2020年の春先に始まった新型コロナウイルスの感染拡大は日本経済に大きな影響を与えました。
本連載では各地域経済における新型コロナウイルスの影響について、デロイト トーマツの地域事務所パートナーが解説します。

※当記事は経営人材プラスに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

新潟県経済の状況

新潟県は、稲作を中心として農業が盛んなイメージがありますが、直近の国勢調査の結果を見ると農業などの就業者割合は全体の5.6%にとどまっています。産業大分類別の新潟県民の就業者は、多い順に製造業(18.3%)、卸売業・小売業(16.1%)、医療・福祉(12.5%)、建設業(9.9%)となっており、ほかの都道府県と同様にバランスの取れた構成となっています。
最も構成比率の高い製造業については、化学や燕三条地域の金属製品なども基幹産業の1つですが、平成27年の主要製造業種における製造品出荷額データによれば、食品産業の出荷額が化学などの業種を抑えて第1位となっており、全製造業の18.4%を占めています。中でも米菓や切り餅など、米を主原料とした業種の全国シェアはトップクラスです。

新型コロナウイルスによる影響

このような新潟経済に対し、新型コロナウイルスはどのような影響を与えているのでしょうか。新潟県は、2020年春ごろの全国を対象とした緊急事態宣言時を除き、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域とはなっていません。このため、緊急事態宣言などの対象地域に比べれば、影響は大きくないと言えるのかもしれませんが、それでも悪影響は発生しています。
新潟県内でも、新規感染者数が収束しない状況から、ほかの都道府県との往来を極力控えること、また、飲食を伴う会合を控えることを新潟県民に呼び掛けています。内閣府の公表データによれば、新潟県の飲食店情報の閲覧数は、Go to eatの影響を受けた2020年秋ごろを除き、2020年の春以降は一貫して2019年数値を大幅に減少(月により20~80%の減)しています。このことから、新潟県内の飲食店も大きく影響を受けていることが分かります。また、新潟県の宿泊者数についても同様の動きを見せており、宿泊を中心とした観光業も大きく影響を受けているものと思われます。
各種補助金や融資制度が奏功して、新潟県内の企業倒産件数はコロナ禍においても低水準が続いていますが、先述の業種については経営状況が厳しい企業も多いことが想定されることから、新型コロナウイルスの収束による人流復活のタイミングがポイントになるものと思われます。
一方で、新型コロナウイルスによる、巣ごもり需要などの恩恵を受けている業種もあるようです。冒頭で説明した新潟県の主要産業である食品産業については、家庭内飲食の増加に伴う需要の増加により、売上を伸ばしている企業も多く見受けられます。このような企業については、製造ラインの稼働上昇に対応するための人員の確保に苦労しているなどの話が聞こえてきます。そういう意味では、業種により明暗が分かれている状況であると思われます。

出所:V-RESAS(https://v-resas.go.jp/prefectures/15#accommodations)

働き方やビジネスの変化、今後の方向性

コロナ禍で全国的にリモートワークが定着している状況ですが、新潟県内企業についても、事務系の職種を中心としてリモートワークが徐々に浸透している状況が見受けられます。また、ほかの都道府県との往来を控えざるを得ない状況から、部分的ではありますが、営業職の商談についてもリモートで対応している企業が増えているようです。
また、在宅勤務など新しい働き方に対応すべく、コワーキングスペース事業を新たなビジネスとして取り入れる新潟県内の企業も出てきています。そういう意味では、環境の変化にいかに柔軟に対応できるかという点も問われる時代だと思われます。

新型コロナウイルス収束後、人流の復活と共に飲食業や宿泊業などの業績も回復することが予想されます。一方で新型コロナウイルス収束後も、新しい働き方や生活様式はある程度継続する可能性があります。新潟県内企業においても、新しい働き方や経営の高度化に対応すべく、DX化の流れは加速するものと思います。新潟県など県内自治体による県内産業へのDX化のサポート体制も整備されつつありますし、これをいかに活用するかがポイントとなるかもしれません。

有限責任監査法人トーマツ
新潟事務所

石尾 雅樹 / Ishio Masaki

新潟事務所長