未来の不確実性を前提に、自己変革ができる組織を作る「シナリオ・プランニング」
DTFA Times編集部
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)では、2024年12月 より、これまで対面型で提供していた「シナリオ・プランニング 」を、オンライン上で実施できる「シナリオ・プランニング プラットフォーム(SPP)」の提供を開始しました。SPPを用いることで、より多様なステークホルダーが未来共創に携われるようになりました。今回は長年シナリオ・プランニングをリードしてきた西村 行功に、シナリオ・プランニングおよびSPPのサービス概要や意義、今後の展望などについて話を聞きました。
目次
西村 行功
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
パートナー
事業会社にてマーケティング戦略および全社経営戦略の策定に従事した後、米ミシガン大学にて経営学修士(MBA)を取得。戦略コンサルティング会社などを経て、株式会社グリーンフィールド コンサルティング(GFC)を設立。長年にわたり、シナリオ・プランニング、中長期事業戦略、新規事業・新商品開発戦略、企業変革、人材育成などの分野を中心に活動するほか、大手企業の人材育成プログラム・戦略研修講師も務める。2021年より現職。
不確実性を前提とした複数の未来を構築する「シナリオ・プランニング」
――はじめに「シナリオ・プランニング 」および「シナリオ・プランニング プラットフォーム(以下、SPP)」の概要について教えてください。
まず、シナリオ・プランニングとは、単一の未来予測ではなく、「不確実性を前提とした起こり得る複数の未来環境=シナリオ」をワークショップなどで複数構築し、各シナリオに応じた戦略(=戦略的示唆)を抽出する対面型サービスです。
一方、SPPは一言で言うと、シナリオ・プランニングをオンライン上でも実施できるプラットフォーム です。もう少し詳しく説明すると、シナリオ・プランニングにおいて対面で実施している「未来変化動向の抽出」や構築したシナリオに対する戦略の深堀りなどを、SPPではオンライン上で行うことができます。つまり、シナリオ・プランニングの一部のプロセスをオンラインに置き換えたものです。どちらも「戦略策定の前段階において、シナリオを複数構築し戦略的示唆を得ること」を目的としたサービスになります。両サービスは企業だけでなく自治体などでも幅広く活用可能です。
上図はシナリオ・プランニングの全体フローです。検討する未来テーマを設定したのち、「シナリオ・プランニングの考え方の理解→未来シナリオ構築→戦略的示唆の検討」というステップを踏みます。SPPは上記のうち、未来シナリオ構築と戦略的示唆抽出を行うワークショップ以外のステップをオンラインで完結させるプラットフォームです。
DTFAでは、検討する未来テーマの設定やワークショップのデザインおよびファシリテーション、構築したシナリオの掘り下げなどを含むすべてのプロセスの伴走型実行支援を行っています。
――「シナリオ・プランニング」や「SPP」を実施する意義は何でしょうか。
不確実な未来の先取りまたは変化対応により、自己変革ができる組織を作りあげられることが最大の意義です。シナリオ・プランニングやSPPでは、「未来は完璧には予測できない」という前提に立ち、不確実性を前提とした「起こりうる複数の未来環境」を描きます。この未来環境のことを未来シナリオといいます。クライアントの企業・組織は、このような複数の未来環境に備えた戦略策定・マネジメントを遂行することで、先が見通せない現代においても未来変化への柔軟な対応が可能になります 。
また、シナリオ・プランニングおよびSPPでは、企業や自治体のメンバーがワークショップを含むすべてのプロセスに主体的に関与し、複数のシナリオと戦略的示唆を検討していきます。DTFAのメンバーは全体のプロセスをリードしつつ、ファシリテーターとしてクライアントメンバーの議論を側面からサポートします。この“クライアント自身でシナリオを構築する”という点が、変革に強い組織をつくりあげるポイントです。変革の効果は「Q(quality:質)×A(acceptance:納得感)」という計算式で導き出せます。「QとAの掛け算」という点が重要で、クライアント自身で主体的に未来について考えてもらうことで、A(acceptance:納得感)の値を大きく高めることができます。クライアントメンバーの知見に加え、我々のサポートによるQの向上と、クライアントのメンバー自身が参加することによるAの向上という観点で、シナリオ・プランニングやSPPを活用したサービスは変革に強い組織作りに寄与すると考えています。
――オンライン上でシナリオ・プランニングを実施できる「SPP」を開発した狙いは何でしょうか。
