近年、サステナビリティやウェルビーイングなどの取り組みが注目されており、企業価値の向上を目指すだけではステークホルダーやマーケット、顧客の支持を得ることが難しくなりつつあります。こうした背景の中で注目されているのが「ブランディング」であり、企業価値の向上における重要な要素として見直されつつあります。一方で、「ブランディング」とは何か、ビジネスとどのように関係しているのか、なかなか捉えにくい面もあります。ビジネスを強くするブランディングとは何なのかをお伝えしていくに当たり、まずは、ブランディングの特徴についてご紹介します。

そもそもブランディングとは?

遠い昔、ブランドは家畜に焼き印を押すことから始まったと言われています。自分の農場の家畜だとわかりやすくするために烙印をつけて目印にするためでした。同じモノの中で差別化させる、それがブランディングの始まりです。

高級国産牛肉である松阪牛、神戸牛などがわかりやすい身近な例です。これらの牛肉は特定の条件を満たした場合にのみ与えられる特別な名称(ブランド)。そして、差別化されたこれらの牛肉はほかに比べて値段が高く、美味しいというイメージがあります。

ブランドの役割の1つとして、同じような製品などをほかと区別するための目印であり、区別の先にそのブランドのイメージが存在します。このイメージがビジネスにおいて非常に大きな影響力があることは言うまでもありません。

一方で、現代のビジネスでは様々な情報が飛び交い、社会環境が急激に変化していく中で、ブランドの役割も大きく変化しています。特に日本を含む先進国では、良い物さえ作れば売れるという時代はすでに終わりを迎えています。同じような機能を持つ製品の中で、どうしたらユーザーに選んでもらえるのか。ユーザーの心をつかみ、選ぶ基準の証となるのが、今求められているブランドの役割です。そして、ユーザーの心を動かす仕組みを作るのが「ブランディング」という手法です。では、ブランディングとは何でしょうか。マーケティングとの違いは何か。一緒にひもといていきます。

マーケティングだけではブランディングを語れない

ブランディングの特徴を理解するには、マーケティングの特徴も理解する必要があります。企業によってはマーケティングを行う部署がブランディングも担当する場合もあるようです。しかし、ブランディングにはマーケティング以外の要素もあります。

まず、売上への効果という観点で、ブランディングとマーケティングの違いを見ていきます。ここで、例として、売上を以下の構成にて表現します。

売上=人口×認知率×購入率×購入数×購入頻度(継続数)×購入単価

出所:株式会社シー・アイ・エー作成

マーケティングの影響があり、売上の伸びが期待できる主な因子は認知率、購入率、購入単価です。一方で、マーケティングのみではなかなか効果が出ない因子もあります。

マーケティングによる効果がある因子

認知率
広告などのメディア露出にて発信することで認知率を引き上げることができます。
購入率
一般的に言われるマーケットシェアと同じで、販促などにより数値を引き上げることができます。
購入単価
俗に言うプライスインデックス(価格指数)とほぼ同じで、商品のポジショニングを変えることで変化します。

マーケティングのみではなかなか効果が出ない因子

人口
マーケティングでは左右できません(*1)。
購入数
主に需要により左右されます。多少増減させることも可能ではありますが、基本的に先食いか先に伸ばしているだけで、新規市場開拓でもない限り、市場のパイが増えることはありません。
購入頻度(継続数)
購入数と同様、需要に左右されます。コントロールする場合は基本的に購入個数と反比例で推移します。

では、ブランディングにおいてはどうでしょうか。マーケティングの効果がある因子については、ブランディングでも効果があります。そして、ブランディングを通してユーザーの心を動かすことで、マーケティングのみではなかなか効果が出ない購入頻度(継続数)を改善させる、もしくは減少を防ぐことができます。さらに、ブランディングの差別化により、購入率と購入単価をマーケティングのみより向上させることができます。

例えば、学生同士の会話で「スタバ飲みたい」という声を聞くことがあります。なぜ「コーヒー飲みたい」ではないのでしょうか。これがブランドであり、同じものであるにも関わらず付加価値のイメージがユーザーの心に根付くのです。そして、ブランディングによる差別化は購入率に大きく影響し、時にはその商品の良し悪しとは別にイメージが先行し、購入率を大きく引き上げ、消費者にそれを選ばせます。

販促などのマーケティング手法で購入率を高めても、それは一時的な効果であり、マーケティング期間が終わると効果が薄れていくものです。しかし、ブランディングの場合、その先のブランドイメージがある程度定着すれば、購入率や購入頻度への絶大な効果を維持できるのです。購入単価も同様です。

*1:行政のマーケティングでは対象となります。

ブランディングではコミュニケーションの仕方が違う

次に、コミュニケーションの仕方の観点で、ブランディングとマーケティングの違いを見ていきます。

サイモン・シネック氏が提唱する「ゴールデンサイクル」という概念があります。

出所:https://www.ted.com/talks/simon_sinek_how_great_leaders_inspire_actionより株式会社シー・アイ・エー作成

一般的に、マーケティングでは、What→How→Whyの順番で訴求します。例えば、店頭POPなどではまず差別化ポイントなどの商品特徴を大きく掲げます。「ノンアルコールなのに美味しい!」、これがWhatです。これをなぜ作り、どのように作るのか、というWhyやHowの部分を小さく書くか、そもそも書かない場合も多くあります。一方、ブランディングではWhyから始めます。

Why
私たちはアルコールが好きな人も、飲めない人も同じテーブルで一緒にジョッキを持ち上げ、楽しく飲める日を夢に見ていました。
How
それはアルコールを含んでいないのに、お酒と同じラインナップ、同じ見た目、同じ味を実現した新商品によって実現します。
What
ノンアルコールなのにおいしい。新商品の登場です。

このように、Whyから始めることで、ユーザーにストーリーを伝えることができ、ユーザーの心をより動かし、そして、直観的な共感を生み出すことができます。

マーケティングのコミュニケーションが差別化ポイントの訴求であるのに対して、ブランディングのコミュニケーションとは、顧客の気持ちを動かし、心をつかみ、企業や商品・サービスの価値を高めることです。

おわりに

本記事では、ブランディングの特徴について、そもそもブランディングとは何であり、そして、ブランディングとマーケティングの違いを紹介しました。似たような商品やサービスが飛び交う昨今、マーケティングのみで勝負していくことは難しくなりつつあります。今後、いかに価格競争に巻き込まれないか、競争が激しい中どのように生き残るのかにおいて、ブランディングは非常に大切な取り組みです。

ビジネスを強くするブランディングを実現するためには、まずは、ブランディングを正しく理解する必要があります。今後、ブランディングに対しての考え方などを発信していく予定です。

CIA Future Lab(長谷川、西野、諸岡)

“Changes Generate Energy”というモットーに基づき、新しい挑戦と未来につながるクリエイティブな動きやヒントをキャッチアップするチームです。