米国のトランプ第2期政権が2025年1月20日、発足する。大統領に返り咲くトランプ氏は対立する中国だけではなく、カナダやメキシコへの関税賦課を表明した。連邦政府の再構築や大幅な規制緩和を進める意向も示している。米国は深刻な社会的分断の中、予見不可能性と自国最優先の度合いを増していくだろう。次期政権の政策、議会との関係を整理しながら、日本企業が現時点で留意すべき3つのポイントを取り上げる。

まず、トランプ第2期政権がどのような政治環境でスタートするのかを整理しよう。

2024115日に投開票された大統領選挙は、共和党候補のトランプ前大統領が計540人の選挙人のうち312人を確保し、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領を下した。連邦議会では20251月以降、上院は共和党53議席、民主党47議席となり、下院も共和党が過半数を上回る見通しとなった[i]。政権・上院・下院の全てで共和党が優勢となる「トリプルレッド」の体制が築かれる。(図表1

 図表1  大統領選の結果

連邦議会選の結果
上院

下院

(データソース)AP[ii]

物価高や白人中間層の没落が進む中、トランプ陣営はバイデン政権の経済対策、移民対策を激しく批判してきた。トランプ氏の主張が米国の男性、保守派、「反エスタブリッシュメント」層に浸透した結果、激戦7州全てを押さえたことが勝因とされるが、詳細な分析は今後の研究にゆだねたい。

トリプルレッドでの勝利をテコに、トランプ氏は公約に掲げた関税引き上げや連邦政府・統治機構の再構築、大幅な規制緩和を進める。既に、就任当日に友好国のカナダとメキシコの製品に25%の関税、中国製品には10%の追加関税を課すと表明した[iii]。ロシアやインドなど新興国で構成される「BRICS」諸国には、ドル以外の通貨での決済を進めるならば、100%の関税をかけると警告した[iv]。今後、日本や欧州連合(EU)のような同盟国にも似たような関税措置で揺さぶりをかけると見られる。

閣僚・高官候補の人選では、政治経験よりも忠誠心を重視していることが改めてあらわになった。財務長官候補となったヘッジファンド創業者のスコット・ベッセント氏、商務長官候補の実業家ハワード・ラトニック氏はトランプ氏の意向を支持しており、法人減税や関税措置を推し進めるだろう。

こうした現状を踏まえたうえ、本稿では、企業が注視すべき3つの留意点を整理する。

     「政府効率化」とマスク氏の動き

     議会共和党の姿勢

     フレンドショアリング(友好国連携)の弱体化

――である。

①「政府効率化」とマスク氏の動き

第一に注目すべきは、トランプ2.0での「政府効率化」を著名起業家イーロン・マスク氏が主導することである。次期政権は、マスク氏が関わる宇宙開発や神経科学、デジタルネットワークなどの領域で規制緩和が進むのは確実だ。マスク氏はトランプファミリーの新参者であるが、閣僚人事や海外要人との会談にも関わっており、トランプ2.0では民間人であるはずのマスク氏の行政・外交への影響力が想像以上に高まりそうだ。

マスク氏は20247月、トランプ氏を推薦することを公式に表明し、7月以降、トランプ氏の選挙管理団体などに総額約18000万ドルを献金し、自身が買収したSNSでもトランプ氏を精力的に広報した[v]。これを受け、トランプ氏はマスク氏が提唱する「政府効率化」を進めることを決め、11月には次期政権において「政府効率化省(Department of Government Efficiency, DOGE)」を設立し、マスク氏と実業家のヴィヴェック・ラマスワミ氏を共同トップに充てると発表した[vi]。マスク氏とラマスワミ氏は、ホワイトハウスの行政管理予算局と緊密に連携して、規制撤廃、行政手続きの削減によって連邦政府の構造改革を進め、202674日までの活動期間において年間5000億ドルの支出削減を目指すと表明している[vii] [viii]。(図表2

図表2 FY2023年の連邦政府支出内訳

(データソース)USA Facts aggregation of data from Office of Management and Budget (OMB), the Census Bureau, Department of the Treasury, and the Bureau of Economic Analysis

 

焦点になるのは、第1期政権で導入した政治任用の拡充制度「Schedule F」である。バイデン政権が廃止したこの制度が第2期政権で復活すれば、共和党からの政治任用者を数万人単位で増やすことができ、トランプ氏の意向に従わない連邦政府職員の大量解雇が容易になるとされる[ix]。このプロセスに政府効率化省は関わり得る。

