政府が重要政策に掲げたグリーントランスフォーメーション(GX)を進めるには、企業連携が必要になる。連携時に留意を求められるのが、独占禁止法抵触への対応だ。政府内外には“脱炭素社会”を実現するため、GXに関わる企業の取り組みについては独禁法の適用対象から除外すべきだとの声がある。ただし、適用除外を導入する場合、米国の競争政策との差異や制度の複雑化などがハードルとなるだろう。主な課題を全2回のレポートで整理する。

GX推進には、温室効果ガス排出量削減につながる新規設備の導入に加え、排出量の多いレガシー設備(石油化学コンビナート、高炉など)の廃棄や素材・原燃料の共同調達が重要になる。いずれも巨額の資金が必要であり、複数の事業者が関わるため、企業同士が連携を取ることが現実的になる。一方、競合企業間の情報共有は、競争手段の制限や新規参入の制限といった競争制限効果をもたらす恐れがあり、企業の連携時には独占禁止法に抵触しないよう留意が求められる。

政府は6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(成長戦略)で、GX実行には複数企業の連携が重要であることを指摘したうえ、「国際的な競争状況も踏まえ、設備の共同廃棄、原燃料等の共同調達やデータ共有等における独占禁止法に関する課題」について対応を検討すると記載した(※1)。

政府や製造業の一部には、グリーン技術・事業を進展させるために、GX推進を意図したM&Aや共同設備投資・廃棄などについては「独占禁止法上の一括適用を除外するような踏み込んだ制度創設も検討すべきだ」といった声がある(※2)。適用除外の導入は独禁法上の課題に対応する一案となり得るため、政府内では検討が進むと見られる。

独禁法の適用除外は、産業の育成・強化や国際競争力強化、合理化などを促すことを目的として、各産業分野で独禁法、個別法などに基づき設定されてきた。直近では、2020年に、地域経済の活性化を目的とした地方銀行、乗合バスの経営統合・共同経営を独禁法の適用除外とする時限特例法が施行された(※3)。GXの取り組みを独禁法の適用除外とする場合、GXにつながるM&Aやレガシー設備の共同廃棄などが独禁法の対象外となる可能性が高い。

ただし、GXに関する独禁法の適用除外の導入は、複数の課題が想定されるため、検討は慎重に進めるべきだろう。主だった課題は次の三つに整理できる。

① 米国の競争政策との違い
② 制度の複雑化
③ グリーンウォッシュを誘発する懸念

前編となる本稿では、まず①と②について詳述したい。

米国の競争政策との違い

排出量削減につながる技術や事業の促進は、先進国を中心に優先すべき戦略となり始めた。

脱炭素ルール形成を推し進める欧州では、環境に関連した企業活動への競争法適用を緩和する動きが表れている。オランダの競争当局は「将来の消費者利益」を考慮して、環境貢献度が高い企業連携を競争法の適用除外とする指針案を策定し、欧州委員会はサステナビリティにつながる連携について適用除外を検討する改定案をまとめた(※4)。

日本がGXを独禁法の適用除外する場合、欧州の適用除外の在り方は参考になると見られる。

一方、米国はこうしたGXに関する競争法の適用除外やその他の制度を設ける兆しはない。このため、各国間の制度の差異が、日本のGX独禁法の適用除外を運用するうえでは大きなハードルとなる可能性がある。(表)

GXに関連した技術、事業は国際的な競争が激化している分野であり、各国の政府、競争当局が関心を寄せている。もしも、日本が一律にグリーン燃料・素材の共同調達やレガシー設備の廃棄などの企業連携を独禁法の適用除外とした場合、国ごとの制度の違いが影響を及ぼすだろう。グローバル展開する日本企業の共同調達や情報共有が、日本の独禁法では容認されたとしても、米国や他の競争当局に違法と判断されるリスクが生じる。

国際展開する日本企業は、適用除外といった対応を取っていない国(例えば米国)を基準にして、カルテルとして摘発されるリスクを避けることを求められるだろう。最悪の場合、日本で独禁法の適用除外制度が導入されても、十分に効果を発揮しない恐れがある。

制度の複雑化

第二の課題として、制度が複雑になり、企業活動や経営判断にとって重荷となる可能性がある。

仮に政府がGXに関する独占禁止法の適用除外を導入した場合、通常の独禁法判断プロセスと適用除外制度という二つの制度が並立することになる。該当企業は経営統合や同業間の共同調達などに取り組む際、「どちらの制度に基づいて対応すべきか」という経営判断を求められる

産業団体の関係者によると「GXは大規模なM&Aや共同調達、共同設備廃棄が必要になるため、適用除外を求める企業がある一方、二つの制度が並び立てば、公取委との調整や協議、決断が重い負担になると見て、適用除外の導入を望まない企業もある」という。制度が複雑になった場合、GXを推進するうえでは逆効果となりかねない。

GXに関する独禁法の適用除外を導入する場合、政府は通常制度との違いを分かりやすく産業界に伝えるとともに、現状の企業に対する相談体制を一層拡充することが不可欠になるだろう。

後編となる次回のレポートでは、第三の課題であるグリーンウォッシュ誘発の懸念について詳述する。そのうえで、GXに関する独禁法の適用除外制度を整備する場合、どのような点に配慮すべきかを整理したい。

     

<参考文献・資料>

(※1) 内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版2023616日閣議決定。
(※2) 公正取引委員会「『グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方』(案)に対する意見の概要及びそれに対する考え方2023331日。
(※3) 内閣官房「乗合バス及び地域銀行に関する独占禁止法の特例法案について202033日。
(※4) European Commission, “Commission outlines contribution of competition policy and its review to green and digital transition, and to a resilient Single Market”, Ec.europa.eu,  Nov 18, 2021.

江田 覚 / Satoru Kohda

主任研究員

前職の時事通信社では経済部記者、ワシントン支局特派員として金融、M&A、経済外交を取材。編集委員、経済産業省キャップ、金融庁キャップとしてデジタル領域や産業構造の変革について執筆した。2022年7月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュート設立プロジェクトに参画。

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