1年に1回、自分自身の睡眠を改めて意識するための運動として、第一三共ヘルスケア株式会社(以下、第一三共ヘルスケア)と株式会社T&Dホールディングス(以下、T&Dホールディングス)で推進しているのが「年に1度の睡眠診断運動」です。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、外出自粛やテレワークは人々の健康に様々な影響を及ぼしていると考えられています。そこで睡眠に着目し、"自分の睡眠を意識する機会"を作ることが本運動の趣旨となります。

今回、第一三共ヘルスケアとT&Dホールディングスに加え、事務局としてこの運動に関わる株式会社博報堂のGrowth Studio of Creativity「TEKO」(以下、博報堂TEKO)と、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)による座談会の模様をレポートします。

自分の睡眠を意識するきっかけを作りたい

――まず「年に1度の睡眠診断運動」の趣旨を教えてください。

博報堂TEKOとDTFAでは、おのおのが持つクリエイティブ面とファイナンス面の専門性を融合し、日本企業による共創コンソーシアムの企画および運営サポートに取り組んでいます。

その取り組みの中で、新型コロナウイルス感染症によって生活様式が変化し、睡眠の大切さを改めて認識すべきではないかという話があり、社会運動のような形で睡眠に着目した取り組みを進められないかいうことになりました。

「睡眠」というテーマで大きな社会運動を進めていくには、複数企業・団体での取り組みが望ましいと考え、幹事企業である、第一三共ヘルスケア、T&Dホールディングスと、事務局である、博報堂TEKOとDTFAの4社が協力して運動を進めることにしました。さらに睡眠の質を計測、改善できる目覚ましアプリ「Somnus/ソムナス」を開発・提供している、Somnus株式会社をテックパートナーに迎え、活動を進めています。

すでに昨年11月から12月にかけて、我々や応援パートナーとして参画くださっている企業および団体の従業員の方々に「Somnus」を使っていただき、実証実験を行いました。検証結果は、「年に一度の睡眠診断運動」のウェブサイトに公開されています。

2022年の後半にはこの取り組みを本格化し、多くの企業において従業員の健康管理やウェルビーイングの向上に役立てていただきたいと考えています。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社:小久江(法務統括兼イノベーション事業部、マネージングディレクター)、伊東(LSHCリード兼イノベーション統括、パートナー)

今、多くの人たちが「睡眠が大切である」ということは理解していますし、スリープテックと呼ばれる技術も続々と登場しています。ですがその一方で、日常生活において睡眠を気にする機会は決して多くないように思います。そのような仮説から「自分の睡眠を改めて意識する機会をつくる」という今回の運動がスタートしました。

睡眠が私たちの生活や仕事の生産性などにどう影響しているかはまだ研究途上の部分が少なくありませんが、睡眠時間やその質を意識することは、個人だけではなく、この運動にご参加いただく企業にとってもメリットがあると考えています。

たくさん登場しているスリープテックを活用する人たちが増えていくためにも、自分の睡眠を気にする機会を増やしていきたい。この運動をそのきっかけにしたい。そう考えています。

株式会社博報堂:釋種氏(TEKO、ビジネスプロデューサー)、大澤氏(TEKO、クリエイティブディレクター)

年に1度の睡眠診断運動は社会課題の解決にもつながる取り組み

――第一三共ヘルスケアさまとT&Dホールディングスさまでは、このコンソーシアムをどのような考えで立ち上げたのでしょうか。

第一三共グループでは、過去に睡眠に関する健康セミナーを実施していたほか、睡眠に関わるサプリメントをグループ会社で発売するなど、我々としても睡眠には以前より着目していました。

このように、睡眠に対する取り組みは進めてきましたが、具体的なアクションということになると、セミナーなどの単発のイベント、あるいは単発の商品の提供などにとどまり、なかなか継続的な事業に結びつけられていませんでした。そうしたときに「年に1度の睡眠診断運動」のお話を頂き、睡眠に関しての継続的な取り組みになるのではないかと考え、コンソーシアムの立ち上げに至りました。

第一三共ヘルスケア株式会社:松尾氏(経営企画部、企画グループ事業開発リーダー)、貢氏(経営企画部、企画グループ長)

今回のお話を伺ったとき、企業において従業員の健康をケアしていく、それによって仕事の生産性を高めるという活動は非常に意義が大きいと考えました。このような取り組みを進めることで、社会課題の解決に貢献できるのであればぜひ協力したいと考え、コンソーシアムの立ち上げを決めました。

様々なテクノロジーが開発されてはいますが、一般的な睡眠への関心は、まだそれほど高くないと感じています。ただ新型コロナウイルス感染症の影響で生活が大きく変わり、メンタル面の不調などによってよく眠れないといった声を聞くこともあります。今回の取り組みは、こうした社会課題の解決につながるものと捉えています。

株式会社T&Dホールディングス:前田氏(経営企画部、課長)、松本氏(経営企画部、課長)

目標は日本のすべての企業に参加してもらうこと

――取り組みの最終的なゴールをどのように考えていますか。

健康経営の取り組みを進める企業は増えていますが、会社が社員の睡眠時間を管理することには様々なハードルもあります。そこで、この運動では社員一人一人が自分の睡眠を意識するきっかけを提供する形式とし、また、多くの方々にご参加いただけるように、(ウェアラブルデバイスではなく)スマートフォンを使用することにしました。このように、どんな企業や団体でも利用できるものとすることで、最終的には日本のすべての企業が参加していただけるような社会運動としていくことを目指しています。

