もし「自公維」政権が誕生したら――経済政策と企業活動に与える影響を展望する
裏金事件に端を発した政権・与党への逆風は吹き止む様子が見られない。年内にも想定される衆院の解散・総選挙の焦点は自民、公明両党で過半数を確保できるかにある。過半数を獲得できなかった場合、政権与党を維持するために自民が日本維新の会を連立のパートナーとして組み入れると見る向きも少なくない。そこで本稿では、維新の政策を概括したうえで、仮に政権入りした際に政府の経済政策ひいては企業活動にどのような変化をもたらし得るのか考えたい。
目次
日本維新の会は、大阪府議会の自民党府議6人と橋下徹・元府知事が2010年に結成した地域政党「大阪維新の会」を源流とする。2012年に国政に進出した後、2度の党分裂を経験するなど第3極として浮沈を繰り返しながらも、直近の2021年衆院選では公示前の11議席を大きく上回る41議席を獲得し、野党第2党に躍り出た。2022年には党勢拡大の方針を示した「中期経営計画(中計)」を策定し、同年の参院選、翌2023年の統一地方選いずれにおいても中計で掲げた目標議席数を達成。大阪のローカル政党から全国区の政党へと変わりつつある。そして次期衆院選で自民、公明両党が過半数割れした場合、維新の政策が実現するなら、与党に加わる選択肢を排除しないとの姿勢を示している。
維新の政策のバックボーンは「新自由主義」である。行政による国民生活や経済活動への関与は必要最小限とし、市場原理に基づいた自由競争を重視する経済思想であり、維新が考える政府の役割とは、大幅な規制緩和を通じて企業の自由な経済活動や新しい産業分野への挑戦を後押しする環境を整備することだ。「身を切る改革」として行政機構や国会議員の規模縮小を看板政策として掲げているのも、こうした思想の延長線上にある。党の綱領では、この4半世紀に主要先進国が名目GDP(国内総生産)を2倍以上に増やした一方で、日本の成長率が14%にとどまったのは、霞ヶ関を司令塔とする全国一律の規制行政が「民間企業や地方自治体等の自由な挑戦を阻害し、労働生産性の向上や新産業の興隆を生みにくくした」ためだと主張している。
そのため、現在の自公政権と維新とでは、経済政策の方向性に大きな隔たりがある。一例として国策としての産業政策が挙げられる。政府は昨今、次々と大型基金を創設し、半導体やGX(グリーン・トランスフォーメーション)、宇宙などの領域への公的資金投入を推進している。これに対して維新は、政府が成長産業の「目利き」はできないという立場をとる。維新幹部の一人は「『この産業が大きくなる』と選んで予算をつけることは政府の仕事ではない。政府ファンドはこれまでも大体失敗してきた」と語る。経済成長のドライバーを見定められないのならば、政府は介入を最低限にすべきだとのスタンスである。
不透明な税制優遇は廃止を主張
このような「小さな政府」を志向する維新が掲げる経済財政政策とはどのようなものか。2021年10月の前回衆院選で掲げられた経済政策集「日本大改革プラン」※1を基に、維新執行部らへのヒアリングや同年以降の政策提言など、直近の動向も加味して概観したい。
改革プランでは、「経済成長」と「格差解消」を実現することが、維新が目指す社会像だと定義した。実現に向けた3つの柱として、①税制改革、②社会保障改革、③成長戦略が示されている。各テーマの具体的な政策は下記の図1の通りである。税制と社会保障の一体的な改革によって直接的な所得増が、規制改革などによる生産性向上から間接的な所得増が、それぞれ見込まれると主張している(図2)。
図1 経済成長の実現に向けた3つの柱
出所:日本維新の会「日本大改革プラン」
図2 維新が掲げる三位一体改革と政策ロジック
出所:DTFA Institute作成
第1の柱である税制改革におけるコンセプトは、「フロー(収入・支出)からストック(資産・財産)へ」といえるだろう。所得税や法人税などフローにかかる課税率を最小限に抑えることが経済活動の活性化に資するとして、税体系一体での改革を前面に出している。
企業活動の関連では、現在は原則23%である法人税率の引き下げを掲げる。改革プランに具体的な数字は示されていないが、党関係者によると、世界的に低水準なシンガポールと同じ17%程度まで引き下げることを念頭に置いているという。一律での法人税減税とは別に、政府が創設する特区に進出する企業への税率をピンポイントで下げる手法も提案している。実際に大阪維新の会が首長を務める大阪府・市では、2024年6月に政府から指定された「金融・資産運用特区」において、海外の金融関連企業に限られるものの新規参入の企業に対し、法人住民税と法人事業税を最大で全額控除する独自の取り組みを実施している。
