※当記事はFinancial Advisory Topicsに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

理解しておきたい脱炭素とSDGs/ESG/CSRの関係

地球温暖化を招く温室効果ガスには、メタンや一酸化二窒素、フロンガスなど様々な種類がありますが、その中で地球環境にもっとも大きな影響を及ぼしているといわれているのが二酸化炭素です。この二酸化炭素の排出量を削減しつつ、排出せざるを得ない二酸化炭素を森林の拡大など何らかの形で回収することにより、二酸化炭素の排出を実質ゼロにすることを「脱炭素」や「カーボンニュートラル」と呼び、グローバルでその取り組みが加速しています。日本政府でも2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。

この脱炭素に関連し、「SDGs」や「ESG」「CSR」といった言葉をニュースなどで頻繁に見かけるようになりました。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」に記載された国際目標です。17のゴール(目標)が定められていて、そのうちの1つとして、気候変動とその影響を軽減するための対策を講じることが掲げられており、脱炭素に向けた取り組みを進めるように促しています。

この気候変動をはじめとする環境問題に加え、社会課題やガバナンス(企業統治)の3つの観点が重要であるとの考え方を表す言葉として、世界的に広まっているのがESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)です。最近ではESG経営という言葉もありますが、これは外部の金融機関や投資家から、ESGの観点で評価されることを意識した経営という意味合いで捉えることができます。

CSR(Corporate Social Responsibility)は、企業が担うべき、社会へ与える影響に対する責任です。その責任を果たすために、多くの企業が社会貢献のための幅広い取り組みを進めています。事業活動を行えば少なからず環境に影響が生じることから、脱炭素をはじめとする環境問題へ対処する活動も、CSRにおける重要な取り組みと認識されています。

SDGs、ESG、CSRの関係性
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

企業が脱炭素に取り組むべき理由

企業における脱炭素の取り組みは、投資家や金融機関、取引先、消費者、行政など多くのステークホルダーが注目しています。実際、環境面で優れた取り組みを行っている企業に対して、銀行が融資を優遇する、あるいは機関投資家が投資先を判断する際、ESGも判断基準とするといったことがすでに行われています。

また、環境と社会、ガバナンスのESGの観点からサステナブル、つまり持続可能な社会を目指す取り組みへの投資額も年々増加しており、社会的な動きが実際の投資にも影響していることがうかがえます。

サステナブル投資額
出所:GSIA(Global Sustainable Investment association)、Global Sustainable Investment Review 2020よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

自社のビジネスに脱炭素は影響がないと思っていたとしても、状況が変わっていく中で無視できない状態になるといった展開も十分に想定できるでしょう。

現時点で影響がほとんどなかったとしても、乗り遅れて他社に差を付けられてしまった場合、最初から脱炭素に取り組むよりも多くのコストを費やして挽回せざるを得なくなるといったことも想定されます。将来を見据えたうえで自社への将来的な影響を分析したり、どのように取り組んでいくのかといった方針を定めたりすることが重要です。

リスクだけじゃない!脱炭素がビジネスにもたらす影響

企業として脱炭素に向けた取り組みは避けて通れませんが、一方で脱炭素化のみを追求すると、財務面でマイナスの影響を受けてしまうことになります。例えばCO2を削減するためには、技術開発や設備投資などが必要となり、多額の費用を負担することになるためです。

実際、国連環境計画が支援する国際資源パネルの報告では、気候変動対策のみに注力して取り組んだ場合、世界総生産を3.7%押し下げるとしています。一方、資産効率の向上により経済的利益が生み出されるとの報告もあることから、資源を廃棄せずに有効活用する資源循環のための仕組みをビジネスに取り込むことが重要になります。

具体的には、原材料や製品をできるだけ高い価値を保ったまま回収・再利用することなどにより循環させ続け、これによって廃棄や環境汚染をなくします。これは「サーキュラーエコノミー」と呼ばれています。

サーキュラーエコノミーを取り入れるためには、ビジネスモデルの組み換えや新たな投資が必要となるなど、様々な検討が求められます。さらに社会全体がサーキュラーエコノミーや脱炭素に進んでいるからという理由ではなく、自社がなぜそれらに取り組むべきなのかについて、明確に社内外に説明できるような意義を考え、それを踏まえてビジネスをどのように進めていくのかをクリアにすることも重要です。

そのような流れの中でビジネスモデルを再構築する際には、外部環境と内部環境を整理し、将来的な動向も考慮しながら最適なモデルを組み上げていくプロセスをたどることになります。

具体的に、外部環境分析としては市場分析や競合分析、顧客分析が主になり、内部環境分析では業績分析やバリューチェーン分析を行うことになります。さらに現在では、気候関連リスクおよび気候変動に取り組むことで生まれる機会にも留意すべきです。ビジネスモデル構築の手法自体は変わりませんが、脱炭素の流れによって新たに検討すべき要素が増えており、それに対応することが今後のビジネスにおいて大きなポイントとなるためです。その際、気候変動をリスクとして捉えるだけでなく、どうすれば自社にとってのチャンスにできるかを考えることも重要です。

気候関連リスク
出所:環境省、TCFDを活用した経営戦略立案のススメ 気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成
気候関連機会
出所:環境省、TCFDを活用した経営戦略立案のススメ 気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

自社でビジネスモデルを再構築するだけでなく、M&Aやジョイントベンチャーといった施策で脱炭素に対応していくことも考えられます。脱炭素につながる技術や資産をすでに保有している企業と手を組むことができれば、自社単独で行うよりも取り組みを加速させることが可能であり、競合に対するアドバンテージにもなり得ます。

筆者は『グリーン・トランスフォーメーション戦略』(日本経済新聞出版、2021年10月22日)において、日本の脱炭素の取り組みにかかる独占禁止法の弾力的運用や税制面での恩典が望まれる趣旨を述べておりましたが、2022年4月の経済産業省の「新・素材産業ビジョン(中間整理)」には、カーボンニュートラルの実現に向けた観点で、競争政策上の方策などの在り方を検討することが盛り込まれました。これは日本の脱炭素の取り組みを加速させるようなものであると考えられます。

いずれにしても、これからのビジネスにおいて脱炭素にどのように向き合っていくのか、真剣に考える時期が来ているのは間違いないでしょう。

書籍紹介

書名:日経ムック グリーン・トランスフォーメーション戦略
発行元:日本経済新聞出版
著者:デロイト トーマツ グループ (監)
価格:1,980円(税込)
ISBN-10:4532183375
ISBN-13:978-4532183370
「2050年カーボンニュートラル実現」に向けて、日本企業と日本社会が競争力や活力を保ちながら変革を推進する「勝ち筋」をいかに構想し、実行するか。
物質、エネルギー、資金の3つの側面から、ビジネスと社会のあり方を抜本的に変革する「グリーン・トランスフォーメーション(GX)戦略」の本質とは。
デロイト トーマツ グループの総合力を結集して、実践的な変革の方向性と、それを実現する新たな企業経営モデルのあり方を凝縮した1冊。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

石油・化学/鉱業・金属セクター(村岡、中山、高田、平田)