こういった大きな目標を達成するためには、やはり1社の力では限界があります。今回コンソーシアムを立ち上げ、複数の企業が参画する形で運動を始めた背景には、できるだけ裾野を広げたいという思いがありました。

また多くの企業に参加していただければ、それだけ多くのデータが集まることになり、分析などを行う際の精度を高めることも可能になります。

第一三共ヘルスケアはコンソーシアムの中で唯一のメーカーであり、一般の消費者の方々との接点が最も多い企業であると考えています。そのため、この取り組みで得られた知見、あるいは睡眠のDXにつながる成果を具現化した形で一般の方々に届けるといったことも考えています。

さらに、すでにお付き合いがあるアカデミアや専門家といった方々と、スリープテックなどに関する共同研究や共同開発を進めるといったことも考えられます。それによって得られた知見をコンソーシアムにフィードバックし、より良い睡眠を支援するソリューションの開発につなげるといったことができると嬉しいですね。

我々は保険グループであるため、保険商品を提供する中で蓄積した様々なデータと、このコンソーシアムの活動によって得られたデータを掛け合わせて、何らかの成果を生み出せればと考えています。

さらに睡眠に関するデータを保険事業の中で活用することも考えられるでしょう。例えばしっかり睡眠時間が確保されている方は健康であるといった仮定に基づき、保険料を算定するなどの方法です。現状は持株会社としてコンソーシアムに取り組んでいますが、どのようなデータが得られるか明確になり、なおかつデータ量が多くなってくれば、グループ内の保険会社とも連携して取り組むことも検討したいと思っています。

実証実験で得られた知見をフィードバックして本番運用へ

――実証実験では、コンソーシアムに参画する各社で従業員から参加者を募り、実際に睡眠診断を行ったと伺いました。その内容や反応について教えてください。

実証実験は2021年11月中旬から12月末までの期間で行いました。コンソーシアムに参加していただいている企業の従業員の方々を対象に、「Somnus」を用いて計測していただきました。具体的には、期間中の連続する2週間、睡眠時にスマートフォンを枕元に置き、「Somnus」で睡眠時間や質を計測するという内容です。結果的に、約450人の方々に協力していただくことができました。

客観的なデータで自分の睡眠を振り返ることはなかったので面白かったですね。社内の参加者からは、「思ったよりもしっかり寝られていた」「今ひとつ睡眠の質が悪かった」など様々な意見があり、こうした取り組みは睡眠の質を振り返るきっかけになるなと改めて感じました。

弊社の実証実験参加者のコメントの中には、以前は夜中に目が覚めたり、起きるべき時間よりも早く目覚めてしまったりして悩んでいたが、実際に睡眠状態を計測してみるとしっかりと眠れていることが分かって安心した、といったものもありました。このように自分の睡眠を振り返ることができるのは、すごく大きな価値があると考えています。

社内で参加者を募集したときに面白かったのは、若い世代の反応が良かったことです。また、50代になると健康意識の高まりもあり興味を持つ人が多いといった状況でした。

このように実証実験を実施したことで様々な学びを得ることができたので、それをもとに改善すべき項目を精査してサービスに取り入れ、多くの企業に提供したいと考えています。

コンソーシアム各社の力を結集し睡眠のDXを実現

――最後に、今後に向けた意気込みを伺わせてください。

私たちの目の前には多くの社会課題や健康に関する課題がありますが、1社でできることは限られています。そこで諦めるのではなく、「年に1度の睡眠診断運動」のように複数の企業が集まり、それぞれの得意領域で力を発揮しつつ、領域の狭間にある部分はみんなで協力して課題の解決を目指す、そういった取り組みの最たる事例にしたいと考えています。

「年に1度の睡眠診断運動」と名付けたこの取り組みを社会全体に広げていくことが私たちの役割だと認識しており、ピンクリボン運動のように多くの人たちに認識してもらえるように取り組んでいきたいと思います。実際、ピンクリボン運動が広がったことによって、乳がんに対する意識はすごく高まりました。同じように睡眠の重要性に対する認識が広まっていく、そのシナリオを描いていきたいと思います。

我々は新規事業の1つとして、スマホアプリをお客様との接点として用い、最終的には保険商品をご契約いただく、そういった構想を模索しています。「年に1度の睡眠診断運動」で提供するアプリは企業で働く従業員向けになりますが、うまく広まれば一般消費者の方に利用していただける可能性もあると思います。その際に、我々が考えている新規事業のツールの1つとして睡眠アプリを活用することも追求していきたいですね。

第一三共グループでは、DXに本腰を入れていて、デジタル技術を活用した創薬や新たな治療提案に加え、アプリを通じたヘルスケアソリューション開発などの取り組みを進めています。そうした流れの中で、第一三共ヘルスケアの本コンソーシアムの活動を通じた取り組みはグループ内から大きな期待が寄せられています。コンソーシアムとして連携する各社、また我々の取り組みに賛同していただけるパートナー各社と力を合わせて、運動を盛り上げたいと思います。

年に1度の睡眠診断運動事務局

心身の健康のために「睡眠」が重要なことは誰でも知っていますが、普段、自分の睡眠の状態を意識することはあまり多くありません。ニッポンで働く全ての皆さまに、年に1度、自分の「睡眠」を意識する機会をお届けして、ニッポンを元気にしていく運動体。それが「年に1度の睡眠診断運動」です。