Fast 50受賞企業が語る成長要因とこれからの戦略
2021年12月14日、デロイト トーマツ グループは「2021年 日本テクノロジー Fast 50」の受賞企業を公表しました。これは日本国内のテクノロジー、メディア、通信業界の企業を対象に、過去3決算期の収益に基づいて成長率を算出し、その上位50社を表彰するものとなります。
2022年5月27日に開催された「デロイト トーマツ アントレプレナーサミット・ジャパン 2022」では、この2021年 日本テクノロジー Fast 50に関連し、「Fast 50から見たテクノロジーを活かした成長企業の動向」と題するパネルディスカッションを実施しています。登壇したのは、Fast 50で上位にランクインした、株式会社Macbee Planet代表取締役社長の千葉知裕氏、株式会社SHIFT取締役の小林元也氏、そしてAI inside 株式会社代表取締役社長CEO兼CPOの渡久地択氏で、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーの渡辺真里亜がモデレーターを務めました。このパネルディスカッションの模様をレポートします。
目次
千葉 知裕氏
株式会社Macbee Planet
代表取締役社長
中央大学法学部在学中、公認会計士試験に合格。卒業後あずさ監査法人入所。IPO支援とホールディングスカンパニーの経営管理・監査業務の支援の後、2018年10月Macbee Planet入社。オンスケジュールでIPOを実現。上場後はアライアンス、M&A、子会社設立などの経営戦略を創業者小嶋氏と共に推進し、2021年12月よりグループ経営への移行と共に現職。グループの成長戦略を推進し、長期的な高成長を目指す。
小林 元也氏
株式会社SHIFT
取締役
2003年東京工業大学大学院理工学研究科修了後、株式会社インクスで設計の標準化システム開発、超精密電子・精密自動車部品・精密光学機器の設計工程改善に従事。2007年4月にSHIFT参画。創業メンバーの1人として、品質保証部で業務工程改善に従事。その後ソフトウェアテスト事業を立ち上げ、サービスの確立とSHIFTグループの発展をけん引。2014年以降は、複数のグループ会社の役員としても事業管理全般を管掌する。
渡久地 択氏
AI inside 株式会社
代表取締役社長CEO兼CPO
1984年生まれ。複数社の起業経験を持つ。2004年より人工知能の研究開発を開始。以来10年以上にわたり継続的な人工知能の研究開発とビジネス化・資金力強化を行い、2015年にAI inside社を創業。代表取締役社長CEOとしてサービス開発と技術・経営戦略を指揮し、多数の技術特許を発明。2019年12月に東証マザーズ(現・東証グロース)に上場。2022年2月よりCPOを兼任し事業成長を牽引している。
Fast 50に上位ランクインした企業が語る成長の秘訣
――まず、これまでの成長の要因について教えてください。
千葉
Macbee Planetの創業は2015年で、Webマーケティング業界では後発です。そうした状況で成長を遂げるためには、特定の業界に絞り、なおかつ"とがった"サービスを展開する必要があると考えてきました。実際、我々は美容業界と金融業界で強みを発揮し、それぞれの領域でナンバーワンの存在になる青写真を描いて事業を進めています。
一方サービスにおいては、LTV(Life Time Value)を予測してROI(Return On Investment)を最適化する、LTVマーケティングを実践しています。このサービスが市場のニーズにマッチし、クライアントと伴走しながらビジネスを進められたことが、我々の成長の主な要因であると考えています。
小林
SHIFTはもともと、製造業向けのコンサルティングサービスを展開していました。その中で、ソフトウェアテストがブラックボックス化していて、ベテランに任せきりの状態で見積もりがどうなるのかわからないといったご相談を受けたことが、現在のビジネスにつながっています。
ソフトウェア開発を担うエンジニアは、当然ながら開発への興味はありますが、テストに関しては前向きではなく、やりたい人がいない、あるいはエンジニアが片手間で対応するといったことが珍しくありません。そこで私たちは、製造業向けのコンサルティングで蓄積したノウハウを活かし、ソフトウェアテストの標準化に取り組みました。
日本国内のIT市場の規模は約16兆円といわれています。さらに個々のITプロジェクトでは、おおよそ1/3のコストがテストや品質管理に費やされている状況です。つまり16兆円の1/3である、5.5兆円のマーケットがソフトウェアテストにはあるということになります。これが我々の見つけたブルーオーシャンであり、ここにトライしてビジネスを伸ばしていく、さらに我々も変化していく、こうした考えでここまで成長することができました。もちろん、まだまだ伸ばしていくつもりです。
渡久地
AI insideを立ち上げたときに考えていたのは、誰でもAIを使って開発することができる、いわゆるノーコードツールを提供しようということでした。ただ創業した2015年当時はニーズがなく、それをリリースしても売れないだろうと考えていました。
そこで市場を見ていると、企業が外注している業務の中において金額的に最も大きかったのがデータ入力で、6,000億円程度の市場がありました。また、日本は生産年齢人口が減少している一方でIT化は遅れているといった歪みもあり、それが長時間労働などの問題につながっています。こうした問題をAIの力で解決できれば、社会貢献につながるのではないかと考え、OCRのサービスを提供することにしました。このサービスが社会ニーズに適応したことが、私たちの最初の成長の要因ではないかと思っています。
コロナ禍の逆境でも成長を加速
――コロナ禍で多くの企業が様々 な影響を受けている状況です。皆さんの会社では、コロナ禍でどのような変化があったのでしょうか。
