2025年の国内政治は、2024年以上に激動の一年になるかもしれない。2025年夏に予定されている参院選の結果次第で与党が過半数に届かなければ、衆参両院で過半数割れとなり、政権交代も現実のものとして見えてくる。政治の不安定化は政策の予見可能性を低くさせるなど企業活動にも大きな影響を及ぼす。2025年の政局展望について3つのポイントを示して解説する。

2024年度補正予算は1217日に、自民、公明両党や国民民主党、日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。少数与党で初めて予算審議に臨んだ石破内閣は、28年ぶりに予算案を修正する異例の対応をとるなど野党に譲歩を重ねることで、補正予算案への協力を取り付けた(図1)。予算成立の成否は政権維持に直結する。石破内閣は最初の難関を乗り越えた格好だが、2025年の通常国会での同年度予算の成立に向けた野党との調整は、さらなる条件闘争を迫られる可能性が大きく、採決のハードルが上がることが想像される。

図1 補正予算案をめぐる与野党の相関図

DTFA Institute作成

石破内閣が直面する課題は党外だけでなく党内にも横たわる。自民内には、野党の主張を次々とのんだことについて、執行部は譲り過ぎだとの不満がくすぶる。今後、野党と交わした政策実現に向けて財源の確保を示すことが求められるだけでなく、2025年夏の参院選に向けて野党は対立姿勢を強めるのは必至で、野党に譲歩を重ねる手法で乗り切るのは難しいとの見方もある。

石破茂首相が9月の自民党総裁選で決選投票を経て選ばれた背景には、長らく「次の首相候補」として国民的人気が高かったことがある。だが、報道各社が臨時国会期間中に実施した12月の世論調査では、徹底した低姿勢の国会運営が支持率上昇につながっている様子はみられず、不支持率が支持率を以前上回っている状況だ(図2)。

図2 最新の世論調査結果

データソース:報道各社の世論調査

過去には、森喜朗内閣時代の2001年、参院選を3ヶ月後に控えた4月に内閣支持率が10%を切ったことで退任に追い込まれたケースもある。この時は、直後に実施された臨時の自民党総裁選で小泉純一郎元首相が「自民党をぶっ壊す」をキャッチフレーズに小泉旋風と呼ばれる現象を引き起こし、総裁に選出。その余勢を駆り、参院選でも圧勝して危機を乗り切った。一方、2007年の参院選をめぐっては、郵政造反組の復党問題や年金記録問題、閣僚の不祥事が相次ぎ、第一次安倍政権に強い逆風が吹くなかで実施された。その結果、自民党は37議席と歴史的な大敗を喫し、結党以降初めて参院で第1党の座を譲ることになった。その後、毎年首相が交代し、2009年に政権を民主党に明け渡したことは周知の事実の通りである。

2025年の政局ポイントは3つ

直近の政治情勢を踏まえたうえで、2025年の政局を展望したい。2025年に石破内閣を待ち構える難関は3つあり、政権交代を占う一年となるといっても過言ではないだろう。それぞれについて考え得るシナリオを以下、詳述する。

Ⅰ. 2025年度予算案の衆院審議と採決(2~3月)

先述した通り、政権にとって予算の成立は最優先課題だ。予算をめぐっては、1989年にリクルート事件で追い込まれていた竹下登政権が同年度予算を3月末までに成立させられず、4月に退陣表明した。政治とカネの問題がいまだに沈静化しておらず、衆院で過半数に届かない少数与党の石破内閣にとっても最大の難関となることは間違いない。

予算案は憲法の規定で、衆院から参院に送られてから30日で自然成立するため、政府・与党は32日までに衆院通過と参院への送付を目指すことになる。石破内閣の支持率が微減傾向にあるなかで、予算の自然成立を万が一にでも逃してしまうと、予算成立と引き換えに「石破降ろし」が表面化する蓋然性が高まるだろう。

Ⅱ. 通常国会会期末での内閣不信任案の提出(6月)

次の難関は6月に迎える国会会期末である。ポイントは内閣不信任決議案を野党が過半数を超える衆院で協力して提出するかどうかだ。内閣不信任決議案は衆院本会議で出席議員の過半数で可決される。その場合、内閣は10日以内に衆院を解決するか、総辞職しなければならないと憲法で規定されている。

野党共闘の試金石となった衆院選後の首相指名選挙では一本化に失敗し、臨時国会で提出された政治改革関連の法案をめぐっては、れいわ新選組が共同提出に加わらないなど足並みがそろわなかった。戦後、内閣不信任決議が決議されたのは、わずか4回(1948年、1953年、1980年、1993年)でいずれも決議を受けて衆院が解散されている。

一方、仮に通常国会期間中に内閣支持率が上昇することがあれば、少数与党の状況を解消するため石破首相が衆参同日選に打って出ることも現実味を帯びてくる。年明け以降の内閣支持率の推移には注視が必要となる。

Ⅲ. 参院選(7月ごろ)

最後のポイントは、7月ごろに実施される参院選である。投開票日は通常国会の召集日によって定まるため現時点では未定だが、永田町関係者の中では、7月20日投開票が最も高いシナリオだと現時点では言われている。

衆院選での与党過半数割れを受け、野党の動きは活発だ。立憲民主、国民民主両党の最大の支援組織である連合は、参院選を政権交代に向けた重大なステップと位置づけ、与党を改選議席の過半数割れに追い込むことを目標としている。また、両党に対して改選定数1の「1人区」で候補の一本化を要請した。過去の参院選では、1人区での候補者調整がうまくいき、自民党候補との事実上の一騎打ちに持ち込んだ場合、一定の効果を示している。日本維新の会も1人区で野党候補を一本化するための「予備選」の実施を呼びかけている。残り半年で、現状で同床異夢の野党各党がどこまで手を握り合えるかがポイントとなる。

また、参院選前には東京都議会議員選挙も予定されている。都議選は、内閣の支持率や野党の勢力を測る重要な指標となる。与党が苦戦すれば、直後に行われる参院選に影響を与える可能性がある。国政選挙の前哨戦としての都議選の結果にも注目したい。

図3 2025年の政局展望のポイント

DTFA Institute作成

以上の分析が示す通り、2025年は政治の不透明感が一段と増すことが予想される。現在の政治トレンドは、第二次安倍政権以降続いた「自民一強」から穏健な多党化へと移行しており、政策立案過程においても多様な意見や立場が反映されるようになっている。このような環境下では、企業の政治との向き合い方も従来の枠組みを超えて、より幅広く、かつ深い関係構築が求められる。企業はこれまでの与党議員とのコミュニケーションに加え、野党議員との対話を質、量ともに高めることで、政治リスクに対する備えを強化する必要があるだろう。

永田 大 / Dai Nagata

研究員

朝日新聞社政治部にて首相官邸や自民党を担当し、政治・政界取材のほか、成長戦略やデジタル分野、規制改革の政策テーマをカバーした。デジタルコンテンツの編成や企画戦略にも従事。2023年5月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画した。
研究・専門分野は国内政治、成長戦略、EBPM(エビデンスに基づく政策形成)。

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