「暮らしに新しい文化を創る」をミッションに掲げ、ウォーキングアプリ「aruku&(あるくと)」を運営している株式会社ONE COMPATH ワン・コンパス(以下、ONE COMPATH)。同社とデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)は、2023年2月7~16日に、同アプリを用いたオンライン型ウォーキングイベント「1day3000ウォーキングチャレンジ(以下、1day3000)第8弾」において、SROI(Social Return on Investment)分析を用いた「歩行の社会的価値」の定量化・可視化する取り組みを実施しました。
今回、aruku&の事業責任者の石田佳孝氏と「1day3000」事務局長の山岸靖典氏をお迎えし、同イベントの振り返りや“歩くことの価値”、今後の展開可能性などについて、様々な観点から語り合う座談会を開催しました。伺うのは、DTFAのイノベーション統括パートナーである伊東真史と、歩行の社会的価値定量化プロジェクトに参画した竹ノ内勇人、三宅洋基、佐々木友美です。

石田 佳孝氏

株式会社ONE COMPATH
執行役員CIO

2000年、凸版印刷株式会社に入社。主に企業向けのマーケティング業務に従事した後、2012年よりコンシューマ向けメディア「Shufoo!」で多様な新規サービス立ち上げに携わる。2019年、株式会社ONE COMPATHに参画。ウォーキングアプリ「aruku&」の事業責任者兼、企業向けの地図ソリューションサービス営業部門責任者を担当する。

山岸 靖典氏

株式会社ONE COMPATH
「1day3000」事務局長

2003年、凸版印刷株式会社入社。2016年よりウォーキングアプリ「aruku&(あるくと)」の事業立ち上げに参画。これまで100以上の企業や自治体のウォーキングイベントを支援。2020年4月、コロナ禍における課題解決をきっかけに「1day3000」を起案し、これまで第8弾まで事務局長として主導してきた。

「1day3000」をきっかけに歩く3,000歩の価値は大きい

最初に、ウォーキングアプリ「aruku&(あるくと)」のコンセプトおよびアプリに込めた思いについてお聞かせください。

aruku&は「あなたの一歩が宝にかわる」をコンセプトに掲げて2016年11月にリリースした、ゲームを楽しみながら日本各地の名産品をGETできるウォーキングアプリです。ゲームとはアプリ内にいる住民の依頼を歩いてクリアする、というもの。「増大する日本の医療費をどのように削減していくか」という課題に対し、当社の強みである“ゲーミフィケーションで人を動かすこと”でアプローチした結果生まれたアプリです。「健康にあまり興味がない方でも、ゲームの力で楽しく歩いて、生活習慣を改善して欲しい」、同アプリにはそんな思いが込められています。

医療費削減という課題意識から生まれたアプリなんですね。aruku&を活用したオンライン型ウォーキングイベント「1day3000」を開催したきっかけは何でしょうか。

「1day3000」は、イベント期間中毎日「3,000歩を歩くこと」にチャレンジするイベントです。同イベントの第1弾を開催したのは初の緊急事態宣言が発出された2020年4月。急速に広まったテレワークを背景に「従業員の運動不足」を懸念した多くの企業からの心配の声を受け、テレワーカーたちの運動機会の創出を目的に、同イベントを開催しました。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社:佐々木(バリュエーション&モデリング、シニアアナリスト)、竹ノ内(ブランディングアドバイザリー、シニアヴァイスプレジデント)

なぜ3,000歩という歩数を設定したのですか。

世界保健機関(WHO)が運動不足に陥らない最低限の運動量として、「週5日以上・1日30分の運動」を推奨しています。この30分の運動を徒歩に換算したのが3,000歩という数字です。

運動不足に陥らない最低限の運動量=3,000歩なんですね。そう考えると、「まったく運動習慣を持たなかった人が1day3000をきっかけに歩く3,000歩の価値」は、「普段1万歩を歩いている人にとっての3,000歩の価値」と比べて、非常に大きいですよね。

確かに1歩の価値は人によって違いますよね。

1day3000にしてもaruku&にしても、「普段あまり歩かない人にどうやって歩きたいと思ってもらえるか」を意識して設計しています。

SROI分析で本来持っている価値を定量化

「1day3000 第8弾」では、SROI分析を行い、医療費抑制効果やCO2削減効果など「歩くことの社会的価値」を定量化しました。SROI分析とは、CSR活動やスポーツ活動など財務諸表に現れない社会的インパクトを定量化する手段ですね。そもそもSROI分析のどこに興味を持っていただけたのでしょうか。

aruku&の強みとして、住民からの依頼をクリアするという「ゲーミフィケーションの要素」と地域の名産品をもらえるという「インセンティブの要素」があります。ただ一方で、ゲームにもインセンティブにも興味がない層が一定数います。例えば、他者への貢献に興味がある層もいるのではないかと考え、そういった層にもアプローチできる点にSROI分析の魅力を感じました。

