多様化する「知的財産価値評価」の目的と利用方法

特許や商標権、ブランドなど企業活動における無形資産の重要性は、日に日に増すばかりです。そして同時に、それらの「知的財産の価値をいかにして評価するのか」という点にも注目が集まっています。

本記事では、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて知財アドバイザリー業務に従事する森山三紗が、知的財産価値評価の考え方や手法・プロセス、評価における各要素について解説します。

知的財産評価の目的

かつては知的財産評価といえば、M&Aによって他社技術を獲得した場合などのオンバランス目的(バランスシートに費用を計上すること)のために行われるのが一般的でした。しかし、社会環境が劇的に変化すると同時に、知的財産評価の目的や対象も多様化しています。

特に、技術革新のサイクルが年々早くなる環境下では、すべてを自前の技術で補うことは難しく、他社からの知財調達やJV出資の一環として知財を拠出するケースも増えてきています。また、自社にとって新規分野におけるライセンス交渉などを行う場合に、どのくらいの料率で交渉すべきか、その場合の知財の価値はどのくらいなのかといった課題への対応、自社の知財の価値は他社と比べて高いのかなど、ベンチマークとしての知的財産価値の評価も多く行われています。

知的財産価値評価の手法

知的財産価値評価の手法は主に以下の3種類があります。

  • コストアプローチ:これまでに要したコストから価値を計算する方法
  • マーケットアプローチ:市場取引から価値を算出する方法
  • インカムアプローチ:知財がもたらす将来キャッシュフローをベースに価値を検討する

コストアプローチは、過去のコストから価値を計算する方法です。ただ実際には「どこまでが知財のコストか」という切り分けが難しく、たとえコストをかけたとしても必ずしもそれに見合った成果が得られるわけではありません。そのため知的財産価値評価の現場では採用されるケースは限定的です。

マーケットアプローチは対象の知的財産に類似する取引を調査することにより、その価値を明らかにする評価方法です。しかし知的財産の取引市場が整備されているわけではないこと、知的財産の個別性の高さなどを理由に、マーケットアプローチが採用されるケースも限定的です。

3つの手法のなかでは、将来キャッシュフローをベースに価値を検討する「インカムアプローチ」がもっとも主流と言えるでしょう。このインカムアプローチは「ロイヤルティ免除法」「超過収益法」「利益分割法」の3つの手法に分類され、それぞれ知的財産の貢献利益の計算方法が異なります。

知的財産価値評価の具体的なプロセス

知的財産価値評価の具体的なプロセスとしては、「知的財産の市場性分析→経済的価値評価」という順で実施します。

最初に、評価の対象となる知的財産がビジネス上、競合に対して優位性があるかどうかを検討します。知財の市場性分析は「知的財産デューデリジェンス」とも呼ばれ、競合他社の特許・研究開発の状況、ビジネスモデルにおける技術・特許の優位性などを分析し、当該知財の市場での立ち位置や事業計画との整合性を確認します。

市場性分析の次に行う「経済的価値評価」では、対象となる知的財産によって生み出されるキャッシュフローを計算します。その際は、市場規模、シェア、ロイヤルティ率、予想期間などの前提条件を設定し、その上でキャッシュフローを算出します。その後、知的財産に対応した割引率を定めて、求めたキャッシュフローを現在価値に換算して対象知的財産の価値を算定します。

インカムアプローチによる知的財産価値評価に用いられる要素としては、「ビジネスプラン」「知的財産の貢献度」「知的財産の割引率」の3要素があります。

ビジネスプランとは、知財が生み出すキャッシュフローを見積もるために作成される、評価対象となる知財に紐づいた事業計画のことを指します。そして知的財産の貢献度は、知的財産価値評価においてもっとも重要なポイントです。大きく収益貢献の分析と陳腐化・研究開発の完成度の分析から成り立ち、下のイメージ図において、①のオレンジラインが知財の収益貢献を表します。線上部の面積が知財の貢献部分に該当し、それを開発済み部分と将来開発部分に分解します。②のオレンジラインがそれを分かつ線となっており、貢献部分を分解した上で既存知財がどれくらいの期間の売上に貢献し、どれくらいの割合で陳腐化していくか検討します。

知的財産の割引率は、企業全体の割引率であるWACCWeighted Average Cost of Capital)よりも高く設定される傾向にあります。運転資本や機械装置といったリスクの低い資産は低い期待利回りが割引率となる一方、ブランドやのれんといった無形資産はリスクが高くなり、そのぶん高い期待利回りが必要となります。そのため、知的財産の価値評価を行う場合は、知的財産のリスクを加味してWACCよりも高い割引率を設定し、毎年の知的財産のキャッシュフローを現在価値に割り引く、ということが一般的となります。

知的財産価値評価について学べるe-ラーニング講座のご紹介

デロイト トーマツ アカデミーでは、知的財産価値評価について詳しく解説した「知的財産価値評価 - 基礎編」「知的財産価値評価 - 実践編」をご用意しています。企業の知財部、経営企画、財務に従事するビジネスパーソンを対象にしたe-ラーニング講座となっており、知的財産評価の基礎知識から具体的事例までを学習できます。

「知的財産価値評価 - 基礎編」では、知的財産価値評価の目的・利用方法を紹介しながら、具体的な評価手法・考え方・評価プロセスなどを解説しています。知的財産の価値評価に用いられる各要素の考え方を説明し、実務における分析視点を養います。

また、応用編にあたる「知的財産価値評価 - 実践編」では、具体的な企業事例を通して知的財産価値評価のポイントを解説します。具体的には「知財拠出によるJV設立事例」「親子会社での知財価値の按分」「特許の質を加味した評価手法」などを掲載しており、実例を通して知財価値評価の各要素をどのように検討すべきかがわかります。

知的財産の重要性は高まる一方であり、知財が経営の意思決定に影響を与えることも少なくありません。それに伴い知財をファイナンス視点から検討できる人材は重宝され、逆にそういった人材育成は企業の喫緊の課題となりつつあるでしょう。

本講座は知的財産価値評価を体系的に学べる内容となっていますので、ぜひスキルアップや自社の人材育成にお役立てください。