千葉
新型コロナウイルスの感染拡大による生活環境の変化は、私たちのビジネスには追い風になったと感じています。
私たちはWebマーケティングを行っている会社であるため、対面販売については支援することは困難です。しかしコロナ禍により、オフラインでの商品販売やサービス提供がオンライン化されたことで、我々のWebマーケティングに関する知見、そしてLTVマーケティングに対するニーズが高まったと思っています。
一方で経営的な観点でいえば、お客様とのコミュニケーションがオンライン化して意思疎通が図りづらいなど、様々な課題がありました。それらについては、適宜対応しながらビジネスを進めているといった状況です。
小林
我々のビジネスであるソフトウェアテストの場合、品質を守らなければならないのと同時に、セキュリティにも配慮することが求められます。そのため我々のテストセンターには、入室の際に生体認証を行うなど、セキュリティレベルの高いエリアを用意しています。このソフトウェアテストで求められるセキュリティをどうやって確保するかが、コロナ禍で直面した大きな課題でした。
我々としてはすぐにでも従業員を在宅勤務に切り替えたかったのですが、セキュリティ面から難しいケースもあります。そこで経営陣も含めてお客様とコミュニケーションし、一部のお客様のテストを在宅勤務で対応できるようにしたほか、どうしても出社しなければならない場合は従業員に手当を支払うなど、様々な取り組みを進めました。
ポジティブな影響もありました。現在、私たちのグループには約8,000人の従業員が働いています(2022年2月末時点)。その1人ひとりを大切にしているからこそ人が増えていくし、それによって生産性をアップできる。コロナ禍に対応する取り組みの中で、そうした私たちの姿勢が内外に伝わり、従業員の採用数も増加している状況です。
渡久地
我々の場合は自社サービスの開発が主であるため、在宅勤務への対応が非常にやりやすい状況でした。従業員に出社させない環境を1週間で整えるために、みんなで一気に取り組みました。もちろん自宅にインターネット環境がないなど、どうしても時間がかかる部分はありましたが、基本的には目標通り1週間で在宅勤務の環境を整えています。みんなのベクトルが一致したことで、本当に素早く変化することができました。
ビジネス面でも、多くの影響がありました。特に我々のソリューションは、紙のデータをデジタル化する、あるいは人が対応していた作業をAIに置き換えてシステム化するなど、コロナ禍で顕在化したニーズに応えることが可能です。さらに一刻も早くデジタル化したいなど、ユーザー側のモチベーションも高かったこともあり、我々のソリューションが様々な分野で導入されています。
Fast 50受賞企業が語るこれからの成長戦略
――今後の成長戦略について教えてください。
千葉
Macbee Planetは2015年の創業時からLTVマーケティングを貫き通してきました。この方針は継続し、さらに質を高めていくことが我々の成長に向けた基本的な考え方になります。
一方で、現状のマーケティング領域を見渡すと、新規のお客様を獲得しづらい状況になりつつあるのも事実です。そこで、例えばM&Aや新規事業の創出や新規プロダクトの立案といったことも視野に入れています。実際、LTVマーケティングをさらに強固にするプロダクトを検討しており、近々リリースする予定です。
また次世代インターネットといわれる「Web3」など、新たな動向にももちろん注目しているところです。
小林
SHIFTで大切にしていることの1つに、成長のための方程式を作ることがあります。運だけで成長することはなかなか難しいと思うので、しっかり方程式を立てて事業を進めていく。その際に大切にしているのが4つの軸で、具体的には営業活動と採用活動、技術力の向上、そしてM&A戦略があります。
SHIFTの売上は「エンジニア単価×エンジニア数」で表現することができるため、採用活動は重視しています。またお客様観点であれば「顧客数×顧客単価」が売上となるため、営業活動において新規のお客様をどのように獲得するのか、あるいは顧客単価を高めるためにどのような施策を講じるのかといったことが重要になるでしょう。このように成長のための取り組みを方程式に落とし込み、4つの軸のそれぞれでどのように活動するのかを考えています。
渡久地
AI insideとして注目しているキーワードに「内製化」があります。システム構築などの際、日本では8割が外注、2割が内製といった割合ですが、欧米での外注の割合は2割程度であり、日本とは真逆の状況です。確かに外部に任せたほうが良い部分もあるとは思いますが、内製化することのメリットが大きい領域も絶対にあるでしょう。その部分まで外注してしまうと、ビジネスサイドの要件を満たせない、スピードが遅い、コスト負担が大きいといったデメリットが生じる可能性があり、DXの足かせになりかねません。
ただ、内製化したいと考えたとしても、それに対応できるデジタル人材が少ないのも事実です。このように考えていくと、プログラムコードを書く必要がなく、総合職や営業職の人材であっても開発することができる、ノーコード開発ツールには大きな価値があるといえるでしょう。AI insideには、ノーコードでAIを用いた開発ができるソリューションがあり、我々が皆さまに提供できる価値だと考えています。
会社の軸であるミッション、あるいはパーパスは変わらなくても、ビジネスのやり方や捉え方が大きく変わることがDXだと思います。このDXを実現していただくことが我々の目指しているところであり、そのためのサービスやソリューションを提供し、我々自身の成長も図っていきたいと思います。
――リアルなお話をたくさん伺わせていただき、本当に参考になりました。本日はありがとうございました。
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