デザイン思考、AIoT
CIA Future Lab(長谷川、劉、諸岡)
目次
デザイン思考とAIoT(モノの⼈⼯知能)
全世界でAIやIoT(以降、「AIoT」)などのデジタル技術を活用したスマート化が加速しています。人間だけでは手に負えない複雑化した問題が増したことで、効率的に意思決定のプロセスを向上させる仕組みが求められるようになりました。「デザイン思考」もまた、問題解決のツールとして広く活用が進んでいます。人間の内面を起点とした課題解決や新たな価値を生み出すことができる思考法として注目されてきました。
本連載では「AIoT」の概念と「デザイン思考」の組み合わせることで、未来をどのようにデザインできるのか。全3回で可能性を紹介していきます。
スマートかつより複雑な世界へ
いまや世の中は、様々な要因が複雑に絡み合い、将来予測が困難なVUCAの世界と言われています。そこでは「厄介な問題(wicked problem)」が急増し、解決するための手法が多く模索されている状況です。そして、解決策の1つとして「デジタル」と「デザイン」の活用が注目されてきました。今後、さらに複雑さが増し、人間ではもはや対応が難しくなった世界ではAIやIoTをはじめとするデジタル技術がさらに加速し、同時にデザインを活用した手法も推進すると想定されます。
加速度的に変わっていく世界におけるAIoTとデザイン思考を活用した未来デザインの可能性について述べる前に、まず、デザイン思考と AIoTについておさらいしておきます。
デザイン思考について
デザイン思考(Design thinking)は様々な領域において、本質的課題を発見し、価値を提供できる解決策を生み出す思考方法であり、ノンデザイナー向けにデザイナーの思考を整理したものです。「デザイン思考」という言葉を一見するとデザイナーだけの思考のように感じられるかもしれませんが、実際はデザイン分野のみならず、科学、工学、ビジネスなど多様な分野において活用可能なものです。
そして、グーグルやアップルなど「GAFA」と言われるグローバル企業をはじめ、シリコンバレーのベンチャー企業が製品やサービスを開発するときには、既にデザイン思考を実践しています。中国でも大手企業バイトダンス、アリババ、テンセントをはじめとして様々な企業で活用していると言われています。
「デザイン思考」という考え方は、Herbert Simonが1969年に発表した『システムの科学(The Sciences of the Artificial)』で提唱され、1987年以降、徐々に世の中に浸透してきました。スタンフォード大学の「d.school」もデザイン思考の発展に大きな貢献をしており、そこでは実践のためのアプローチとして5つの段階を提唱しています。
1.共感(Empathize):ユーザーを深く理解して共感する
アンケートなど量的調査、あるいはインタビューやエスノグラフィなど質的調査を活用し、ユーザー視点にて観察。「一体何を求めるのか」、「なぜそれを追求するのか」、「本質的なニーズは何か」を理解する段階です。 実践の場では、量的調査と質的調査を組み合わせるのが一般的です。
2.定義(Define):アプローチすべき問題を明確にして定義する
量的調査や質的調査を行い、多様な視点でユーザーデータやフィードバックを収集。カスタマージャーニーマップなどユーザーの行動と考えを可視化して、KA法やKJ法などの分析手法を用いて、さらに掘り下げ、「最も重要な課題は何か」を定義する段階です。
3.アイデア創出(Ideate):問題を解決するならアイデアをなるべく多く出す
最も重要な課題を確定した後、なるべく多くのアイデアを生成し、解決可能な方向性を得る段階です。 通常の場合には、ブレインストーミングなど手法を用いながら、「否定をしない」ことを前提にして何十個のアイデアを生み出し、何らかの基準を設定することで投票などの手法にて最適な解決策を確かめます。
4.プロトタイプ(Prototype):なるべく早くプロトタイプを作る
スケッチ、ポストイットなどにて可視化した解決策を踏まえ、解決策を具現化したプロトタイプを作成する段階です。ここで重要なのは、チームメンバーやユーザーと解決策についての議論をしやすいようにプロトタイプを作成することです。外観や機能性の完成度が高すぎると、チームメンバーやユーザーなどの評価者がコメントの際に修正を伝えにくくなる可能性があります。
5.テスト(Test):プロトタイプをユーザーにテストする
作成したプロトタイプをユーザーに使用してもらい、表情、行動などを観察しつつ、「使いにくい」や「適切ではない」などの問題点を収集する段階です。そして、収集したフィードバックをもとに、改めて「どこを改善すべきか」、「本当の課題は何か」など「定義(Define)」の作業を行い、課題を再定義していきます。
上記で記したアプローチは1度で終わる直線的プロセスではなく、反復し続けるプロセスで、スケッチやプロトタイピングなど非言語的媒介をよく利用するのが特徴です。そして、人間を中心としたソリューションを生み出そうとする活動は、デザイン分野だけではなく、すべての分野における「厄介な問題」を解決する上で応用できます。そのため各分野のビジネスシーンで広く活用が進んでいます。
AIoTについて
AIoT(モノの人工知能化)とは、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を組み合わせた言葉であり、シャープが2015年から提唱している概念です。IDC(International Data Corporation)では、2025年に世界で55.7億台の接続されたデバイスがあり、そのうち75%がIoTプラットフォームに接続されると予測しています。今後、センサーの低コスト化と各国の政策による支援に伴い、AIoTの重要性と普及は加速していくと思われます。
※出典:phileweb."シャープ、スマホ内蔵ロボット"RoBoHoN"。新ビジョン「AIoT」発表でAQUOS新UIも"
※出典:idc. "IoT Growth Demands Rethink of Long-Term Storage Strategies, says IDC"
AIのメリットは、機械学習により、データ分析と即応性のある意思決定を自動化でき、意思決定のプロセスを改善し、効率性を劇的に向上させることです。IoTのメリットは、多くのセンサーを使用してモノのデータを取得できることです。そして、AIとIoTの利点を組み合わたAIoTでは、IoTで生成された大量のデータをクラウドに収集し、機械学習により「意味のある情報」に変換でき、リアルタイムで自動的にデータ分析と意思決定を行えるようになります。
AIoTのプロセスは主に以下のステップがあります。:
- データ収集:
IoTデバイスに搭載された多様なセンサーにより、大量のデータをリアルタイムに収集します。 - データ処理:
データをクラウドに収集し、そこでデータ分析など処理作業を自動的に行います。この際、大量のデータから意味のある情報が抽出されます。 - 情報伝達:
データから意味のある情報を抽出し、アウトプットのデバイスへその情報を伝えます。 - 意思決定:
受信した情報にもとづきアウトプットのデバイスを動かし、処理します。
例えば、AIoT搭載の冷蔵庫では、リアルタイムかつ継続的にユーザーの習慣を学び、「何をよく買うか」を予測し、よく買うものが冷蔵庫になければ、ショッピングプラットフォームを介して自動的に注文します。さらに中身をスキャンし、保存されている食品データを収集して関連レシピの提案や、問題が発生した場合に「どの部分が壊れているか」を検測し、メーカーのサポートセンターに自動的連絡することができます。
以上のように、AIoTは効率性から見ると時間コストと人件費を大幅に削減することができ、UX(ユーザーエクスペリエンス)の観点からは、モノは単なる「ツール」から、ユーザーを理解する「パートナー」になる可能性を示唆しています。
本記事では、複雑さが増し、より厄介な問題が溢れる現代において、問題解決に有効な2つの手段を紹介しました。次回は、AIoTとデザイン思考を活用することで、どのような変化の可能性が秘められているのか、課題は何かを明らかにしていきます。