男女格差是正に向けたコーポレートガバナンス・コード改正の提言

2025年は、1985年の男女雇用機会均等法成立から40年、2015年の女性活躍推進法から10年となる節目の年である。女性の活躍に向けて官民で様々な取組みを実施してきたが、未だ男女格差は解消されていない。現状を打破するためには、企業の自助努力頼みとなっている現在の状況から、さらに踏み込んだ施策を講じていく必要があるのではないだろうか。本提言では、課題の全体像と求められる施策、そしてコーポレートガバナンス・コードの改定案を提示する。
目次
ビジネス環境における男女格差の是正に向けて
世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数では、日本は148カ国中118位であり、特に経済参画、政治参画において世界平均を下回る低い水準にある(図表1)。経済参画とは賃金の男女格差、管理職の男女比など、政治参画は国会議員の男女比、閣僚の男女比などを表すため、これらの分野で是正が進んでいないことを示している。政治参画と経済参画には関係があり、政治家に女性が多い国では、女性が働きやすい環境を整備するための法律が成立しやすいといわれている。双方での取り組みが必要である。
少子高齢化による労働力不足や、国際競争力の低下に悩む日本企業にとって、女性活躍の推進は、人材確保、多様性がもたらすイノベーション創出、生産性向上などに繋がる経営課題と言えるだろう。また、男女格差の是正は、女性のみならず男性の生活満足度も向上させるという調査(※1)もあり、男女双方にとってポジティブな影響をもたらすことが期待される。
本提言では、女性活躍を推進する一般社団法人Toget-HERの運営リードという立場で、課題の全体像と求められる施策、成長戦略と紐づいたコーポレートガバナンス・コードの改定案を提示する。
図表1 ジェンダーギャップ指数国際比較
データソース:World Economic Forum 「Global Gender Gap Report 2025」(※2)
課題の全体像と解決に向けた方向性
女性活躍推進において論点になる機会が多いのは、管理職や役員における女性の割合である。政府は、女性の活躍は日本の経済成長や社会全体の活性化に不可欠であるとして、従業員数301人以上の企業に管理職に占める女性比率の公表を義務付けており、2026年4月から従業員数101人以上に対象を拡大する。また、東京証券取引所は、政府から数値目標等が示されたことを踏まえ、プライム市場では、2025年を目途に女性役員を1名以上選任するよう努める、 2030年までに女性役員の比率を30%以上とすることを目指す、といった上場制度を設けている。
管理職や役員への登用については、「女性が十分な資質やスキルを備えているかどうか」という評価の面に注目が集まる。しかし図表2「課題の全体像」で示す通り、教育、採用、配属、育成、評価・昇進、働き方、処遇にわたる全体で女性に対する課題が存在している。例えば、女性は経理・人事・広報など内勤の部署に配属が集中しがちで、男性のように、営業本部や事業戦略といった主要部署に配属され転勤などのローテーションによってキャリアアップを図り昇格するといったルートが提供されていない。また、年功序列型の慣習においては、産休・育休を取得した後に時短勤務で働くなど、労働時間に制約が出ることの多い女性にとって不利になっている。処遇については、2024年のデータで男性の賃金を100とした時の女性の指数は75.8で、国内では差が縮小しているものの、G7の中では依然最下位である(※4)。
図表2 課題の全体像
出所:DTFA
これらの課題に対して、企業が手をこまねいているわけではない。特に、上場企業・大手企業では、政府方針や社会の潮流を背景として、積極的に女性活躍推進に取り組み、一般職採用の廃止、女性リーダー研修の実施、育休復帰支援、働き方改革など、様々な制度の見直しを進めている。長年にわたって様々な施策が講じられてきているものの、日本的な性別役割分担の価値観など、阻害要因も多く、成果に結びついていないのが実情である。もう一段踏み込んだ取り組みが必要である。
特に、役員の女性比率は重要な指標となる。世界的な潮流としてESG情報を投資判断に組み込む傾向が拡大しており、7割近くの機関投資家が、投資判断や業務において女性活躍情報を活用している(※5)。取締役会における女性の代表性を考慮し、女性取締役が含まれていない場合は取締役選任案に反対票を投じるとする機関投資家も多い。取締役会の構成に多様性がある組織は、企業競争力や社会的評価が高く、企業価値が向上するということは共通認識となっている。
諸外国には、クオータ制の導入により男女格差是正を進めた事例がみられる。クオータ制を初めてとり入れたノルウェーでは、法律によって女性役員の比率を4割以上と定め、未達の場合には厳しいペナルティを課す。他方、英国は企業役員のクオータ制を義務化する法律はないが、取締役会の性別構成の情報開示を義務付けることにより企業の取り組みを促す。
日本ではクオータ制の導入を推進することは容易ではないと考えられ、現状を鑑み、まずはコーポレートガバナンス・コードにおいてより踏み込んだ記載を行うことを提言する。
コーポレートガバナンス・コードの改定に関する提言
コーポレートガバナンス・コードは、上場企業が順守すべき原則や指針を示す。「遵守せよ、実施しない/できない場合には、その理由を説明せよ」という「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」の考え方に基づく。コーポレートガバナンス・コードへの記載によって、多様性の確保は経営の問題であり、取締役会の責務であることが明確になる。多様性の確保、特に女性役員の比率向上に代表される女性活躍を、株主から評価されるための取り組みとして加速させることが目的である。
改訂案の要点となるのは、以下の2点である。
①多様性のある人材ポートフォリオの計画策定と情報開示を求める
企業の中長期的な成長を実現するために必要な人材ポートフォリオを、多様性の視点を意識して策定し、実現に向けた具体的な施策を、多様性に関する定量目標と共に開示することを求める。多様性のある人材ポートフォリオの実現は、成長戦略の核であると同時に、人的資本経営の実践においても必要不可欠である。
②取締役会の女性比率は規定を踏まえることを数値で明示する。
取締役会の女性比率については、政府目標を受けて規定された、以下の数値目標を踏まえることを明記する。企業が女性の活躍推進を喫緊の課題と位置づけることで、2030年までに女性役員の比率3割という政府目標の達成を図る。
● 2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める
● 2030年までに、女性役員の比率を30%とすることを目指す
改訂案を含む全文はPDFダウンロードでご覧ください
【参考】
※1 Andre P. Audette Sean Lam Haley O’Connor Benjamin Radcliff “Quality of Life: A Cross‑National Analysis of the Effect of Gender Equality on Life Satisfaction”(October 2018)
※2 World Economic Forum “Global Gender Gap Report 2025”(2025年6月)
https://reports.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2025.pdf
※3 共同通信「女性役員3割、達成は困難54% 2030年目標、経営層意識遅れ」(2025年5月)
https://nordot.app/1296442780076081982?c=39550187727945729
※4 厚生労働省 賃金構造基本統計調査(2025年3月)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
OECD 「Gender wage gap」
https://www.oecd.org/en/data/indicators/gender-wage-gap.html
※5 ESG投資における女性活躍情報の活用状況に関する調査研究(2018年)
https://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/30esg_research.html