ESGの観点が企業の競争力強化や中長期的な成長に欠かせないとの見方が広まる中、ESG投資や社会的インパクトの定量化への関心も高まっています。デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社でESG/気候変動対策をリードする長山聡祐らが、Refinitiv社DealWatch・久保木氏のインタビューに答えました。Refinitiv社提供のサービスDealWatchに掲載された記事を転載してお届けします。

※当記事はDealWatch(2021.1.31付)にて掲載された記事を、掲載元の許諾を得て、一部改訂して転載しています。

長山 聡祐

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&Aトランザクションサービス
パートナー

2008年の入社以降、製造業を中心とした様々な業種で、インバウンド・アウトバウンドを問わず多数のクロスボーダー案件に従事。また、デューデリジェンスのみならず、PMI、カーブアウト、事業再編、IFRS導入など、M&Aに関連する多様な業務経験を有する。2021年よりESG & Climate Officeの運営を兼務。ESGや気候変動といった社会アジェンダに対してファイナンシャル・アドバイザリーという強みを活かした価値の創出を推進するとともに、社内外のコミュニケーションとリレーションの構築に携わっている。  

世界的な脱炭素の潮流の中、2021年12月に部門横断の情報集約と戦略策定のハブ機能である「ESG&Climate Office (ECO)」を設置したデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社。ESG/気候変動に関連する相談が増える一方で、潜在的な競合他社も増加傾向にある。組織的変化点における同課題に応える体制として発足したECOのパートナーである長山聡祐氏らがインタビューに応じ、「ESG投資による社会的インパクトの定量分析と知見を生かした個社の事業に沿った成長戦略の提案により、クライアントにより高い付加価値を提供したい」と語った。

――ECO設立の意義と現在の動きについて。

ECOが所属する、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の中では、20年後半から設立に向けた議論が活発化していたが、グループ間の横断でより一層対応を加速していくために、ECOという組織を設けて対外的にも発信していくことにした。企業からはファンディングストーリーがESGを考慮した戦略となっているかどうか、その助言を求められる機会が増えている。特に、再生可能エネルギーなど大型のインフラ関連ではエクイティだけではなく、デットやメザニンからの調達も検討しなければならない。現状、プロジェクトがグリーンかどうかは投融資の条件になっていないものの、やはり投資家としては、各社PRI/PRBへの署名やESG投融資目標達成への動き等もあることから、グリーン等の色がついていればよりお金を出しやすい状況だと認識している。水素、アンモニア関連など次世代技術への投資も単独ではリスクがあるため、政府系の支援だけではなく民間からもお金を引っ張ってこなければならない案件も相応にある。

――引き合いはどうか。どんなセクターからの依頼が多いか。

案件は2021年に入ってから急増した。動き始めて最初に来たのがプライベートエクイティ。ESGという文脈ではやはり再生可能エネルギーに対しての投資意欲が強い。電力をはじめ、日本のエネルギー各社、商社からも早い段階で相談があった。

事業のトランジションやトランスフォーメーションといった話も足元でとても増えている。オイル、ガス、素材、重工産業など脱炭素に向けた需要が強い。洋上風力に対する投資案件のご支援についても最近は引合いが多く、投資家は国内外を問わない。

M&AやESG/気候変動関連の相談に関していえば、全体でみればやはり上場企業からの相談が多い。ファイナンシャルアドバイザリーで対応している具体的なものとしては、例えばESGデューデリジェンス(ESGDD)や社会的インパクト分析、GHG排出量といった内容のものが多いが、具体化されていないものも多く、その背景は多様で、様々な悩みの相談を受けている。クライアントの悩みに対して、我々のできる範囲で様々な情報の提供や意見の交換をさせていただいくというステージの案件も多いが、それらをより具体化・具現化させていくのが今年だと思っている。

――ファイナンシャルアドバイザリー業務の特色として挙げられる点は。

ESG投資をしたらどれだけの価値を生むのかということを定量的に示すことが、これからは非常に大事になってくる。ESG投資は、その効果が直接投資企業のキャッシュフローに現れないことも多いため、それが何にどう貢献したのか、社会的インパクト分析によって可視化させる。ケースとしては、たとえばある社会的活動に対して、社会的リターン・オン・インベストメント(SROI)が1倍を超えるかどうかを分析し、それを受けてどう改善していくかの判断材料の1つとしてご利用いただくといったことがある。ESG投資に社会的意義があるのは分かるが具体的にどう効果があるのかの判断がつかず、その投資あるいは継続の是非について悩まれているクライアントに対して、プライオリティ判断を補完する方法として示している。見えない価値を可視化させることで投資家の評価も変わってくるし、今は積極的に開示をしようとする企業が増えてきている。一方、M&Aにおいては、より短期間で評価・判断することが求められるため、GHG排出量などその対象範囲に一定程度制約はあるが、いずれにしても金額的に定量化していくことが、今後のESGや気候変動といった領域においてファイナンシャルアドバイザリー業務に強く求められるようになると考えている。

――ESGに関連する分野の定量分析について、競合他社は。

企業のESG投資による社会的なインパクトの定量化は、弊社の強みとしてさらに強化していきたい。弊社は数字面が得意な会社であり、スポーツ関係を含め企業活動における影響の分析をすすめている。社会的インパクトだけでこの1年で20件以上の引き合いがあり、昨年10月のウェビナーや個別訪問を経て10件程度の受注をさせていただいた。また、ESG関連のデューデリジェンスはPEファンド系からの照会が多く、今後は事業会社にも広がるとみている。

ESG/気候変動分野は金融機関をはじめスタートアップの参入など、潜在的な競合他社の範囲がこれまでから広がっているので、その動向もよく見ていく必要がある。また銀行も銀行法改正により事業を広げていく中でコンサル分野に入ってくると思うが、デロイト トーマツはベースナレッジがあったうえで各企業の事業分野について専門性を持った人材が多い。クライアントの事業内容やリスクを技術や知財等あらゆる面で評価したうえでのアドバイスができるし、ファイナンシャルアドバイザリーとしては財務や会計の専門性を統合させることにより、付加価値を高めたサービスを提供していきたい。

――気候変動対応においては何をグリーンと判断するかなどで現状政府の動きが流動的だが、何を指標にしているか。

EUタクソノミーの動きは注視している。ヨーロッパのタクソノミーに一部の日本企業が対応せざるを得ない部分はあるものの、同じような対応や方針を実行するのには現時点ではまだ無理があるだろう。国内で基準を作るにあたっては、グリーンウォッシュやブラウンと後ろ指を指されることなく、日本企業がサステナビリティの分野で世界をけん引できるよう、政府としての明確な成長戦略の基にESGなどの議論を進めることが必要であろう。(久保木 亜澄・DealWatch/Refinitiv)

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FAポータル編集部にて再編