすることができるようになっています。提供されるサービスがパーソナライズ・カスタマイズされていくのも今後のトレンドになるでしょう。フェムテック(女性のヘルスケア課題をテクノロジーで解決するという領域)を後押ししている要因の1つとしても、この企業の「従業員エクスペリエンスへの高度化・投資」があります

ESGを念頭に、経営・企業側も従業員に必要な「サービス」は何かについてゼロベースで考え始めるようになり、特に、(多くの場合)少数派だった女性従業員の隠れたニーズや課題解決にフォーカスした検討が進んだことがあります。フェムテックは、妊活・不妊治療向けサービスを提供する企業なども含まれますが、こういったESG経営・企業側のニーズや、従業員エクスペリエンス変革の流れが背景にあります。

ヒューマンはリソース(資源)ではなくキャピタル(資本)

最後に永津と上林、そしてセントジョン美樹がそろって登壇し、座談会が行われました。そのやり取りの一部をご紹介します。

セントジョン

ヒューマン(人)はリソース(資源:有限)ではなくキャピタル(資本)なんですね。資本なので投資をすれば価値が上がる。だから、人に対してなぜ投資をしないんだということになるんです。これはホワイトカラーに限りません。現在のアメリカではエッセンシャルワーカーやブルーカラー(生産・製造現場で働く)ワーカーがどんどん辞めてしまい、人手不足が常態化しています。そこであらゆるタイプの従業員でもサービスを利用できるアプリを提供し、エクスペリエンスを高め、エンゲージメントやロイヤリティを高めるといったことが一般化しつつあります。

永津

人材採用には大きなコストがかかるだけでなく、人材獲得競争も激しくなっています。そうした状況を考えると、従業員のロイヤリティを高める取り組みは必須といえますね。日系企業でHRテクノロジーやフェムテックなどをうまく利用している企業に共通する特徴はありますか?

上林

リーダーシップの意識と、取り組みを進めるための"場"を作ることが重要です。現場から従業員満足度の向上につながるツールを導入したいといったニーズがあっても、いざ始めようとしたときにマネジメントからストップがかかることが多い。そのため、リーダーが現場の取り組みをサポートする意識を持つことが重要です。さらに、そのような取り組みをスモールスタートできる枠組み、言い換えれば"場"があることもポイントになります。

このほかにも様々な話題で座談会は大いに盛り上がりました。最後に、永津が「今後もこのような形で皆さんと情報共有を進めつつ、日本全体で人的資本経営の取り組みが加速するように支援していきたい」と述べてセミナーを締めくくりました。

※当記事についてのご意見やご質問は、FA DE&I担当 渡辺真里亜にお寄せください。

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国内外約3,000社のベンチャー企業との間でネットワークを有するデロイトトーマツベンチャーサポートから、主に、米国シリコンバレーチームのメンバーが中心となり、様々なスタートアップやエマージングテクノロジーの最新潮流について定期的に発信します。...さらに詳しく>>