第6回 ソフトウェアの知的財産管理
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
TMT/知的財産アドバイザリー
森山 三紗
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
TMT/知的財産アドバイザリー
山田 渡
近年、コロナ禍によりデジタル化・オンライン化が一気に加速し、社会や産業構造の調整が進んだ。また、ビジネスに必要な技術も大きく変化し、生成AIやブロックチェーン・セキュリティ、VR技術の進歩によりメタバースやWeb3.0など次なるデジタル化が企業に求められている。一方で、このような技術や市場の進展に伴いソフトウェアに関する知的財産(以下、ソフトウェアIPとする)にも注目が集まっている。
ソフトウェアIPについて、第6回と第7回の2回に分けて紹介する。第6回である本稿では、「ソフトウェアIPの一元管理によるメリット」について、第7回では、「ソフトウェアIPの収益貢献と価値評価」について、説明する。
目次
ソフトウェアIPの一元管理によるメリット
ソフトウェアに関する知的財産権は様々であるが、本稿では特に著作権の管理について国内外事例などを紹介する(表1)。
日本企業と欧米企業のソフトウェアIP管理の違い
日本企業では知財部に配置された特許担当により特許の管理・活用が実施される一方で、著作権には専任人材がいないことが多く、十分な管理・活用は実現されていないと考えられる(表2)。これに対し、欧米先進企業では知財部がソフトウェア著作物の価値などに係る専門知識を有しており、知財部を軸としたソフトウェア著作物の一元管理・活用が実現されているケースが確認されている(表3)。
欧米先進企業においては、ソフトウェア著作物を専任人材により一元管理することで、ソフトウェア著作物の価値の製品価格への反映や、事業部間でのソフトウェア再利用促進など、企業の収益性向上につながるソフトウェアIPの活用を実現していると考えられる。一方、上述のように著作物の一元管理が行われていない日本企業では、ソフトウェアIPの価値を製品価格へ反映させることや、価値の高いソフトウェアIPの事業部間での再利用を促進させるための体制において課題が存在すると考えられる(表4)。
ソフトウェアIP管理の検討
ソフトウェアIPを活用して利益を向上させるためには、ソフトウェアIPの管理・活用・開発に関する循環を実現するための仕組み作りや体制整備を行うことが重要であると考えられる(図1)。ソフトウェアIPの管理体制については、コーポレート機能内にソフトウェア著作物の専任担当を配置して全社のソフトウェア著作物を一元管理することが、ソフトウェア著作物活用を進める好ましい体制の一例であると考えられる(図2)。
ソフトウェアIPを一元管理するためには、ソフトウェア著作物に関する知見の獲得や、ソフトウェアを管理活用するための仕組み作り、管理活用のための体制構築が必要と考えられる。主な論点は以下の通りになる(表5)。
おわりに
本稿ではソフトウェアIPを中心に解説した。企業グループの知的財産を一元管理する企業は増加しているが、全ての企業グループにとって一元管理が最適であるとは限らない。紹介した論点を踏まえて、自社グループに適した体制を構築していただきたい。
第7回では、「ソフトウェアIPの収益貢献と価値評価」について、紹介する。