政府は従業員2000人以下の企業を法的に「中堅企業」と位置付け、税制優遇を含めた支援政策を講じることを検討している。2024年に産業競争力強化法などの関連法が改正されれば、大企業と中小企業の間に中堅企業という新たな枠組みが生まれる。中堅企業を、大企業・中小企業間の「成長の壁」を解消する存在にできるのか。新制度に求められるポイントを整理したい。

これまで、中小企業基本法では、製造業・建設業・運輸業などの場合、「従業員300人以下」あるいは「資本金・出資金3億円以下」の企業を中小企業と位置付け、それ以上の規模の法人を「大企業」と扱っていた。卸売業、サービス業、小売業と業種別に中小企業を定義してあるが、ここでは省略する。

新たな提案では、製造業・建設業などの場合、従業員300人以下を「中小企業」、300人超2000人以下を「中堅企業」、2000人超を「大企業」と分類する(※1)。(資本金は図表1を参照)。

図表1 新たな中小・中堅・大企業の区分イメージ

※産業構造審議会経済産業政策新機軸部会「事務局資料」(※1)、中小企業基本法、法人税法をもとにDTFAインスティテュート作成

なぜ、中堅企業の区分を設けるのか。政府の分析によると、従業員2000人以下の中堅規模の企業は▽国内投資・国内売上を拡大、▽地方に多くが立地、▽大企業を上回る従業員・給与総額の伸び率——といった特徴を持つ。また、企業は従業員2000人を超える規模になった場合、生産性が向上する傾向があるという。

一方で、後で詳述するが、中規模企業が大企業へと成長を遂げる割合が国際的に低い。それは、大規模な会社に比べて成長投資を逡巡する傾向にあるためだ。また、中規模といっても組織体制が小規模のままのため資本力、人材力、ノウハウのいずれも乏しく、MAの機会が少ない。海外展開にも意欲的でない点も成長を阻害している要因である。

規模が拡大すると、経営の高度化や商圏の拡大、事業の多角化が進み、従業員数が2000人を超えると生産性がさらに高まることも確認されている。

このため、政府は産業競争力強化法の改正などで2000人以下の企業を中堅企業に認定したうえ、賃上げや成長投資に前向きな企業を支援し、業務拡大や経営の高度化を後押しすることを検討している。

政府は112日に閣議決定した経済対策で、「地方・中堅・中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と地方の成長を実現する」ことを5つの柱の一つに掲げた(※2)。中堅企業を法的に定義し、支援を講じる案は、賃上げ、地方の成長を促す戦略の一環といえる。

諸外国を見た場合、中堅企業に焦点を当てた成長促進策は2010年代に韓国と台湾が取り組み、一定の成果を上げてきた。韓国では2010年以降、中小企業を中堅企業に成長させる政策を拡充し、研究開発支援に取り組んできた。2023年の政策では半導体やディスプレイ、二次電池など10の分野を国際的な競争優位を拡張すべき対象に定め、さらにAIロボットなど5つの分野で競争優位を創出する目標を設定した。

台湾では2011年以降、3年ごとに有望な中小企業を選抜し、中堅企業に成長させる政策措置を実施している。優れた中堅企業を表彰し、研究開発や人材育成補助金を優先的に支給する措置も取り入れている(※1)(※3)。

いずれも中堅企業のすべてを幅広く支援するのではなく、先進的な取り組みの企業を選び、成長促進に向けた支援策を講じていることが特徴である。

今回、政府が検討する産業競争力強化法などの改正も「従業員2000人以下」を軸に、①良質な雇用の創出、②将来の成長性、③経営力——などから税制優遇、補助金支給の対象を選んでいくことになりそうだ。従来の産業競争力強化法の措置と同様に支援対象企業は事業計画や経営体制の確認を求められる可能性が高く、制度に関心を持つ企業は早めに情報収集し、前倒しで検討していくことが重要である。

本稿では企業の成長サイクルという視点から制度設計上の注目点を整理したい。ポイントは、

(1)大企業への成長促進

(2)中堅企業を中核としたグループ化

(3)中小企業の成長の壁の解消

――の3点になる。

(1)大企業への成長促進


第一のポイントは、中堅企業の事業を伸ばし、高度な開発力や海外展開力を持つ大企業へと成長を後押しできるかどうかである。

政府の試算によると、2011年から2021年にかけての10年間で、中堅企業(従業員301人~2000人)から大企業(従業員2000人超)に成長した日本企業の割合は11%と、米国の30%、欧州(英国、フランス、ドイツ)の22%よりも低水準にとどまっていた(※1)。中堅企業から大企業への成長を促す余地は十分にあると見られる。中堅企業の成長における主要な課題は、M&Aや国際展開による業容の拡大、需要の取り込みにつながる設備投資などとされ、補助金や税制による支援によって、より生産性が高い大企業への成長を促せるかどうかが注目される。(図表2参照)

