新たな移動通信システムとして注目されている「5G」は、建設業界、不動産業界にも大きな影響を及ぼし、DX(デジタルトランスフォーメーション)を加速すると考えられています。この5Gがもたらすベネフィットや、建設業界および不動産業界での具体的なユースケースなどについて解説します。

※当記事はIndustry Eyeに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

まるわかり!5Gってなんだ?

携帯電話やスマートフォンで通話および通信を行うための移動通信システムは、これまでにアナログからデジタルへの変化や通信速度の大幅な向上など、着実に進化を遂げてきました。

この移動通信システムの最新のものとして、大きな期待を集めているのが第5世代移動通信システムである「5G(5th Generation Mobile Communication System)」です。

5Gの特長の1つとして挙げられるのが、高速・大容量であることです。通信事業者が提供するサービスによって通信速度は異なりますが、国内のある通信事業者が提供する5Gサービスでは、受信時最大4.1Gbps、送信時最大480Mbpsを実現しています。特に受信時の通信速度は、光ファイバーを用いた多くのインターネット接続サービスよりも高速であり、4K映像の伝送など大容量データの送信にも余裕を持って対応できます。

低遅延であること、そして1つの基地局に多数のデバイスを接続できることも、4Gなど従来の移動通信システムに対するアドバンテージとなっています。特にDXの領域で注目を集めているIoTでは、ネットワークにつながれたセンサーを用いて状況を可視化するといったケースが少なくありません。その際、5Gであれば多くのセンサーを接続することが可能となり、より詳細に状況を把握するといったことが可能になります。

この5Gの利活用例として、総務省ではスポーツやエンターテイメント、医療、スマートシティ/スマートエリア、交通など9つを挙げています。

出所:総務省、電波政策2020懇談会よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

さらに2020年度には、スマート農業や遠隔医療指導、eスポーツイベントの利便性・機能向上など、20もの実証実験が行われました。

出所:総務省、5Gの普及・展開に向けた取組よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

ローカル5Gがつくる新たなマーケット

企業や自治体が独自に5G環境を構築することができる、ローカル5Gにも大きな期待が寄せられています。5Gの技術を用いつつ、無線LANのように独自のネットワークを構築できるのがローカル5Gです。

ローカル5Gの用途としては、建設現場における建機の遠隔操作や、工場内でのロボットの制御、農場の自動管理、河川などの監視などがあります。

出所:総務省、2020年の5G実現に向けた取組よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

ただローカル5G環境の構築および運用には相応の費用が必要であり、単独で環境を整備するのは難しいケースもあるでしょう。そうしたケースで考えられるのがインフラシェアリングで、信号機などの公有財産、あるいは商業ビルや工場、病院といった私有不動産に設置した基地局などを複数の事業者で共用します。

5Gのビジネスは、B to Bモデルとそれ以外のB to Xモデルに分けて考えることができます。B to Bモデルとしては、既存の通信キャリアが提供する通信サービスやローカル5Gのための基地局シェアリングサービスなどが挙げられます。一方、B to Xとしては、スマートシティやスマートファクトリー、あるいはスマートオフィスの実現など、地域や企業の課題を解決するサービスが考えられるでしょう。このB to Xのサービスに関しては、通信サービス事業者や通信キャリア以外の企業がローカル5Gで参画する可能性もあります。

出所:亀井 卓也、5Gビジネス、日本経済新聞出版社よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

5Gを生かして建設・不動産業が生み出せる付加価値とは?

5Gはあらゆる業界で活用できる可能性があります。そうした業界の1つとして挙げられるのが建設・不動産業です。

具体的には、5Gを活用した竣工後の運用・管理など、5Gを活用したソリューション開発・アプリケーション開発・運用保守まで視野を広げることで、新たなビジネスチャンスが得られるものと考えられます。

工事現場での具体的な5Gの利用ケースとして、通信事業者と大手建設会社でトライアルが行われた、作業の効率化と安全性向上のための取り組みがあります。これはAIカメラの映像をローカル5Gや無線LANで送信しつつ、作業者が危険エリアに侵入するとアラートを発するというものです。また危険が伴うエレベータ組み立て工事の安全性を高めるため、監視カメラ映像をローカル5Gで送信して監視するといった取り組みも行われています。

5Gを用いて、建設機械を遠隔操作することも考えられます。前述した通り、5Gは高速・大容量で低遅延といった特長があります。建設機械に取り付けられた高精細のカメラ映像をチェックしつつ、リアルタイムに建設機械を操作するといったことが実現できます。さらにローカル5Gを利用すれば、通信事業者の電波が届かない山間部などでも5Gの技術を用いて遠隔操作を実現できます。

不動産領域では、オフィスビルにおいて、従来の移動通信システムや無線LAN、有線LANのほかに、ローカル5Gのための環境を導入する検討を進める不動産会社もあります。ローカル5Gも含めた多様な通信環境を提供することで、テナントが適切な通信インフラを利用できるようにすることが目的です。

なお不動産における5G/ローカル5Gインフラの導入に際しては、「何のために5Gを導入するのか」「それによってどのようなベネフィットが期待されるか」など、長期的な観点で不動産の得られる潜在的な付加価値を見積もることが欠かせません。そのうえで、屋内基地局をはじめとするハードウェアをインフラシェアリングなどの手法も活用しながら効率的に整備するなど、5Gインフラの設備構築におけるQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)の向上を図る取り組みが必要になると考えられます。

さらにビジネスの成長・拡大に向けては、建設や不動産業界のビジネスモデル自体が5Gによって変わる可能性があることを認識することが重要です。そして5Gによるソリューションを活用した競争力の創出、不動産の価値向上を実現する戦略的工夫を行うべきでしょう。

スマートシティという言葉が広まっていることからもわかる通り、今後デジタル技術の活用やそれによるDXは、ビルなどの建造物単体ではなく、街や地域全体に広まっていくと思われます。それを実現する際に、主要なインフラとなるのが5Gです。その普及においては、携帯電話事業者によるインフラ整備だけでなく、建設および不動産業界による主体的なローカル5Gネットワークの構築も必要となるでしょう。

さらに建設・不動産業界は、ハードウェア面でのインフラ整備だけでなく、アプリケーションベンダーなど他業種とのアライアンスを通じて発想を膨らませて最適な空間をデザインし、不動産価値向上につなげていくことも視野に入れるべきでしょう。

そうした一連の流れの中で、まだ顕在化していないニーズを捉える、5Gを活用した新たなサービスが誕生することが期待されます。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

資源・エネルギー・生産財セクター(松永、羽場、五十嵐、山口)