継続的に成長している世界のゲーム市場のトレンドとして挙げられるのが、マルチプラットフォーム化の進展、大型M&A・新規参入によるプレイヤー再編、それらに伴う米国・中国企業の台頭の3点です。また、国内ではゲーム業界の変化に伴い、プレイヤーの戦略転換が求められています。それぞれのトレンドについて、詳細を解説していきます。(編集:DTFA Times編集部 佐野綾香)

※当記事はIndustry Eyeに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

ゲーム市場の成長

調査会社Newzooによると2021年に世界のゲーム市場は1,927億米ドルとなっており、さらに2026年には2,057億米ドル規模に達すると予想されています。

世界のゲーム市場規模推移
データソース:Newzoo(https://newzoo.com/resources/trend-reports/newzoo-global-games-market-report-2022-free-version)

世界のゲーム市場のトレンド

マルチプラットフォーム化の進展

「Among Us」「FORTNITE」などのユーザー数が1億人を超える世界的なヒットタイトルの多くは、モバイル、PC、コンソール(Nintendo Switch、PlayStationなど)といったマルチプラットフォームでのプレイができます。また、各プラットフォーマーもマルチプラットフォーム化を推進しています。これにより、ユーザーへの新たなゲーム体験の提供、ゲーム内での交流活性化、遊び方の幅の拡大を可能にしています。

ユーザー数1億人を超える主なタイトル(億ゲー)
データソース:各社公開情報・ファミ通・TechCrunch

大型M&A、異業種からの参入によるプレイヤー再編

近年、ゲーム業界内の大型M&Aが多くなっています。特に、2022年はMicrosoftによる米国大手ゲームパブリッシャーのActivision Blizzardの買収(687億米ドル)、Take-Two Interactive Softwareによる米国のソーシャルゲーム大手Zynga買収(127億米ドル)など、近年まれにみる大型M&Aがありました。このような大型のM&Aの実施により、ゲーム業界の再編が急速に進んでいます。また、異業種のプレイヤーによるゲーム業界への参入も進んでいます。特にメディア・エンターテインメント企業のプレイヤーの参入が顕著です。

一方、各プレイヤーの業績については明暗が分かれています。現在、モバイルゲームを中心に展開している動画配信サービス大手Netflixは、ゲーム事業参入後もケイパビリティ拡大に積極的です。フィンランドでのゲーム制作スタジオ設立、MetaのAR/VRチームのコンテンツ担当バイスプレジデントやZyngaのクリエイティブ責任者、モバイルゲーム企業のプロデューサー、エグゼクティブを歴任したMike Verdu氏の起用など、精力的に活動しています。一方で、2019年のクラウドゲーミングサービスStadia発表で話題となったAlphabetは、2022年9月にStadiaのサービス終了を発表しています。

ゲーム業界における大型M&A(2020年以降、買収金額10億米ドル以上)
データソース:SPEEDA(https://jp.ub-speeda.com/)

米国・中国企業の台頭

米国・中国のプレイヤーの台頭もトレンドのひとつです。3.5億人以上の登録ユーザーを誇る「Fortnite」は米国Epic Games、2.5億人以上の登録ユーザーがいる人気ゲーム「荒野行動」は中国NetEaseがパブリッシャーとなっています。特に中国企業は日本においてもゲーム会社の買収や人材獲得を活発に進めており、ゲーム業界での存在を高めているといえるでしょう。

日本のゲーム市場

日本のゲーム市場では、「戦略の転換」と「IP・技術力の争奪戦」がキーワードとなっています。

日本の大手ゲーム企業はNintendo Switch、PlayStationなどのコンソール向けに多くのゲームを開発してきました。しかし、現在ではデバイスに依存しないゲームが主流となり、戦略の転換を求められています。また、海外プレイヤーは、長年愛されている日本のIPや技術力を持つ日本の開発会社に目をつけ、買収、資本提携、人材獲得に積極的です。特に潤沢な予算、スピード感ある意思決定が特徴の中国企業を魅力に感じるクリエイターが多く、IP、および技術の争奪戦が今後激しくなるでしょう。

TencentはAimingやプラチナゲームズ、マーベラスなどのゲーム開発企業への出資、Nintendo Switch向けゲームを開発するウェイクアップインタラクティブの買収などを行っています。NetEaseは日本への投資を進めており、セガの人気シリーズの生みの親、名越稔洋氏はNetEaseの出資でスタジオを設立しました。また、人気シリーズ制作に関与したカプコンの小林裕幸氏がNetEaseに移籍するなど、有名クリエイターの獲得も行っています。

おわりに

世界のゲーム市場では、急速なマルチプラットフォーム化、業界内大型M&A・異業種からの参入によるプレイヤーの交代、米国・中国企業の存在感の高まりなど、様々なトレンドが起こっています。一方、日本のゲーム市場のプレイヤーは、主流となるゲームの変化により、方針転換が求められています。優良なIPや優秀なクリエイターを有している現在の状況下でもグローバルでの競争力を高めることが肝要です。IPを有効に活用する仕組みづくりや優秀なクリエイターの獲得、育成、リテンションのための魅力的な制作環境の提供が必要となってくるでしょう。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ストラテジー

山口 洋平 / Yamaguchi Yohei

マネージングディレクター

外資系コンサルティングファームを経て現職。2013年にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、TMT業界のクライアントを中心に、M&A戦略の策定やバイサイド/セルサイドにおけるプロセス支援、ビジネスDD、事業計画策定支援といった業務に従事。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ストラテジー

二階堂 慎 / Nikaido Shin

シニアアナリスト

テクノロジー・メディア・テレコム業界のクライアント向けにビジネスデューデリジェンス、事業売却支援、新規事業開発支援、市場調査などの多岐に渡るサービスを提供。日系証券会社、総合系コンサルティングファームを経て現職。