1984年の創業以来、「未来のあるべき姿を描き、想像し、クリエイティブに社会に貢献する」という理念に基づき、ブランディングを通してクライアントの企業価値向上に寄与してきたのが株式会社シー・アイ・エー(以下、CIA)です。そのCIAのプレジデントである江島成佳と、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の代表執行役社長である福島和宏が、企業におけるパーパスやブランディング、社会貢献について対談を行いました。

福島 和宏

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
代表執行役社長

アジアパシフィックM&Aトランザクションサービス・コーポレート企画・C&I (Clients & Industries) の統括パートナーを歴任し、日系および外資系クライアント、ならびにプライベートエクイティファンドに対し、デューディリジェンス、企業価値評価・無形資産評価業務およびアドバイザリーサービスを含む幅広いサービスを提供。2018年6月より代表執行役社長に就任。

江島 成佳

株式会社シー・アイ・エー
代表取締役社長

ブランディングのコンセプト開発・企画立案からトータルディレクションおよびマネジメントの実行責任者を歴任。金融・IT、不動産、自動車メーカー、運輸、病院、教育、流通・小売業、飲食業など幅広い業種のブランディングに従事。VI開発やプロダクト、サービス開発、空間設計、コミュニケーション施策なども手掛ける。2021年5月よりCIA Inc.代表取締役社長に就任。

日本企業に変革が求められる理由

――昨今の日本企業の変化をどのように感じていますか。

江島

これまで、多くの日本企業は「ものづくり」を大切にしていて、それにより生み出される価値で他社との差別化を図ることが一般的でした。しかし現在は、ものづくりだけで差別化を図ることが難しくなっているのではないでしょうか。
この変化にどのように対応するかが、多くの企業に問われていると思います。

福島

日本には強い製造業を中心とした産業がありつつ、社会の変遷に伴って企業も変わってきました。そうした変化を企業のM&Aや再生の活動を通してみたときに強く感じるのは、日本企業の停滞と変化です。DX(デジタル・トランスフォーメーション)を活用したビジネスの変革、あるいは労働生産性の向上といった観点や企業に求められる価値観において、日本企業の遅れや変化を感じています。

江島

サステナビリティやウェルビーイング、地域活性化などといった観点での取り組みが求められていることに呼応し、企業やそこで働く人たちの考え方やビジネスに取り組む姿勢も変化しつつあります。

ブランディングが見直されつつあることも変化の1つで、企業価値としてブランドが捉えられるようになり始めています。たとえばあるM&Aの入札において、買収企業が入札価格では他社入札企業に劣っていたものの、対象会社の想いをはじめ、社員・製品・サービスなどのブランドとして有する企業価値への理解力が 認められて入札に勝つことができたケースもあります。企業価値の向上において、ブランディングは企業にとって今後さらに重要な要素になると考えています。

福島

M&Aの際の評価対象には有形資産と無形資産がありますが、近年は無形資産の割合が高まっています。この無形価値の中にはブランド価値が含まれるほか、今後は企業が創出している社会的価値も考慮していくこと評価の対象になるっていくでしょう。

江島

私も社会的価値の重要性は高まっていると強く感じています。さらに社会的価値を創出する取り組みを進めるうえでは、その土台として企業のパーパス(存在意義)が極めて重要な要素であるほか、パーパスに基づいてビジネスが進められているかどうか、つまりパーパスドリブン経営を実践しているかも問われる時代になりつつあります。

企業に求められる「社会に貢献する視点」

――パーパスについて詳しく教えていただけますか。

江島

多くの企業は、自社が取り組む事柄を表すミッションや、目指している姿を表すビジョンを標榜しています。一方、パーパスは自分たちが何のために存在しているのかを表すものであり、さらに社会的にどのような影響をもたらすのか、どのように貢献するのかといった視点も含まれる概念であると捉えています。

このパーパスを明確化して社会に発信することで、その企業がなぜ存在しているのか、どのような価値を社会にもたらすのかを分かりやすく示すことができると思います。

特に昨今は、企業価値の向上を目指すだけではステークホルダーやマーケット、顧客の支持を得ることが難しくなっているのが実情ではないでしょうか。社会を構成する一員として企業を捉えたとき、やはり社会に貢献する視点は欠かせないものであり、そのための行動の指針としてパーパスは重要なものであると考えています。

