マラソンが切り拓く北海道 地方創生の新たな形
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
川端 一成

写真:北海道の別海町パイロットマラソンの完走賞で名産品の鮭1匹を受け取った、65BASE阿萬さん、杉本さんと、編集部川端
人口減少や財政難が進む中、地方には「自ら稼ぐ力」が求められています。各地方の自治体、企業が策を講じていますが、地元にある産業だけではこれ以上大きく稼ぐことは難しいのが現状です。新たな収益源を探している中で注目されているのが、スポーツを活用した地方創生です。スポーツイベントは人の流れと熱量を地域にもたらし、観光や経済へ大きな波及効果があります。地元住民の参加や協力を通じて一体感も生まれ、地域ブランドの再構築にもつながるためスポーツは今、地方の未来を切り拓く戦略的なツールとして期待されています。その中でも特にマラソンは参加のハードルが低く、地域資源を活かしたコースづくりにより、地域の魅力を効果的に発信できます。
今回は、北海道で65BASE代表を務め、北海道応援観光隊として市民ランナー向けのイベント企画やゲストランナーとして北海道を盛り上げる阿萬香織さんにお話を伺いました。(聞き手:編集部川端)
目次
阿萬 香織
株式会社65BASE 代表取締役
北海道応援観光隊 札幌観光大使
北海道応援観光隊、札幌観光大使、北海道マラソン2025応援サポーター。カゴメ株式会社の営業に従事する傍ら、2022年に株式会社ROKUGOUBASEを設立。道内外のマラソン大会のゲストランナーや道内のイベントを企画して、市民ランナーに走るきっかけと魅力を与えている。
杉本 晴美
株式会社65BASE スタッフ
65BASE コアスタッフとして運営をサポートする傍ら、自身も市民ランナーの一人として千歳JALマラソン、洞爺湖マラソン、別海町パイロットマラソンを始め道内外多数のマラソンに出走。道内各地のイベントにも足を運ぶ。
スポーツを通じた地方創生の可能性

――阿萬さんは北海道応援観光隊、札幌観光大使として北海道の魅力を伝える役割を担っていますが通常の観光・旅行ではなくスポーツという切り口で活動されていますね。
阿萬さん
北海道には、各地に魅力的な農産物や観光スポットが数多くあります。スポーツイベントは、そうした地域の魅力を知っていただくきっかけになっていると感じます。例えば「富良野山部ウォーク・ラン&イート」では、緑あふれる自然の中を歩いたり走ったりした後に、地元の名産であるトマト、アスパラ、メロンなどを楽しんでいただける企画が用意されています。
ランニングイベントは、運動を通じた健康づくりの場であると同時に、地域の魅力を伝える機会にもなっています。また、都市部からの参加者を迎えるだけでなく、地域の方々同士がつながる場にもなっており、地域内のコミュニケーションが生まれている印象です。
外から人を呼び込むだけでなく、地域の内側で生まれるつながりを大切にしていく。そうした積み重ねが、結果として地域の活力につながっていくのではないかと感じています。
杉本さん
65BASEのスタッフとしてランナーの皆さんをサポートしたり、自らランナーとして参加したりしながら、日々活動に関わっています。スタッフという立場でも、道内各地のイベントを地域の方々と一緒につくり上げていくことに、大きなやりがいと喜びを感じています。

(https://baribarimelonrun.studio.site/)
――ランニングイベントでは夕張市でのマラソン大会が話題になりました。財政破綻からの再建が苦戦する中で、あらたな地方創生策として注目されています。
阿萬さん
夕張市は、誰もが知るメロンの名産地でありながら、人口減少の影響を受け、財政面では厳しい状況が続いています。そうしたなか、地域の魅力を発信しようと、2022年から「夕張バリバリメロンラン」が開催されています。完走後には、名産の夕張メロン半玉を味わえるユニークな仕掛けもあり、夕張らしさが随所に感じられるイベントです。
初心者や親子でも気軽に参加できるような工夫が施されており、昨年はリピーターに加えて新たな参加者も増加。今年はさらに多くの盛り上がりが期待されています!
スポーツイベントを“地域資産”に変えるには
――イベントを活用した地方創生を考えると単発ではなく継続的に開催していく体制が必要になります。スポーツイベントを定着させるには、どのような点が重要でしょうか。
阿萬さん
イベントを単発で終わらせず、“年中行事”として地域に根付かせていくためには、地域の方々の理解と協力が欠かせません。ランニングイベントは、行政だけでなく、地元の市民ランナーがペースメーカーとして参加したり、地域の方々が給水所でボランティアを務めたりと、まさに地域一体となってつくり上げられています。
中には、「地域やイベントを盛り上げたい」という想いで、熱心に関わってくださる方もいらっしゃいます。地域の皆さんが「これは自分たちのイベントだ」と感じられるようになれば、自然と年中行事として定着し、参加者の満足度も高まっていくのではないでしょうか。
とはいえ、実際には赤字で運営されているイベントもあり、継続には様々な課題も残されています。地域に根差した持続可能な取り組みとして育てていくためには、工夫と同時に、覚悟も必要だと感じています。
――豊富な自然・文化・人材とスポーツイベントを組み合わせることで、その「地域資産」をより有効に活動できるということですね。
阿萬さん
65BASEを立ち上げた当初は、活動の中心は札幌周辺のイベントでしたが、現在では道内各地へと足を運ぶようになりました。今年は、稚内、北見、釧路、富良野等で、地元の方々と一緒にイベント内容を考え、実施します。また、夕張バリバリメロンランのほかにも、最東端・根室で開催される「根室シーサイドマラソン」、「カムイの杜トレイルラン」、「白旗山トレイルレース」、「スィートガールラン」、「釧路空港マラソン」など、応援サポーターという形で盛り上げさせていただきます。
私たち65BASEは、スポーツを通じて人と人とがつながるプラットフォームとなることを目指し、これからも活動を続けていきます。
地方が抱える課題の中にはスポーツによって解決できる課題、果たせる役割があります。特にマラソンは、ただのスポーツを越えて人や地域の想いをつなぐ「場」になる特徴を持っています。走ることで地域と未来をともにつくっていく、そんな動きが、北海道から静かに、しかし確かに広がっています。
北海道の主なマラソン大会一覧