図表2 10年間で従業員規模が中堅企業から大企業へと成長した企業の割合(%)

※データソース 産業構造審議会経済産業政策新機軸部会「事務局資料」(※1
URL:  https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/017_04_00.pdf

(2)中堅企業を中核としたグループ化


第二のポイントは、中堅企業を中核にして地域経済・産業の成長をけん引するような企業グループを形成できるかである。支援策を追い風として、中堅企業による中小企業のM&Aの活性化につなげることが課題になる。

政府は2019年、2025年までに約60万の中小事業者が後継者不足で黒字廃業になるとの試算をまとめた(※4)。中堅企業が、事業承継が困難な中小企業を買収し、技術や販路、人材を獲得し、事業拡大につなげることは地域産業の維持・活性化にとって有効な対策になる。M&Aに関連した設備投資や準備金の積み立てを税制優遇し、グループ化を促進する措置などが一案になるだろう。

中堅企業は地域産業の中心的な存在であることも多いことから、地域金融機関や地域ファンド、自治体など支援機関との関係を構築・維持するような取り組みも求められる。

(3)中小企業の成長の壁の解消


第三のポイントは、中小企業をいかに中堅企業へと成長させるかである。制度は事業規模拡大の動機付けになるものが期待される。

中小企業は、政府系金融機関による低利融資や設備投資、業務効率化に対する補助金といった手厚い支援策を受けやすい立場にある。このため、中小企業の中には、支援策を目当てにして、必ずしも積極的に事業を拡大しない動きがあり、一種の「中小企業の成長の壁」が生まれている。

政府が検討中の中堅企業支援策は、「中小企業の成長の壁」を解消するような役割が期待される。もちろん、支援策は原則的に、成長の意志を持つ企業を優先的に取り扱うことになるが、大企業と中小企業の間に中堅という枠組みを設けることで、負担感の差を小さくするような工夫も求められるだろう。

その際には、スタートアップを含めた中小企業への支援と中堅企業支援策が、スムーズにつながるような制度設計が求められる。特に、スタートアップ企業については、政府は2022年に「スタートアップ育成5か年計画」をまとめ、将来的に企業価値10億ドル以上のユニコーン企業を100社に増やすといった方針を定めた(※5)。先進的な中堅企業に対する開発、設備投資支援はスタートアップ育成5か年計画に盛り込まれた支援策などとも連携させていくことが望ましい。

金融・自治体の支援拡充の呼び水になるか


最後に、中堅企業支援政策の注意点に言及しておきたい。大企業の一部では、資本金を1億円以下に減資することで、税制上の中小企業に転換し、地方税負担の削減を試みる動きが出ている。いわば、制度の抜け穴を突いた取り組みだ。このように企業の規模や区分によって、過度に不公平な選択が生じることは抑えなければならない。

また、新制度では、相当数の大企業が中堅企業に再分類されることになるが、その結果、大企業やグローバル企業に対する政策が手薄になる事態も避けるべきだろう。政府は限られた財源、リソースの中、予見可能性と合理性を持って優先支援対象を選ぶことが求められる。中堅企業が大前提である「賃上げ、成長志向」という支援条件を満たしているかという判定が重要になっていく。

一方、政府が中堅企業という法的枠組みを設けることで、中堅企業に対応した金融、M&Aサービス、自治体の政策などは拡大する可能性がある。「中堅」の新枠組みに該当する企業や周縁産業、取引先などは、政府の政策だけではなく、今後広がり得る関連団体、自治体の支援パッケージにも目配りすることが大切だろう。

大企業と中小・スタートアップ企業の間に置かれる中堅企業という枠組みが今後、経済活性化のキーパーツとなるのか、まずは関連する予算、2024年度税制改正が焦点になりそうだ。新制度の詳細や中堅企業をめぐるイノベーション、政策支援の在り方については、引き続き取り上げていきたい。

<参考文献・資料>

(※1) 産業構造審議会経済産業政策新機軸部会、事務局資料」2023117日。

(※2) 内閣府、「デフレ完全脱却のための総合経済対策」202311月2日閣議決定。

(※3) 姜喆九、「中堅企業の成長と戦略に関する日韓比較研究」2016年。

(※4) 中小企業庁、「第三者承継支援総合パッケージ」20191220日。

(※5) 内閣官房、「スタートアップ育成5か年計画」

江田 覚 / Satoru Kohda

編集長/主席研究員

前職の時事通信社では経済部記者、ワシントン支局特派員として金融、M&A、経済外交を取材。編集委員、経済産業省キャップ、金融庁キャップとしてデジタル領域や産業構造の変革について執筆した。2022年7月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュート設立プロジェクトに参画。

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