一言で言うと、スケーラビリティの拡張です。対面型でシナリオ・プランニングを実施する際のプロジェクトチームの人数は、最大でも20名程度です。この規模の人数となっている理由は、ワークショップでの対話の効果を最大限発揮できる上限がそれくらいだからです。あまりにも人数が多いと議論が収束しづらくなり、結論が出ないまま発散しっ放しで終わったり、抽象的な議論・結論で終わってしまったりする恐れがあります。
この「人数の限界」という課題の一方で、人数が少ないことによる「議論の多様性の欠如」というリスクも感じていました。いわゆる、議論が同質化してしまう「金太郎飴」的なリスクです。多彩かつ多面的検討がなされたシナリオをつくるためには、多様な役職・職種・経験・年齢のメンバーから広く意見を募ることが必須でした。加えて、参加する人数が多いほど、多くのメンバーの「巻き込み」が可能となり、先述したA(acceptance:納得感)も高くなります。変革の輪を大きくするという意味でも、スケーラビリティの拡張が必須でした。
こうした課題を解決するために、場所・時間問わず意見投稿や対話ができるオンライン・プラットフォームを構築することにしたのです。
上図は、SPPを活用した進め方全体フローで、STEP4以外はすべてオンライン上で完結(従来、STEP2、3、5は対面ワークショップのなかで行っていた)。なお、全体のフローは約4~6ヵ月かけて実施します。
このような背景で開発したSPPでは、シナリオを策定するワークショップ(上記STEP4)は対面&少人数で実施するものの、それ以外のプロセスをすべてオンライン上で実施しています。
企業or自治体によって異なる活用法。SPPは島根県や浜松市でも活用
――「シナリオ・プランニング」および「SPP」の活用法について、企業・自治体それぞれのケースを教えてください。
企業の場合、どれほど大きな企業であっても、多かれ少なかれ望ましくない未来が訪れる可能性があります。例えば、自社が強みとしていた技術が廃れ、自社では手掛けていなかった代替技術が世の中で普及するような場合でも、その「望ましくない」未来環境には何らか対応していく必要があります。そのため、企業がシナリオ・プランニングおよびSPPを利用する場合には、強みや弱みを一旦横におき、「客観的に起こりうる未来」をまず考えます。仮に望ましくない未来の蓋然性が高そうだと判断したら、中長期視点で外部の強みの獲得(例えばM&A)や自己変革を実施していくこととなります。
一方、自治体など公共領域でのシナリオ・プランニングの場合は、「客観的に起こりうる未来をまず考える」ところまでは企業と同様なのですが、次のステップとして、「起こりうる未来のうち『望ましい未来』を、多様なステークホルダーとの協業で形成していくことができないか」と考えます。これは、ひとつの企業の取り組みに比べて「世の中の行く末」についてコントロール可能な範囲が広いからです。そのため、シナリオ・プランニングおよびSPPを使って、「望ましい未来の実現」および「望ましくない未来の回避」といった構想に繋げていくことできます。言い換えれば、客観的視点に立ったうえでの未来ビジョンの構築と、それに至らないリスクの認識が可能となるのです。
――例えば、どのようなテーマでSPPを活用したシナリオ構築に取り組んだ実績があるのでしょうか。
例えば、島根県では「中小企業の事業承継」を、浜松市では「スポーツ政策」をテーマに、多様な参加者がSPPを用いたシナリオ構築に取り組みました。またSPPの活用ではありませんが、アカデミック領域では、例えば同志社大学と神戸大学の合同ゼミで、アジア太平洋地域情勢について8つのシナリオを描いたこともあります。この取り組みは新聞でも取り上げられ 、私としてもとても印象的なプロジェクトでした。企業向けには毎月、多様な業界についてのシナリオ・プランニングの対面型プロジェクトを実施しています。
将来的にSPPは多言語対応させ、グローバル展開を目指したい
――今後、SPPをどのように発展させていきたいですか。
まず仕様面について、現在のSPPは主にテキストベースで構成されているため、例えば図表や動画などの視覚的な要素を加えることで、コミュニケーションをより活性化させることができるのではないかと考えています。
またAI活用も検討中です。現在はSPPに寄せられた多数の意見投稿整理へのテクノロジーの活用は限定的です。今後は、この作業をAIに対応させ、1万人規模のプロジェクトを実施できるように準備を進めています。
そのほか、将来的にはSPPの多言語化によるグローバル展開も進めていけたら嬉しいですね。SPPは言語ベースのサービスのため、多言語化対応自体のハードルは決して高くはないはずです。実際に海外ではシナリオ・プランニングは広く普及しており、SPPについて問い合わせを受けたこともあります。海外でのこうしたニーズも一定数あるのではないかと考えています。