日本新創造の決め手の一つとして「大企業発スタートアップ」を推したい。若手エースにチャンスを与え、社長を任せれば、会社が変わり、日本が変わる。そこが、イノベーション創出とジャパニーズ・ドリーム実現の大舞台となる。

日本新創造の課題は、イノベーション(新価値創造)を生み出す仕組みをいかに速く広く社会実装するか、に尽きる。スタートアップ支援はそのための方法論であり、対象は次の3つに集約できる。

  • 独立系スタートアップ
  • 大企業発スタートアップ
  • 中小企業の事業承継型スタートアップ

これらのうち「大企業発スタートアップ」の促進・支援が日本復活のための最重点テーマとなる、というのが私の持論である。

世界の主戦場は「スタートアップ」にシフト

まずは、大前提として、過去5年で世界の経済競争の主戦場が「スタートアップ」にシフトしたということを押さえておかなければならない。

世界、特に米国の企業を企業価値でランキングすると、上位の多くをスタートアップ企業が占める。GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック=現メタ、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)は、スタートアップが世界市場を創造し、席捲した代表例だ。

GAFAMを除けば、日本と米国の主要企業の株価の伸びはさほど変わらないという分析もある。つまり、GAFAMのようなスタートアップを生み出せるか否かが、国全体の成長力や創出価値を大きく左右するのである。スタートアップ戦を制する者がグローバル競争を制するという現実に気づいた国々では、大統領や首相が先頭に立って旗を振り、国家戦略としてスタートアップへの支援策を講じている。

日本はどうか――。企業価値ランキングの顔ぶれは30年前から大きく変わったが、老舗の大企業の存在感は依然として大きい。スタートアップが経済や雇用を主導しているという実感は残念ながらまだ薄いと言わざるを得ない。

新型コロナウイルス禍は彼我の差をさらに浮き立たせた。国家の成長ドライバーであるスタートアップを弱体化させてはならぬと、韓国、フランス、ドイツなどはいち早く支援策を打ち出した。一方、日本ではそうした動きや声がなかなか出てこなかった。

私自身も危機感を覚えていたところ、日本経済団体連合会の南場智子副会長をリーダーとするタスクフォースが立ち上がったのは良い兆しだと思う。私も参画させていただき、『スタートアップ躍進ビジョン~10X10Xを目指して~』(20223月)をまとめ、政府への緊急提言が行われた。その甲斐あって、スタートアップ担当大臣ポストの新設、スタートアップ創出元年の宣言、行動計画の策定に至る。遅ればせながらではあるが、日本も確実に前進はしている。

大企業をジャパニーズ・ドリーム実現の場に

この流れを、より太く、確実なものにするための強化策として、私は「大企業発スタートアップ」の全力支援を推したい。

スタートアップと言うと個人がゼロから起業する「独立系」が想起されることが多いし、政策支援もこの領域に集中している。私もこの分野に過去20年近く、力を注いできた。

そして、ここに来て、従来の「新規事業開発」の枠組みを超えた大企業発スタートアップの挑戦が増えつつあるのだ。その潜在力は大きい。なにしろ、大企業が持つ潤沢なリソース(ヒト・モノ・カネ・情報)を活用できるので、独立系よりもリスクが低く、一気に大きなビジネスへと展開することもできる。

独立系スタートアップの界隈で働く人はざっくり10万人単位であるのに対し、日本の大企業で働く人は1000万人以上と約100倍。その1%が企業内スタートアップを立ち上げれば、日本のスタートアップ人口は一気に倍増する。政策支援のレバレッジも効きそうだ。

ポイントは、その担い手に30歳代から40歳代前半の若手エース級人材を充てることである。この世代はデジタルに強い。ある程度の実績を積んで社内外からの信頼もある。アイデアとやる気がある人が手を挙げ、社内スタートアップを立ち上げる。軌道に乗れば別会社化して社長に就き、個人としても一定割合の株式を保有させてもらいオーナーシップを持つ。普通のビジネスパーソンにはないインセンティブを得て、成長ドライブに拍車をかける。株式上場は飛躍へのマイルストーンに過ぎないが、母体企業としては事業領域を拡大でき、社員個人としても大きな成功報酬と貴重な経営経験を得ることができる。そのままスピンアウトしても良し。あるいは、本社に戻って経営の一端を担い、ひいては社長になってもっと大きな変革と創造にチャレンジしても良い――。

これが、私が描いている大企業若手エースにスタートアップ社長を任せることを起点とした日本新創造シナリオである。これは「ジャパニーズ・ドリーム」の新たな道筋を拓くものであると思っている。

私自身、「大企業30代社長」を2025年までに300人つくることを目標に掲げてきたが、過去数年に勢いがつき、私が知っているだけでも100人くらいの新社長が生まれている。新会社を作る時のストックオプションの持たせ方とか、意思決定フローの作り方とか、そうしたノウハウも蓄積されつつある。

あと数年もすればそうしたスタートアップの株式上場が話題になるだろう。そうなれば、大企業の若手が大きな夢を持てるようになる。そうした環境を提供する会社には優秀な人材が次々に集まり、イノベーションを起こし、トランスフォーメーションを加速させていくだろう。「選ばれる企業」の新たな条件になるのではないだろうか。

ハイリスク・ハイリターンの裸一貫起業の一択ではなく、ミドルリスク・ミドルリターンの大企業発スタートアップも選択肢に加えていく。これこそが即効性のある日本的イノベーションの起こし方だと思う。促進・支援するための戦略と政策が、今、求められている。

大企業に根差しつつ幾多の成功と失敗を経験したツワモノ若手社長が、この日本に500人、1000人、1万人と増えていく近未来を想像してみてほしい。日本は間違いなく変わると思う。

若手社員にチャンスを!大企業現役社長の皆様のご英断を仰ぎたい。

(構成=細田孝宏・DTFAインスティテュート客員研究員)

トーマツ ベンチャーサポート株式会社(現デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社)代表取締役社長

斎藤 祐馬 / Yuma Saito

2010年よりトーマツ ベンチャーサポート株式会社(現 デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社)の事業立ち上げに参画。
2019年デロイト トーマツ ベンチャーサポート 代表取締役社長。公認会計士。

世界中の大企業の新規事業創出支援、ベンチャー政策の立案まで手掛けている。起業家が大企業100人にプレゼンを行う早朝イベントMorning Pitch発起人。主な著書は『一生を賭ける仕事の見つけ方』(ダイヤモンド社)。新聞・雑誌・テレビ・オンラインメディア等、メディア掲載多数。「2017年 日経ビジネス 次代を創る100人」に選出。