このパーパスを社会に伝えていく際には、声高に主張するというよりも、自らが正しいと思うことをパーパスとして定義し、それをしっかり伝えていくことが大切ではないでしょうか。さらに言えば、継続して伝えることやパーパスに行動を伴わせることも重要です。

福島

デロイトのネットワークでは、「Deloitte makes an impact that matters.」をパーパスとして掲げていて、クライアント、メンバー、社会に対して、価値あることをもたらすために、日々挑戦を続けることを存在価値としています。

従来は、価値を提供する相手としてのクライアントが大きな割合を占めていましたが、社会が変革する中で、メンバー、そして社会に価値を提供することの比重が高まっています。このような背景も相まって、2021年にはデロイト トーマツ ウェルビーイング財団を設立しました。社会課題の解決を通じて公益の増進を牽引することで、より一層の社会的価値の創出に貢献することが目的です。

これらの活動を通じ、Societal Well-beingとPersonal Well-being、そしてPlanetary Well-beingの3つの観点で、社会的価値創出活動を推進することを考えています。

ブランドと顧客体験価値

――ブランディングを行う際、CIAが重視していることを教えてください。

江島

その企業が持つDNAを見つめ直し、磨き、伝え、そして顧客体験価値としてお客様にブランドを感じていただくことを重視しています。

体験の仕方としては、店舗などの空間や販売する商品などのリアルタッチポイント、あるいはWebサイトなどといったデジタルタッチポイントなど、様々な方法があります。これらを通じてブランドを実感していただく。そして、商品を販売するのであれば、その商品を所有することでライフスタイルがどのように豊かになるのかなど、日常生活全般の顧客体験まで含めてデザインし、ブランドを構築していきます。

これまでの日本企業には、品質の高い商品を提供することが他社との差別化につながるという考え方があったと感じています。しかし現在では、品質が良いことだけでは差別化することが難しくなっています。そのため、カスタマージャーニーまで視野に入れて商品をデザインするなど、顧客体験全体を視野に入れてブランディングに取り組むことが求められるようになりました。

実際の取り組み例としては、あるフラワーショップのブランディングがあります。当初は売り上げの拡大が目的でしたが、ひもといていくと従業員の方々のモチベーションを上げなければ、顧客体験価値の向上が果たせないことに突き当たりました。

そこでプロジェクトに従業員の方々を巻き込み、どうすれば自分たちのブランドを確立できるのかといったことを議論しながら、改めてパーパスやビジョンを整理し、ブランディングを進めていきました。

このようにプロジェクトに従業員の方々を巻き込む際には、ブランディングの目的を理解してもらうこと、そしてお客様を意識してもらうことが重要だと実感しています。特に日本企業は作ることに意識が集中しているケースが多いのですが、その前にお客様を思い浮かべ、商品を提供することでどうなるのかといったところを見据えて作る、そういった意識を持ってもらうことが大切だと考えています。

――CIAは2020年11月にDTFAの子会社となりましたが、今後どのようなシナジーを生み出していけると考えていますか。

福島

デロイト トーマツ グループでは、東日本大震災の被災地域、あるいは大地震や豪雨、阿蘇山の噴火で大きな被害を受けた熊本県の復興支援に携わっているほか、DTFAとデロイト ベトナムで連携し、ベトナムにおいて「日越サッカー交流」イベントを開催するなど、社会貢献のための様々な取り組みを進めています。

このような取り組みを通じて我々自身も社会的価値の創出を試みてきました。今後はCIAとも連携して取り組みを加速していきたいと考えています。連携においては、想い(DNA)を言語などにて具現化し、事業として形づくり、そしてコミュニケーションとして対内外に伝えるといった観点では、CIAの知見が大いに役立つと期待しています。

さらに我々の事業においても、たとえば企業再生プロジェクトにおいてブランドの創出や強化を図る、あるいはブランド価値を可視化するといった観点において、CIAをDTFAのグループに迎えることができたメリットは極めて大きいと感じています。

今後も、クライアント、ともに働くメンバー、そして社会の3つの軸を意識しながら、企業価値、そして社会的価値を生み出していくための活動に取り組んでいきます。

江島

CIAでは、未来のあるべき姿を描きつつ、クリエイティブを通して社会に貢献することをモットーに事業を営んできました。今後はDTFAと連携しながら、クリエイティブやデザインの"意味"を拡大し、より幅広い領域でクライアント、そして社会に貢献していきたいと思います。