また、特定の企業などを優遇する租税特別措置(租特)については廃止を訴えている。租特は内容が複雑なうえに長年の慣行として続いてきた結果、特定の団体に利益をもたらすことが多く、全体としての公平性や透明性を損なっていると主張。特に、租特に事実上の政策決定権を持つ自民党税制調査会が意思決定をブラックボックスにしているとして、「利益誘導型の政治の温床となっている」と問題視している。例外があるところに政治権力が生まれ、結果的に行政や政治の肥大化につながるという価値観であり、税制の制度設計においても小さな政府志向が取り入れられている。
第2の柱の社会保障改革では、ベーシックインカム(BI)の導入を最重要項目として掲げている。BIは政府が全ての国民に対して、最低限度の生活を送るために必要とされる一定額の現金を支給する所得保障政策だ。そのうえで生活保護、基礎年金、児童手当など制度が複雑に分かれた社会保障をBIに一本化して行政のムダを省き、簡素で効率的な仕組みに変えることを提案している。BI導入を掲げる理由として、「自立する個人」による果敢なチャレンジを推奨する社会へと変革するためには、ユニバーサル(普遍的)な最低生活保障としてのセーフティーネットが必要、という考えが根底にある。
前回2021年の衆院選でベーシックインカムの実現を公約の目玉に据えて戦った一方、次期衆院選では「段階的に導入」と表現を抑える方向で調整が進んでいる※2。BI導入にあたっては、1人あたり月6万~10万円の給付を行う場合、年間100兆円が必要となると試算されており、その実現可能性をめぐって懐疑的な見方も少なくなかった。段階的な導入策を示す方向で調整されている背景には、実現可能な政策とすることで将来的な政権担当能力があると示す狙いがありそうだ。
第3の柱の成長戦略では、流動性と生産性の高い経済を実現するため労働市場や規制の改革などを盛り込んでいる。労働市場改革に関しては、BIなどによるセーフティーネットを整備したうえで、雇用の流動化を促進することに重きを置く。具体的には、解雇ルールを明確化し、解雇紛争の金銭解決を可能にするといった雇用関係終了に関する規制を緩和することや、年功序列型の職能給(メンバーシップ型雇用)から同一労働同一賃金を前提とする職務給(ジョブ型雇用)への転換を促進することを目指している。規制改革に関しては、医療制度や法人による農業への新規参入、ライドシェアの全面解禁などに近年注力している。
これら3つの柱に底流している思想は、合理性や効率性を最優先して現行の社会システム、彼らの言葉を借りれば「既得権益や旧体制の利権構造」自体を大きく改革するということだ。維新は地方政党をルーツとすることもあり、日本では珍しく支持母体を抱えていない国政政党である。そのため、特定の組織や団体に支持されるか否かが政策立案に与える影響は他党よりも小さく、現役世代に資する形での経済合理性を追求できる。この点は都市部の中間層との親和性が高いといわれるゆえんでもある。維新に入党して最初の政策勉強会で叩き込まれるのは、「我々はイデオロギー政党ではない。プラグマティスト(実用主義者)の集まりである」ことだという。この方針は、維新の経済財政政策を理解するうえで有効だろう。
注目は解雇規制の緩和
次期衆院選で与党が過半数割れとなり維新が連立政権に加わった場合、維新は企業活動に関わる政策のうち、どのようなものを国の経済政策として実現しようとするのか。ある維新幹部は「解雇規制の緩和、(労働契約解消金の支払いなどによる)金銭解雇の導入は全ての企業経営に関わるセンターピンだ。各論の経済政策で維新の主張を訴えていくよりも、実現したときの社会的インパクトの大きい『大玉』で政府と交渉する可能性はある」との見立てを示す。
解雇規制の緩和は、結党以来掲げてきた重要な施策だ。維新は、流動性と生産性の高い経済社会を実現するうえで、終身雇用などの日本的雇用慣行は大きな障壁になっているという認識を持っている。日本では過去の判例などもあり、会社側が正社員を解雇することは厳しく制限されているうえ、企業は訴訟リスクや社会的評判を気にして解雇に二の足を踏んできた。その結果、長期雇用が守られ、成熟産業から成長産業への柔軟な労働移動が広がらなかった。ならば解雇規制を緩和したらよい、というのが維新の政策ロジックとなる。また、スタートアップ企業にとっても金銭解雇のルールがあった方が成長に不可欠な流動性やダイナミズムを確保できるとして、次世代のための優先順位が高い施策に位置付けている。
このアプローチは、第2次安倍政権(2012~2019年)下においても労働市場の流動性を高めるための一手として注目された。その後、厚生労働省の審議会で解雇の金銭解決について法制化の検討が進められてきたが、議論は停滞している。2023年の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)においても労働市場改革の推進が明記されているが、解雇規制の緩和には触れていない。一方で、自民党の支持母体である経済団体連合会(経団連)は前向きだ。2024年1月に公表した「経営労働政策特別委員会報告」で、労働移動の推進に向けて「労働者保護の観点から、(解雇無効時の金銭救済)制度の創設の検討を急ぐべきである」としている。そのため維新としては自民と一致点を見いだしやすく、政権入りしたことの「成果」として経済界にアピールできるという思惑も見え隠れする。