政府効率化省は「省」の名を冠するが、法的な位置づけはあいまいだ。トランプ氏の声明によると、DOGEは「政府外」から助言するとされている[x]DOGEの公式Xアカウントは「週80時間以上、コスト削減に取り組む意欲を持ち、極めて高いIQを持つ小さな政府志向の革命家を募集する」と発表した[xi]。民間企業の経営者・株主であるマスク氏らが公的な立場から政府効率化を推し進めることは、連邦政府諮問委員会に透明性と公平性を求める法(The Federal Advisory Committee ActFACA)などに抵触する恐れがあるが、トランプ陣営は特に問題視していないようだ。

このDOGEによる改革の対象として、特に注視されるのが、連邦取引委員会(FTC)、連邦通信委員会(FCC)、運輸安全委員会(NTSB)、証券取引委員会(SEC)などの政府独立機関である。これらの組織は、IT、デジタルをはじめとする急速なイノベーションに対応し、執行権や規制の範囲を拡大した。

背景には、連邦政府と議会、共和・民主両党の間での政治的断絶によって立法が難しくなっていること、そして、イノベーションの加速に法制度整備が必ずしも追いついていないこと、この2点がある。政府独立機関は競争法の概念や執行権、規制を用いて、AI、プラットフォーマー、暗号資産に関する制度整備に乗り出しており、議会共和党内には立法軽視といった不満が蓄積されている。トランプ氏も公約「Agenda47」で政府独立機関の自律的な政策執行を批判し、大統領権限の下に戻すと宣言していた[xii]

DOGEの活動では、規制緩和の行方に関心を払うべきである。マスク氏は宇宙輸送サービス事業で連邦航空局(FAA)、人工衛星事業でFCCと激しく対立している[xiii]。さらに脳にセンサーを埋め込み、デバイスを操作する「ブレイン・マシン・インターフェース」事業では食品医薬品局(FDA)との摩擦が不可避とされている。ルールよりもイノベーションを優先するマスク氏の下、DOGEは政府独立機関や政府部局に対し、大規模な権限縮小と規制緩和を求める可能性がある。SECの規制などが緩和されれば、金融・投資活動やイノベーションが促進される一方、消費者保護の動きが減速するかもしれない。(図表3

図表3 政府独立機関の規制をめぐる動向

DTFA Institute 作成

ただし、トランプ氏の方針は常に予測不可能さがある[xiv]。第1期政権ではトランプ氏の側近の地位をめぐって暗闘が繰り広げられた。マスク氏が望む規制緩和とトランプ氏が目指す規制緩和、その方向性が今後も一致するかどうかは注視が必要である。

 ②議会共和党の姿勢

第二に注目したいのは、連邦議会共和党の今後の動向である。トランプ氏が勝ち取った「トリプルレッド」によって次期政権と議会共和党は共闘するが、その中で、トランプ氏は大統領への権限の集約と議会制度の弱体化を狙っている節がある[xv]

米大統領は個別関税の引き上げや移民対策などの行政権限を持つ一方、予算編成・執行などは議会の承認が不可欠となる。特に上院で速やかに承認を得るには、6割以上の賛同が求められ、ハードルが高い。トランプ第2期政権は発足後、閣僚や省庁政治任用者の上院承認を速やかに得られるかが課題となる。(図表4

図表4 次期政権の政策と議会承認の要否

DTFA Institute作成

2025年以降の連邦議会は、下院共和党をジョンソン議長が引き続き主導し、上院共和党を率いる次期院内総務にはスーン氏が就任する。ジョンソン氏はトランプ氏の主張に近い一方、スーン氏は共和党穏健派とされ、トランプ氏との距離感が課題になる。また、米国の連邦議会では共和、民主両党ともに党議拘束がかからず、全ての共和党員が一致団結することはない。政権は議会との折衝を常に求められるだろう。

折衝のたたき台として注視すべきは、議会共和党が発出していくメッセージである。例えば、ジョンソン下院議長が20249月に発表した「100日アジェンダ」では、トランプ氏が求めるインフレ抑制法(Inflation Reduction Act of 2022IRA)撤廃などには言及しておらず、今後の政策を読み解く糸口となる[xvi]。この法律は、名称の通り、過度なインフレを抑制することを目的としているが、同時に、エネルギー安全保障や気候変動対策を迅速に強化することも求めている。

IRAに基づく気候変動対策支援投資は多くの共和党優勢州が受益しており[xvii]、ジョンソン下院議長も現時点ではIRA法については税控除額の見直しを示唆するにとどまっている。

一方、トランプ氏は政府効率化や減税、移民対策などの重点政策については、大統領権限で進める意向だ。閣僚・高官の上院承認についても、大統領の「休会任命」を増やすことを、SNSを通じて上院共和党に求めた[xviii]。連邦議会の休会中に大統領が議会の承認なしで政府高官を任命する強引なやり方だが、トランプ氏は気にしていない。