また、aruku&のコンセプトは「あなたの一歩が宝にかわる」です。これまでのゲームや名産品という宝に加え、医療費抑制やCO2削減などの新たな宝をユーザーに発表できるのは単純にわくわくしましたね。

例えば、単純計算ですが、Jリーグの1クラブあたりの営業収益は約20億円です。個人的には「あれだけ人々を熱狂させるスポーツなのに、約20億円しか営業収益は上がらないのか」と思ってしまいます。このように世の中には「本当にこれだけしか経済的な価値がないの?」というものがたくさんありますよね。aruku&はまさに、そんな「本来持っている価値よりも経済的な価値が低い」とされているサービスの1つ。SROI分析でその本来の価値の一部を可視化できた点は意義があったと感じています。

本当にお金が介在するかどうかはさておき、「これだけの価値があるものなんだ」とユーザーに共有できたことは、歩くことの社会的価値を定量化・可視化した1つの成果でした。

「1day3000 第8弾」では他者への貢献が歩くモチベーションに

「1day3000 第8弾」では、社会的価値創造を実感してもらうために、全参加者の達成度合いに応じて、アプリ内に架空の公園ができたり、SDGsへ取り組む団体へ寄付ができたりと、面白い仕掛けも施しました。同イベントの実施結果について教えてください。

第7弾までは企業対抗戦ということで企業で参加することが条件になっていましたが、第8弾では個人がどなたでも参加できるようにしたので、第7弾の約6,000名から約5万名にまで増やすことができました。そして、その約5万人のうち、57%の人がイベント期間の10日間、毎日3,000歩を達成しました。この達成率もこれまでの企業対抗形式の30~40%と比べて、大きく改善されましたね。

また、今回はモチベーション向上の施策の1つとして、「歩くことによって削減された医療費で公園を作ったらどうなるか」をアプリ上で表現しました。これは「この公園を見ることが歩くモチベーションに繋がりましたか」というアンケートでも明らかになったのですが、「医療費削減という社会的価値の公園づくりによる見える化」や「自分の一歩が寄付につながること」といった他者への貢献が歩くモチベーションにつながった人が多くいたようです。

歩くという可能性・拡張性の高い秀逸なテーマと同テーマに関連する事業基盤を持たれているONE COMPATHさんだからこそ、約5万人もの参加者を集められたのではないでしょうか。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社:三宅(ブランディングアドバイザリー、ヴァイスプレジデント)、伊東(イノベーション統括、パートナー)

個人的に驚いたのが、アンケートの回答数が非常に多かったことです。回答を基に参加者のカテゴライズを行うことで、それぞれの属性に刺さる企画を展開できそうですね。

私どもが引き続き注力していきたいのが「仲間づくり」ですので、属性別のアプローチにはすごく興味がありますね。

歩くことの恩恵の裾野はとても広いですよね。歩くことで健康にもなれば、街並みを見たり、風を感じてリフレッシュしたりもできる。「良いと思うことをやっていけば、きっと悪いことはないから一緒にやりましょう」というメッセージを通して、一緒に仲間づくりを進められたら良いですね。

引き続き、「歩くこと」の重要性を発信していきたい

今後の展開可能性について、ONE COMPATHさんとDTFA、それぞれの立場からお聞かせください。

昨今は、「人生100年時代」や「Well-being(ウェルビーイング)」といったキーワードがよく知られるようになりましたが、100歳までWell-beingを実感するためには、長く健康でいることが重要です。

そして長く健康でいるためには、健康な今のうちから未来の自分に「健康への貯金」をすることが大切だと考えます。その手段の1つとして、「歩くこと」の重要性を引き続き発信していきたいですね。

「1day3000が寄付をしました」とイベントが主語になるのではなく、「参加者1人ひとりが10日間歩くことで寄付を実現しました」と、参加者を主語として社会的価値創造が語られるような文化・ビジネスモデルを醸成したいですね。そうすれば参加者もより増えるでしょうし、何より多くの人にとって歩くことが習慣化すると思います。

今後は、1day3000を模した取り組み・イベントが広まってきても良いと思うんですね。ただ、そのときには「もともとこの流れって、ONE COMPATHとDTFAの協業がきっかけだよね」と思ってもらえるような取り組みを、ONE COMPATHさんと仲間集めをしつつ、実行していきたいと考えます。