2021年に東京で開催された世界的なスポーツの祭典において、日本は新競技のスケートボードで男女ストリート・パークを合わせて5つのメダルを獲得し国内は熱気に包まれました。この活躍を受けて、スケートボードに関心を持ち競技を始めたいと考える人が増えているようです。一方で、スケートボードができる場所や環境がないためにトラブルに発展するケースがあります。
スケートボードを一過性のブームに終わらせず市場を拡大させ、かつ文化として根付かせるためには、今後どのような対策を講じればよいのでしょうか。米国の環境と比較しながら、国内でスケートボードを発展させるための対応策を考えてみましょう。

※当記事はIndustry Eyeに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

日本におけるスケートボードブームの変遷

スケートボードの起源は諸説あるものの、1940年代のカリフォルニアで木の板に鉄製の戸車を付け滑る遊びから始まったといわれています。日本にスケートボードが輸入されたのは、それから20年が経った1960年代のことです。サーファーを中心に人気を集め、第一次スケートボードブームが到来します。
その後、国内では10年単位でブームを繰り返し、1990年代以降はストリートカルチャーとして若者に浸透していきました。そして2021年、世界的なスポーツの祭典において堀米雄斗選手をはじめ、日本人選手が次々とメダルを獲得したことを背景に、国内では再びスケートボードに注目が集まっています。

ライフスタイルの一部となっているアメリカとの違い

とはいえ、このまま何も手を打たずにいたのでは一過性のブームで終わってしまう可能性があります。スケートボードがライフスタイルの一部と認識されているアメリカと、ブームが長続きしない日本を比較し、スケートボードが国内に広く浸透するために必要なものを探ります。

アメリカにおいては、1970年代には競技となり、プロスケーターが生まれプロチームが作られていきました。1980年代に一時衰退したものの、様々な種類のエクストリームスポーツを集めた競技大会「X Games」の誕生などを受けて再び市場が拡大したようです。現在、多くの市民はスケートボードをライフスタイルの一部と認識しています。

また、競技実施人口とスケートパークの数を比較すると、下図の通り競技実施人口においてアメリカは日本の約22倍、スケートパーク数では約8.8倍と大きく差が開いています。

競技実施人口の比較
※1:業界関係者による推定値
※2:18歳以上の男女3,000人を対象に実施したスポーツ活動に関する全国調査から、年1回以上の実施者の人口を推計
※3:6歳以上が対象
出所:一般社団法人日本スケートボード協会、笹川スポーツ財団、Outdoor Foundation、SFIAよりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成
日米のスケートパーク数
出所:一般社団法人日本スケートボード協会、Outdoor Foundation、NPO法人日本スケートパーク協会、Reutersよりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

日本の競技実施人口を増やし市場を拡大するためには、まずスケートパーク数を増やして練習できる環境を整える必要があるでしょう。

次に、大会の賞金総額を比較します。日米で賞金総額もしくは賞金額の一部がわかる大会を抽出したのがこちらの表です。

日米の主な大会・ツアーの概要と賞金額
出所:一般社団法人日本スケートボード協会、中日新聞、Red Bull、Boardriding.com、Vans Park Series、Forbes Japan、CHIMERA UNION、SKATE ARK、FISE HIROSHIMAよりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

アメリカの大会として挙げた3つの大会は、他国でも開催している国際大会・ツアーです。賞金総額1億円を超えるプロツアーもあるなど、高額な賞金が用意される傾向にあります。

日本の賞金総額は全体的に米国よりも少ない金額であるものの、2021年に開催を予定されていた「CHIMERA A-SIDE THE FINAL」(コロナ禍で中止)では賞金総額が6,400万円にのぼるなど、近年では高額化の傾向にあることがわかります。

日本人選手の海外大会・ツアーでの躍進が目覚ましい中、国内大会を盛り上げるためにはさらなる賞金の引き上げが必要なのではないでしょうか。

ブームで終わらせないために、いま取り組むべき4つのこと

日米におけるスケートボードを多面的に比較してみると、スケートボードの競技環境には大きな差があることがわかりました。今後、日本でスケートボード市場を拡大させ、文化として根付かせていくためにはこの差を埋める必要があります。ここからは、日本のスケートボード界を発展させるために必要な4つの対応策をご紹介します。

スケートボードの社会的価値を明確化する

スケートボードを文化として根付かせるには、自治体や企業がスケートボードを市民に浸透させる取り組みを行う必要があります。

スケートボードにおいては、禁止区域でのプレイや騒音・交通トラブルなどが発生するケースもあることから、治安の心配をする市民の声もあります。このようなネガティブなイメージを払拭し、身近なスポーツとするためには、スケートボードが市民にもたらすメリットや、社会的課題の解決にどのように寄与するのかを伝えていくことが重要です。
このような活動の手始めに、自治体や企業はスケートボードへの取り組みがどのような社会的課題の解決につながるのかを整理してみましょう。