法制度的には、連邦議会の権限は引き続き強力であるが、次期政権が議会を弱体化させながら、大統領権限を強化し続ける可能性はある。米国の政策決定の力学が変わった場合、米国での事業、研究、さらにはグローバルなルールや貿易・サービス、ビジネス慣行に影響が及ぶだろう。米国政治がさらに不安定になるリスクを含め、その行方を注視すべきである。

③フレンドショアリング(友好国連携)の弱体化

第三に注目すべきは、米国が築いてきたフレンドショアリングの弱体化である。

経済と先端技術の両面で影響力を強める中国に対抗するため、バイデン政権は2021年以降、半導体や重要鉱物・素材などの戦略物資のサプライチェーンを同盟国・同志国で再構築し、強靭化する「フレンドショアリング」を進めてきた。友好国間で戦略物資や技術、専門家を循環させ、権威主義的国家による物資・技術調達に歯止めをかけることが狙いだった。それは、IRA法において米国および、米国との自由貿易協定(FTA)締結国の製品が政策支援の対象だったことからもうかがえる。

連邦議会では共和・民主両党がともに対中国強硬姿勢を示しており、トランプ第2期政権においても、中国による戦略物資・技術へのアクセスを封じようとする流れは変わらないだろう。しかし、次期政権は民主党政権が進めた「ルールに基づく国際秩序」や「多国間連携」には否定的であり、単独主義を追求する可能性が高い。

トランプ氏の「アメリカ・ファースト貿易計画」が実行に移されれば、友好国にも普遍的関税が課せられる[xix]。半導体などで進められたフレンドショアリングは弱体化し、外国企業に対する「バイアメリカン」「メイドインアメリカ」の圧力は高まる。友好国を含め他国への依存度を下げる動きが強まると見ていいだろう。

地政学リスクの高まりや新型コロナウイルス感染拡大を受け、日本政府や日本企業が進めてきた同盟国・同志国間でのサプライチェーン再構築も再点検が必要になるだろう。トランプ2.0での政策転換が進めば、日本企業は究極的には①米国内への製造集約、②米国以外の同盟国・同志国への投資拡大—のいずれかを迫られかねない。相反する2極を意識しながら、政策・事業戦略を組み立て、最適解を導くことが重要になる。

トランプ2.0対応、「魔法の杖」は存在せず

トランプ氏は20251月以降、第1期政権の時と同様に“Unpredictability”(予測不可能性)を武器に相手を揺さぶり、成果や勝利を得ようとするだろう。第1期政権と異なる点は、次期政権では政治経験ではなく、大統領への忠誠心を基準にして閣僚・高官候補が集められているということである。先を読むのは4年前よりも難しくなる。

日本企業、政府は前述の3つの留意点、その他の多くの領域において、トランプ2.0の激動に備えることが求められている。ただし、トランプ氏の予測不可能性に対する「魔法の杖」や「遠見の水晶球」は存在しない。

日本企業にとっては、

(1)   情報収集

(2)   接点の拡大

(3)   1期政権の政策・事例分析

―という3つの対応が基本動作になる。(図表5)また、図表6は、第1期政権の公約達成・未達状況から想定される戦略の策定・実施プロセスとなる。

これらの基本動作を確認し、激動を覚悟することが、何よりも重要な4年間が始まる。米国政治の中枢にいるアクターのアドバイスを引用するならば、「今、言えるのは『シートベルトを締めなさい!』(Fasten Your Belts!)」ということになる。

図表5 トランプ第2期政権への備え

DTFA Institute作成

図表6 1期政権からのインプリケーション

DTFA Institute作成

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

<参考レポート・サイト>

トランプ政策2.0、企業が備えるべきポイントは? | DTFA Institute | FA Portal | デロイト トーマツ グループ

インフレ削減法(IRA)成立から2年、米国経済に見る成果と課題 | DTFA Institute | FA Portal | デロイト トーマツ グループ

<参考資料・注釈>

[i]
AP News, AP Elections 2024( https://apnews.com/projects/election-results-2024/ ). Retrieved 2024.12.04.

 

[ii] 注ⅰと同じ。

 

[iv] Trump, Donald. (2024.12.01). Retrieved from https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/113573130299319701.

 

[v]  The Federal Election Commission, Individual Contributions(https://www.fec.gov/data/receipts/individual-contributions/?contributor_name=elon+musk&recipient_committee_type=O), Retrieved 2024.12.04.

