地元で愛されるオザキフラワーパークが、より若い世代や広いエリアにも新しい価値の提供に成功したリブランディング事例を紹介します。お客様が “ガーデニング・ライフスタイル”を体感し、創造的な交流ができる“Third Place”の社会実装を、株式会社シー・アイ・エー(現 DTFA ブランディングアドバイザリー/ CIA部門)がサポートしました。

時代で移り変わる“花と緑”

かつて“花と緑”といえば、多くの人は、職業としての農業か、嗜好としての園芸を挙げていました。本稿で登場する株式会社オザキフラワーパークが創業した1961年には東京都で約50,000戸もの農家が生計を立てており、1967年にはNHK「趣味の園芸」の放送が始まり、奇しくも高度経済成長が幕を閉じた1973年に雑誌媒体のNHKテレビテキスト『趣味の園芸』が創刊されています。“花と緑”は農家と愛好者を除けば、身近な存在ではあったものの、現在のように誰でも日常的に購入するほど“当たり前”の存在だったわけではなかったようです。

しかし、時代は高度経済成長後の都市型ライフスタイルの登場や人口の都市一極集中化と歩を揃え、今日にいたるまで変わり続けています。東京都に約50,000戸あった農家は、今では10,000戸を割り込み、農業は田園地帯で行われるどこか遠くの出来事に——人々の“花と緑”への関わり方は、生活の糧から、生活を彩る嗜好やライフスタイルの一部へと徐々に変わっていきます。(農家戸数の出所:東京都産業労働局農林水産部「令和3年度版 東京都の農林水産統計データ」)

暮らしの中に“花と緑”を——“ガーデニング・ライフスタイル”の提案

オザキフラワーパークの創業は1961年に遡ります。創業者である先代は自身も畑を持ち、園芸店を営みます。顧客のニーズに応えていくうちに、日用品雑貨コーナー、喫茶コーナー、ペットコーナーなど様々なコンテンツが増えていきました。このため、2代目が継承する時期には、主力の園芸コンテンツに対する独自価値の再検証と、売場計画の改善強化などの総合的なブランディングを実施する必要がありました。

2代目は先代の想いを受け継ぎ、多店舗展開よりも、地域のためになる店舗の充実を志向します。都市化の進展など時代の変化を敏感に取り組むことで、より若い世代や広範なエリアにも魅力を伝える構想を練り上げます。しかし、そこには、せっかく地元に根付いたブランドを如何にして再構築するべきか、さらには、新しいブランドを用いて潜在顧客をどのように発掘するかという、長年培ってきた地域の信頼を失いないかねないリスクと表裏一体のブランド戦略のポジショニング変更が必要でした。

ラグランジュポイント

われわれ※がサポートしたケースでは、創業者からの事業承継という節目のタイミングで、東京で花や緑を求めているNO.1のデスティネーションを確立するためのトータルブランディングを行いました。

 “地域”という言葉が持つ意味をより広いエリアと年代に拡大して捉え直し、園芸を核に園芸と関連性や親和性の高い日用品やテナント構成を再編し、“花と緑”を取り込むことで暮らしが豊かになる提案を行うライフスタイルセンターの実現を目指しました。

われわれはリブランディングチームの方々と一緒に経営課題を整理し、“東京で花や緑を求めているNO.1のデスティネーション”となるブランド戦略の仮説を何度も作り直し、顧客が実感/体感できるように工夫を凝らしました。

単に植物を買える“売り場”では不十分。植物の良さを体感し、生活が豊かになるワクワク感や新しい発見が期待できる本物の園芸ブランドになるためには、どんなブランドコンセプトや店舗を実現するべきなのか。

Natural(植物の良さを体感できる)”、“Fun(生活を豊かにする商品と売場)”、“Authentic(本物の園芸ブランド)”の3つの提供価値を店舗の内装/外装はもとより、ビジュアルアイデンティティ、ユニフォーム、ノベルティグッズ、動線設計など、あらゆるタッチポイントに顧客目線/現場目線で導入していきました。

“花と緑”を取り込みながら豊かな暮らしを提案するライフスタイルセンターと認知してもらうには、東京で花や緑を求めているNO.1のデスティネーションを本気で目指すには何を足し、そぎ落とすべきなのか。

様々な視点から検討し、すべての要素を取り込む方法を考えていった結果、初代が追い続けた地域のためになる空間が、二代目の手で出来上がりました。

多忙な現代人にとって、とびきりのライフスタイルを提案してくれる空間は心まで潤してくれる大事な存在であり、Cozyな居場所となります。かつて、世界最大のコーヒーチェーンは自らを“Third Place”と呼び、“地域に愛される第三の居場所”という認知を確立したことで大きく世界に羽ばたきました。同じ時期、社会学者のRay Oldenburgは、“Third Place”を“コミュニティライフのアンカーともなるべきところで、より創造的な交流が生まれる場所”と定義しました。

今回の取り組みを通じて、オザキフラワーパークは“花と緑”の“ガーデニング・ライフスタイル”を体感し、創造的な交流ができる“Third Place”を社会実装したのではないでしょうか。
我々が掲げる社会実装における要諦の一つは、頭で想定するだけではなく、現実と擦り合わせながら様々なプレーヤーの知恵を集結し、解決へ向けて手を携えて進んでいくことです。これからも、クリエイティビティとアクチュアリティの架け橋となって、足し算ではなく掛け算や乗数効果のある社会実装にチャレンジしてまいります。