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文化財の社会的価値の定量化とその活用の動きが進んでいる。デロイトの経済助言チームが姫路市の協力のもとで分析した姫路城の社会的価値は1.8兆円で、入場料の年間収入の100年分を越えている。日本に国宝・重要文化財が約13500件あることを考えると、日本全国の文化財の社会的価値の総計は天文学的金額となりうる。姫路城の財務収益を遥かに超える非財務(社会的)価値の源泉となるのは実はインバウンドだ。姫路城と同程度の年間の入場者数を受け入れる他のお城(城址公園)の社会的価値はインバウンドからの認知度の差を考慮した結果、過去の分析時点では姫路城ほどは高価値に至らなかった。▼一方、デロイト海外チームが分析したローマのコロッセオ(約10.5兆円 2022年のユーロ円レート)やシドニーのオペラハウスの社会的価値(約1.1兆円 2023年の豪ドル円レート)と比較すると、海外での知名度と価値に緩やかな関係があることが窺える。また、オペラハウスの社会的価値は過去10年間で約4割上昇しており、世界遺産のような著名な文化財の社会的価値の金額とその伸びは今後も期待される。実は、もっと潜在的な価値の飛躍を望めるのは、財務的価値がほとんど期待できない、地域で親しまれている文化財かもしれない。▼こうした文化財の社会的価値の可視化の試みはまだ道半ばだが、簡易的で低コストの可視化スキームが開発され地域の文化財の価値が多くの人に認知された結果、全国の苦境に直面していた文化財への支援が持続可能となる環境はあと数年で創出されると見込んでいる。(パートナー 増島雄樹)