 

[vi] Trump, Donald. (2024.11.13). Retrieved from https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/113472884874740859.

 

[vii] Musk, Elon. and Ramaswamy, Vivek. ”The DOGE Plan to Reform Government,” Wall Street Journal , November 20, 2024(https://www.wsj.com/opinion/musk-and-ramaswamy-the-doge-plan-to-reform-government-supreme-court-guidance-end-executive-power-grab-fa51c020?mod=opinion_trendingnow_article_pos1), Retrieved 2024.12.04.

 

[viii] マスク氏らはコスト削減の候補に国際機関や社会団体、公共放送への支出を挙げた。しかし、6.8兆ドルの連邦予算の大部分は社会福祉プログラム、債務返済(トランプ氏は、社会保障やメディケアは削減しないと発言)、国防費・関連費(共和党支持層の聖域)を占めている。目標達成にはこれらに切り込むことが必要とされ、実現を疑問視する声も目立つ。

 

[ix] Michaelson, Jay. “Trump plans to fire thousands of government workers - but it won’t be easy,” MSNBC ,November 18, 2024(https://www.msnbc.com/opinion/msnbc-opinion/trump-fire-federal-workers-project-2025-schedule-f-rcna180393), Retrieved 2024.12.04.

 

[x] 注ⅵと同じ。

 

[xi] Department of Government Efficiency. [@DOGE]. (2024.11.15). Retrieved from https://x.com/DOGE/status/1857076831104434289.

 

[xii] Trump.”Agenda47: Liberating America from Biden’s Regulatory Onslaught”(https://www.donaldjtrump.com/agenda47/agenda47-liberating-america-from-bidens-regulatory-onslaught) Retrieved 2024.12.04.

 

[xiii] Lotz, Avery. “Musk says SpaceX will sue FAA for ‘regulatory overreach’,” Axios, September 17, 2024(https://www.axios.com/2024/09/17/elon-musk-spacex-fines-faa-violations)
Shepardson, David. “US agency will not reinstate $900 mln subsidy for SpaceX Starlink unit,” Reuters, December 13, 2023(https://www.reuters.com/technology/space/us-agency-will-not-reinstate-900-mln-subsidy-spacex-starlink-unit-2023-12-13/) Both Retrieved 2024.12.04.

 

[xiv] FCC委員長にはプラットフォーマー規制派のカー委員が起用される。
Folkenflik, David.” Trump taps FCC's Brendan Carr to lead the agency,” NPC, November 17, 2024(https://www.npr.org/2024/11/17/nx-s1-5193064/fcc-chair-brendan-carr-trump)
 Retrieved 2024.12.04.

 

[xv] 下院共和党内の権力闘争が激しくなる可能性も注視が必要である。下院は、共和党220対民主党215となる見通しだが、共和党下院議員3名(ウォルツ、ゲイツ、ステファニク)が政権入りするため、補欠選挙の結果が出るまで共和党217対民主党215の構図となる。下院の過半数以上は当面217となり、意思決定をめぐる共和党内の主導権争いが予想される。

[xvi] Johnson, Mike.”Speaker Johnson Outlines Ambitious Economic Vision for America,” September 17, 2024(https://mikejohnson.house.gov/news/documentsingle.aspx?DocumentID=1447) Retrieved 2024.12.04.

 

[xvii] Conness, Jack.”IRA Investments,”(https://www.jackconness.com/ira-chips-investments) Retrieved 2024.12.04.

 

[xviii] Trump, Donald. (2024.12.01). Retrieved from https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/113460270802936865
次期政権の閣僚・高官選定では奇抜とみられる候補者が目立つが、上院、特に共和党議員が承認に反対した場合、「反トランプ派」の烙印を押され、その後の政治活動に影響が出るとの観測がある。

 

[xix] America First Policy Institute,” Negotiate Trade Deals that Protect American Workers and Consumers, and Protect Our National Security,”(https://agenda.americafirstpolicy.com/economy/negotiate-trade-deals-that-protect-american-workers) Retrieved 2024.12.04.

 

 

江田 覚 / Satoru Kohda

編集長/主席研究員

時事通信社の記者、ワシントン特派員、編集委員として金融や経済外交、デジタル領域を取材した後、2022年7月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。DTFAインスティテュート設立プロジェクトに参画。
産業構造の変化、技術政策を研究。

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平木 綾香 / Ayaka Hiraki

研究員

官公庁、外資系コンサルティングファームにて、安全保障貿易管理業務、公共・グローバル案件などに従事後、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画。
専門分野は、国際政治経済、安全保障、アメリカ政治外交。修士(政策・メディア)。


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