多くの病院が赤字経営に苦しんでいるなか、新たな問題として浮かび上がっているのが、建物の老朽化に伴う建て替え費用の確保です。日本の医療危機にもつながりかねないこの問題が起きた理由と、具体的な解決策について解説します。

多くの病院が赤字経営に陥っている現状

厚生労働省によると、民間病院の約半数、自治体病院は9割弱、そのほかの公的病院の約6割が赤字経営に陥っています。

出所:厚生労働省「病院経営管理指標」

この背景には、中小病院の乱立という供給側の構造的な問題があります。中小病院の乱立が医療資源の分散と過剰な同質競争をもたらし、病院の赤字経営が多い一因となっています。

また、政府による医療費の抑制政策や、生産可能人口の急速な減少による働き手不足、医師の働き方改革への対応などといった外部環境の変化が、病院経営をさらに難しいものにしています。

こうした状況に追い打ちを掛けているのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。感染を避けるための受診控えによる患者数の減少や、感染者を受け入れることによる病棟機能の制限などにより、病院経営の実態は悪化傾向にあると考えられています。

現状では、新型コロナウイルス関連の補助金・助成金や福祉医療機構などの政府系金融機関の制度融資に支えられ、どうにか経営を維持できている状況ですが、これらの支援措置は未来永劫続くものではありません。

このような背景から、今後、医療需要がピークアウトすれば、中小病院の割合が高い道府県では、民間病院を中心に淘汰・再編が進むことが見込まれます。

この動きを加速させる要因となりかねないのが、老朽化した建物の建て替えコストの負担です。

病院に重くのしかかる建物の建て替えコスト

建物の老朽化や耐震性の問題から、建て替えを迫られているケースも多く、これも病院経営の舵取りを難しくしている要因となっています。

その背後にあるのは、1985年に成立した第一次医療法改正です。

この改正により、医療圏ごとに必要病床数が定められ、それを超える新たな病院や病床の設置が規制されるようになりました。この規制を回避するために、1980年前後に新病院の建設が急増したのです。

出所:国土交通省「建築着工統計調査」よりDTFA作成

それから約40年が経過した現在、民間の中小病院を中心に建て替えが必要な病院が数多く存在しています。

ただ、建物の建て替えには莫大な費用が必要になるうえ、工事単価の上昇により病院の建て替えに伴う投資額は以前に比べて大きく増加しているのが実情です。

工事単価が上昇した理由としては、東日本大震災からの復興需要や五輪開催に向けた施設の整備、都心部の大規模再開発やリニア新幹線などといった大型プロジェクトによる需要増加があります。加えて、現場の職人不足および週休2日制導入といった働き方改革に伴う人件費の負担増もあり、当面は高止まりする見通しです。

このように、病院の建て替えには大きな経済的負担が伴いますが、それを解決する選択肢の1つとして注目されているのが、第三者の資金を活用した建て替えです。

第三者の資金を活用した病院の建て替え手法とは

第三者の資金を活用した建て替え手法によれば、第三者の事業者(例:不動産デベロッパーなど)が、病院の土地と建物を含めた事業用不動産を所有することになります。

一方で、病院のもともとの所有者である経営者は、その事業者と長期安定的な賃貸借契約を締結することによって、病院の運営に専念することができます。

このような手法は、国内のホテルや商業施設、物流施設などの事業用不動産ですでに数多くの実績があり、近年では介護施設での適用も見られます。アメリカでは、病院の不動産の所有と運営を分離した経営形態が広まっています。

病院の建て替えに第三者の資金を活用することは、病院側には多くのメリットをもたらします。たとえば、次の3つのようなメリットがあります。

建物保有と病院経営の分離がもたらす3つのメリット

[病院側のメリット]

●財務負担の大幅な軽減
●建物の管理業務の負担期限
●建物の価値の維持

 1つ目のメリットは、費用負担が大幅に軽減されることです。

多額の債務と経営者保証の負担がなくなり、さらに賃貸借条件次第では、金融機関に対する借入の元利弁済よりも支出を抑制することができます。

鉄道駅や商業施設、公共施設などと複合開発を行い、駐車場や食堂、会議室、休憩室などといったスペースを共有化するといった取り組みも考えられます。

これが実現できれば、病院部分の投資額を抑制することが可能になり、賃料負担額の軽減が図れます。こうした複合開発は、人の流れにも大きく影響するため、集患力を高める効果を享受できる可能性もあります。

2つ目のメリットは、建物の管理業務における負担の軽減です。

多くの病院では営繕担当を配置する、あるいは総務などが兼務する形で建物管理を行うことが一般的ですが、能力を含めた人的リソースに課題があることが珍しくありません。

しかし事業者が建物を所有する形であれば、建物の維持管理を行うのも事業者となり、そのために人的リソースを確保する必要がなくなるわけです。

3つ目のメリットは、建物の価値が事業者によって維持されることです。

病院建物の価値を維持することは、建物の所有者である事業者にとって大きな関心事であることから、計画的な修繕などが行われ、長期にわたって建物を安全かつ快適に利用できる可能性もあります。

建て替えが必要な状況で、なおかつ経営が厳しい病院にとっては、このようなメリットがある第三者の資金を利用した方法は魅力的な選択肢となるでしょう。ただ一方で、デメリットも考えられることから、病院側には慎重な検討が求められます。

なお、第三者の資金を利用した病院の建て替えについて、「Industry Eye」のコラム「第57回 ヘルスケア 第三者の資金を活用した病院の建替え~開発型病院建替投資ストラクチャーの組成~」では、このデメリットも含めて、詳しく解説しています。ぜひそちらもご参照ください。