新型コロナウイルス影響下の宿泊需要とオフィス需要を徹底予測
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&Aトランザクション
門田 直之
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
アナリティクス
完倉 信宏
新型コロナウイルス感染拡大によって多くの人たちが旅行を自粛したことで、観光業界は甚大なダメージを被りました。またテレワークの普及により、オフィス需要にも大きな変化が現れています。この宿泊需要とオフィス需要について、デロイト トーマツでは独自に予測モデルを構築し、2020年7月時点の情報をもとに将来をシミュレーションしました。
目次
機械学習で2020年秋以降の宿泊需要を予測
新型コロナウイルス感染症の経済に対する影響は甚大で、様々な業界が極めて厳しい状況に陥っています。その中でも特に観光業界は、大きなダメージを受けた業界の1つでしょう。
たとえば宿泊業では、インバウンドと呼ばれる訪日外国人観光客が大幅に減少したことに加え、国内における宿泊需要も著しく落ち込んだことから、多くのホテルや旅館などが厳しい状況に追い込まれました。
このような背景から、旅行・観光業が受けた市場全体の影響について、定量化・分析するサービスについてのニーズが高まりました。また、個別事業者からコロナ禍での宿泊者数や需要の回復時期についての示唆・助言が求められていたことから、デロイト トーマツでは宿泊需要の予測モデルを独自に構築し、機械学習を用いたシミュレーションを行っています。
予測モデルの構築では、マクロトレンドを捉えているデータやレポートを公的機関などから収集し、シミュレーションに反映する指標や数値を選定しました。またシナリオの作成においては、国連世界観光機関(UNWTO:The World Tourism Organization of the United Nations)やアメリカのデロイトのレポート、そしてホテルを運営している事業者に対して独自にアンケートした結果などを用いています。
このモデルを用いて予測した結果と、実際の宿泊数の実績を比較しました。2020年4~5月段階の実績は、緊急事態宣言やそれに伴う制限措置の影響もあり、予測よりも大幅に落ち込んでいます。また予測モデルでは、8月に一定程度の需要が回復するとなっていましたが、Go To トラベルの影響もあり、実際に需要がそれなりに回復したのは秋になってからでした。
ただ需要回復期における宿泊者数の予測は概ね正しかったほか、秋以降の需要の減少についても実績値と予測値がほぼリンクしていました。
さらにデロイト トーマツでは、この予測モデルのさらなる改善や、新たなデータを取り込んだシナリオの精緻化を進めています。それによって得られた需要予測シミュレーション結果を活用し、ホテル業や製造業、航空業など、幅広い業界のお客様の事業を支援するサービスを提供しています。
デロイト トーマツでは宿泊関連業における新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた宿泊需要予測 第2弾を提供しています。
2020年9月に提供した第1弾から様々な業界の各指標でトラックレコードが蓄積されているほか、COVID-19ワクチンの接種が与える宿泊業界への影響などについても需要予測に反映しています。ぜひご覧ください。
新型コロナウイルスのオフィス需要への影響
観光客の宿泊需要と同様に、コロナ禍で注目を集めたのがオフィスの空室率です。その背景には、新型コロナウイルスの感染防止策の一環として多くの企業でテレワークが実施されたことがあります。これにより、テレワークでも十分に業務を遂行できると判断した多くの企業がオフィスを解約・縮小したため、オフィス需要は落ち込みました。
このオフィス需要について、デロイト トーマツでは将来の経済的なインパクトをシミュレーションするために、不動産市場における関連指標の傾向に基づいた需要予測モデルを構築しています。
この予測モデルはザイマックス不動産研究所が発表した先行事例を参考にして、オフィス需要側と供給側についての各種指標予測モデルを構築しています。またオフィスワーカー数やオフィス賃料、そのほかオフィス需要動向を表す情報を調査・収集し、予測モデル構築時の学習用データとしました。
このモデルを用いて需要を予測することにより、意思決定につながる指標について、その落ち込みの大きさを予測すること、そして新型コロナウイルス感染症の影響による景気後退局面から脱する時期を推察することを主な目的としています。
なお需要予測の対象はオフィスのみで、店舗や商業施設などに関しては今回の予測対象から除外しています。また予測する地域について、全国の中でデータがもっとも充実していることから、東京都のみを対象にしました。
このモデル構築に利用したデータについて、REITやTOPIX、実質機械受注といった各種経済指標などを先行指標として用いたほか、需要側ではオフィスワーカー数や専有面積、供給側ではストックや空室率、新規竣工料、賃料などを取り入れました。さらに総務省や厚生労働省、東京商工会議所が実施したテレワーク実施率を調整変数として利用しています。
実際のモデルでは、先行指標として想定した経済指標とコロナ禍でのテレワーク実施率からオフィスワーカー数を予測、さらに需給指標間の因果関係から賃料を予測しています。
オフィス賃料は2024年度まで下落傾向が続く!? 具体的な予測結果について、オフィスワーカー数と吸収量、新規竣工量、空室率、賃料のそれぞれについて見ていきます。
ニューノーマルな働き方が広まり、オフィスワーカーは15%減
オフィスで働くオフィスワーカーの数について、2011年から2020年第一四半期までは予測モデルで推定した数と実績がほぼ一致しました。2020年第二四半期以降は、従来の15%減になると予測しています。
吸収量が上昇に転じるのは2021年第四四半期以降
続けて、オフィスワーカーが利用しているオフィス面積を表す吸収量について、前段で予測したオフィスワーカー数をもとに予測しています。この吸収量はオフィスワーカーの増加に合わせて増える因果関係にあるため、新型コロナウイルスの影響を受ける2021年第一四半期以降に急減、上昇に転じるのは2021年第四四半期以降で、2023年第2四半期にプラスに戻るとの予測結果になりました。
新規竣工量は2022年度第四四半期に底を打った後に上昇
新規竣工量は、ストックや空室率、吸収量などの需要動向と、過去竣工したオフィス面積の量に影響を受けます。こちらについて、2022年第一四半期以降は新規竣工量が減少、2022年第四四半期に底を打った後にいったん上昇に転じると予測しています。
オフィスの空室率はしばらく上昇傾向が続く
空室率については、2023年度に10%台に達するとの予測結果になりました。なお2019年度から見ていくと、実績値よりも予測値が下回っている、つまり予測モデルの結果よりも空室率がわずかに高い状態になっています。その理由としては、我々が構築した予測モデルが正しいという前提に立つと、企業におけるテレワークの実施が想定よりも進んでいることが考えられます。
2024年度第一四半期の賃料は、2011年度比で2割低下
最後に賃料を見ていきましょう。この賃料は空室率が高くなり、さらに吸収率が下がることによって押し下げられます。2011年第一四半期の新規成約時の賃料を100としたインデックスで見ると、2020年第二四半期から賃料は下降に転じ、2024年第一四半期には81.8まで下落すると予測しています。
新型コロナウイルスの状況によって大きく変化する可能性はありますが、オフィス需要が元に戻るにはしばらく時間がかかるでしょう。ただ、一方でオフィスの価値を見直す動きがあり、テレワークからオフィスワークへの回帰が急速に進むことも十分に考えられます。このように流動的な状況のため、オフィス需要の動向はしばらく注視する必要がありそうです。