日本国内には約6万店の調剤薬局、2万店を超えるドラッグストアがあります。このように競争が激しい薬局・ドラッグストア業界に対し、厚生労働省は「患者のためのかかりつけ薬局」を目指すように求めています。デロイト トーマツ グループでは、この薬局やドラッグストアの利用者に対してアンケート調査を実施しました。その分析結果から、顧客・患者から求められる今後の薬局像について解説していきます。

医薬分業と厚労省による「患者のための薬局ビジョン」策定

国内にはコンビニエンスストアよりも多くの調剤薬局・ドラッグストアがあります。なぜ、こんなにも店舗数が多いのでしょうか。これには近年推し進められてきた「医薬分業」が関係していると考えられます。

医薬分業とは、薬の処方は医師、調剤は薬剤師と、業務を分けることです。以前は院内処方を行う医療機関が多くありましたが、現在は受診後に院外の調剤薬局で薬を処方してもらう「院外処方」が増加傾向にあります。

医薬分業による主なメリットは2つあります。1つ目は、患者の安全性の確保です。複数の医療機関を受診する場合、薬剤師による薬の飲み合わせのダブルチェックが入ることによって、薬の重複や過剰投与を防止することができます。2つ目は、医療機関の負担軽減です。院内の薬剤在庫を管理するスペースと手間が省けることで、医師と看護師は患者の診察など本来の業務に集中することができます。

このような成果が生み出されている一方で、デメリットも明らかになっています。具体的には、病院の前で営業する門前薬局の乱立、患者負担の増大などが挙げられます。

これらの課題解決のために、厚生労働省が2015年10月に公表したのが「患者のための薬局ビジョン」です。

出所:厚生労働省、患者のための薬局ビジョンよりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

このビジョンでは、多くの患者が門前薬局で薬を受け取っている現状を改め、どの医療機関を受診しても、身近なところにあるかかりつけ薬局に行くことを今後のあるべき姿として提示しています。

薬局に求められる役割も大きく変化します。地域連携薬局ではかかりつけ薬局・薬剤師機能や健康サポート機能が求められ、専門医療機関連携薬局では専門機関と連携した抗がん剤の副作用対応や抗HIV薬の選択の支援など、高度薬学管理機能を担うことになります。

アンケート調査から見えた薬局選択の消費者視点

今後大きく変わっていく可能性がある薬局・ドラッグストアについて、デロイト トーマツ グループは消費者アンケート調査を実施しました(対象:全国の20歳以上の男女5,648人)。調査の目的は、患者・顧客が「調剤専門薬局(以下、調剤薬局)」と「調剤薬局併設型ドラッグストア(以下、ドラッグストア)」をどのような基準で選んでいるかを把握することです。具体的には、ロケーション/サービス/店舗運営の3項目のうち何を重視するかを回答してもらいました(より詳しいアンケート結果はこちら )。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社・EmotionTech社との共同による調剤薬局ロイヤルティ調査分析レポート

その結果、調剤薬局の利用者は「受診医療機関から近い(83%)」「待ち時間が短い(75%)」「店員の説明のわかりやすさ(64%)」が上位となりました。

ドラッグストアの利用者の回答で上位に挙がったのは、「自宅から近い(81%)」「待ち時間が短い(68%)」「薬局内の清潔感(64%)」の3つでした。

両者とも待ち時間が短いことが重視される一方、調剤薬局では医療機関からのアクセスと質の高いサービスが、ドラッグストアでは自宅からのアクセスと店舗運営が、重視されていることがわかりました。

顧客セグメント分類と特徴

顧客をより深く理解するために、今度は非階層クラスター分析を用いて、調剤薬局を利用する際に何を重視するかの回答結果を軸に、回答者を3セグメントに分けました。1.「調剤薬局派」、2.「ドラッグストア無関心派」、そして、3.「ドラッグストア積極利用派」の各セグメントには、どのような特徴があるのでしょうか。

1.調剤薬局派

調剤薬局派の特徴は、月1回の通院に合わせての利用、行きつけは1店舗、かかりつけ薬剤師に対する薬に関する相談の利用が多いことです。調剤薬局を選択する決め手は、①医療機関からの近さ、②自宅からの近さ、③店員の接客態度の良さが挙げられます。

2.ドラッグストア無関心派

ドラッグストア無関心派は男性が多く、行きつけは1店舗です。店舗選択の決め手は、①自宅からの近さ、②医療機関からの近さ、③ポイントサービスを利用できることです。

3.ドラッグストア積極利用派

ドラッグストア積極利用派は女性が多く、定期通院はないもののかかりつけ薬剤師がおり、月1~2回の頻度で複数店舗を利用します。また、購入する商品の種類・数が多く、ポイントサービスや販促クーポン、アプリを利用していることが特徴です。店舗選択の決め手は①自宅からの近さ、②ポイントサービスを利用できる、③キャッシュレス決済を利用できることです。

このように、顧客セグメントごとに際立った特徴が見られます。経営者にとっては、どのような顧客をターゲットに設定するかに応じて、店舗の置かれた周辺の環境や地域性を考慮しつつ経営戦略を立案・変更していくことが重要だとわかります。

では、一度利用した客が継続してその店を選ぶリピーターになるには、つまり顧客ロイヤルティを向上させるには、どのような施策が効果的なのでしょうか。

顧客ロイヤルティを高める施策とは

今度は、顧客がその店を他者へも薦めるかという推奨度との相関が高いサービスの分析を行いました。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社・EmotionTech社との共同による調剤薬局ロイヤルティ調査分析レポート

分析の結果、各セグメントともポイントサービスの利用が重要な項目となっています。調剤薬局・ドラッグストアの店舗数が増加するなか、患者・顧客は利便性だけでなく、「お得さ」を求めていることがうかがえます。また、スマートフォンの普及率が高まるにつれ、アプリ利用も重要になっていると考えられます。

薬局経営には、調剤報酬改定をはじめとする制度改正や、近隣のライバル店との差別化、地域性など、様々な要素を考慮した戦略が求められます。そういった意味で、薬局経営に明確な答えはなく、経営判断に苦慮するケースは少なくありません。

従来のように薬局に集客して調剤業務で利益を上げる経営から、地域医療に貢献する経営へとシフトするには、今回の分析結果にあるように、患者側から求められている機能・サービスを強化していくことが必要となっていきます。調剤薬局は今後、業務効率を高めながら、立地や規模の経済にとらわれない薬局経営を目指すことが大切です。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス

小嶋 完治

マネージングディレクター

大手銀行にて法人向融資、ITベンチャー育成などに従事後、監査法人系アドバイザリーファームにて民間企業の事業再編、財務基盤強化、公共部門の民営化やPPP事業などのプロジェクトに従事。その後、ヘルスケア領域に特化。大学病院の経営企画部や戦略コンサルティングファームなどにてヘルスケア領域に関わる新規事業立ち上げ支援、販売・マーケティング力強化戦略策定、新規市場参入支援、市場調査、M&AにおけるDDなど多岐にわたるプロジェクトを牽引。