また、社会の関心が高く課題解決が求められる時々の政策テーマで、与党が支持母体との関係などで「調整型の大人の政治」に終始して小手先の対応に陥る場合、第3極として「グローバルスタンダードな経済学の常識や経済合理的な視点」から政策を立案し、実現に向けて政治交渉することもあり得るだろう。前出の党幹部は、直近であればライドシェアの全面解禁を挙げる。全面解禁をめぐる議論では、政府内に新法制定や法改正の検討に前向きな閣僚もいたが、最終的には期限を設けず検討するとして結論を先送りした。維新は全面解禁の立場から政府内の議論をもっと活性化できたとの見解を示す。
仮に連立入りした際、維新が結党以来掲げてきた重点政策の実現を目指すのか、それとも社会の耳目を集めやすいテーマで自党の主張を実現させていくのか。その戦略は、次の衆院選で自民・公明両党が法案の可決に必要な過半数を満たすため、維新の議席のうち何議席が必要になってくるのかに左右される。
衆議院の現有勢力は、全465議席に対して自民党会派が258議席、公明党が32議席、維新会派が45議席となっている※3。自公は57議席まで減らしても過半数を維持できるが、それを上回る議席減となれば第3党との連立が視野に入ってくる。仮に自公で110議席近くを失って過半数に50議席足りず、維新会派がその不足分を充足できた場合、自公にとって維新は必要不可欠な「友党」であり、政策面において維新の主張を受け入れる余地は広がるだろう。一方、自公で過半数に届かなかった議席数がわずかとなった場合では、維新が仮に政権入りしても政府の政策に自党の訴えを反映させることは難しいと考えられる。
維新代表は連立入りを否定せず
ここまで維新の政権入りを仮定して論考してきたが、最後にその実現性を考察したい。
維新の馬場伸幸代表は5月に出演したポッドキャスト番組で、次期衆院選で自民、公明両党が過半数割れし、維新の政策が実現するなら与党入りする選択肢を排除しないかと問われ、「そういうことだ」と肯定した。そのうえで、「我々が掲げてきた政策が実現するかどうかをベースに、(与党との)組み合わせについても考えていきたい」とも述べた。
この発言が政界で注目を集めた背景には、質問の仮定条件である「次の衆院選で自民、公明両党の議席数が政権維持のために必要な過半数を下回る」ことが、実際に起きても不思議ではないと受け止められていることがある。内閣支持率が「危険水域」とみなされる30%を割り込んだのは2023年11月だ(図3)。翌12月には自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件が発覚し、多くの調査で自民党が政権復帰した2012年の第2次安倍政権発足以降で最低を更新。その後も支持率は横ばいを続け、2024年5月時点では各社とも20%台にとどまる一方、不支持率は多くが60%を超える状況となっている。
図3 岸田内閣発足以降の支持率の推移
データーソース:NHK
政治とカネの問題に国民が依然厳しい視線を向けていることは、直近の選挙結果からもうかがえる。4月に行われた衆院3選挙区(東京15区、島根1区、長崎3区)の補欠選挙では、いずれも野党第一党の立憲民主党の候補者が勝利し、自民党は候補者擁立を見送った選挙区を含めて議席を失った。事実上の与野党対決の構図となった5月の静岡県知事選でも、立憲民主党と国民民主党が推薦した候補者が自民党の候補者を破る結果となった。こうしたデータや選挙結果が積み重なり、次期衆院選で与党が政権を維持するために必要な過半数の議席を確保できないのでは、という見方が強まっている。
秋の自民党総裁選に向けて、石破茂元幹事長が立候補の意向を固めたことを報道各社が6月末に一斉に報じた。石破氏は世論調査で「首相候補」として常に首位で名前が挙がり、出馬すれば有力候補となる公算は大きい。自身と同じく非主流派の菅義偉前首相に、総裁選での支援を要請すると見られている。菅氏は安倍政権下での官房長官時代から、維新とは良好な関係を長年築いてきた。菅氏に近い人物が自民党の総裁に選ばれた場合、与党の議席数によっては維新と連立を組む可能性は高まる。企業を含め経済界はこのようなシナリオも頭に入れながら、次期衆院選の動向を注意深くウォッチする必要があるだろう。
<参照レポート>
岸田政権を待ち受ける2024年の政界シナリオ予測―――企業が押さえるべきリスクとは | DTFA Institute | デロイト トーマツ グループ (deloitte.jp)
<参考文献・資料>
※1 日本維新の会「日本大改革プラン」(2021年9月23日更新版)