スケートボードに取り組むメリットには、具体的に次のようなものが考えられます。

自治体

  • 地域住民の健康寿命延伸
  • 国際大会開催による国際交流促進
  • スケートパークの一体開発による企業誘致

企業

  • ブランドイメージの向上
  • 国際大会による海外知名度の向上
  • 大会運営関与を通じた従業員のマネジメントスキル向上

スケートパークを建設する

競技実施人口を増やすには、練習の場が欠かせません。前述した通り、日本にはスケートパークが少ないため、スケートパーク施設を増やして安全な練習の場を提供する必要があります。スケートパークの建設に当たっては、Park-PFIの活用や企業版ふるさと納税が考えられます。

Park-PFIとは

Park-PFIとは、公園の整備を行う民間事業者を公募で選定する制度のことです。カフェなどの公募対象公園施設の運営によって得た収益を、広場や園路などの特定公園施設の整備に充てることで、管理側の財政負担を軽減できます。また、民間事業者の手を借りることは公園のサービスレベルの向上にもつながります。

例えば代々木公園では、Park-PFIにより、スケートパークをはじめ、多世代健康増進スタジオ、屋内外で飲食できるフードホールの設置が予定されています。また、藤沢市の鵠沼海浜公園改修事業においても、Park-PFIによりスケートパークが整備される予定です。

企業版ふるさと納税とは

企業版ふるさと納税とは、国が認定した地方公共団体の地方創生事業に対して企業が寄付を行った場合、最大で寄付額の9割が税額軽減される制度です。宮城県亘理町では、1億円の寄付を集めてスケートパークを整備しています。

企業版ふるさと納税によるスケートパークの建設は、企業の法人関係税を軽減できることに加え、ブランドイメージの強化や社会貢献にもつながるなど、企業にとって大きな利点があります。自治体と企業双方にメリットがあることを打ち出せば、地方でもスケートパーク施設を増やしていけるでしょう。

スケートボードを教える環境を整備する

施設だけでなく、スケートボードを教えるスクールや団体も必要です。民間のスクールや地域スポーツクラブを活用して、スケートボードを普及させる体制を作ります。

とはいえ、地域スポーツクラブでは地域に指導者がいないケースが考えられます。始めは指導者を民間から派遣してもらい、ノウハウを吸収して教えられる体制を整えていくとよいでしょう。

企業が手を取り合い、取り組みを進める

スケートボードをはじめとするアーバンスポーツは、様々な領域と親和性の高いスポーツです。アートや音楽、ファッション、テクノロジー領域は最たるものでしょう。その他、ヘルスケアやまちづくり、コミュニティといった領域にも親和性が高く、ケガの多いスポーツであることから保険会社との連携も考えられます。

コンソーシアムイメージ図
出所:スポーツ庁開示資料よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

上図のように、関連するステークホルダーと手を取り合い、コンソーシアム(共同企業体)を形成すれば、それぞれの強みを生かしリスクを分散しながら、新たな大会やイベントの開催、都市開発など多種多様な取り組みに挑戦できるでしょう。

取り組みを進める中で新たな事業や文化が生まれ、地域やスポーツの活性化につながる可能性もあります。

アーバンスポーツを文化として根付かせるために

世界的なスポーツの祭典で、スケートボードの日本人選手のメダルラッシュは多くの人の心を動かしました。そこで生まれたブームを定着させるためには、日本の現状を理解した上で、必要な環境と仕組みを整備していくことが重要です。

これはスケートボードだけでなく、ほかのアーバンスポーツやマイナースポーツにも共通するものと考えられます。これらスポーツが日本に根付き発展することによって、日本のスポーツ界での地位向上、地域の活性化、企業の利益向上など幅広い波及効果を得られるでしょう。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
スポーツビジネスグループ

杉山 功明 / Sugiyama Komei

シニアアナリスト

大手通信会社で勤務後、2016年デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社入社。知的財産グループで電機メーカーや通信会社を中心とした知的財産戦略策定支援に従事後、スポーツビジネスグループに主軸を移しスポーツ関連団体の組織再編支援、中期事業戦略策定、スタジアム・アリーナ運営権取得のフィージビリティスタディ、官公庁事業のプロジェクトマネジメントなどに従事。現在はブランドアドバイザリーチームにて、ブランディング業務に携わる。