2025年の論点 米国はUNFCCCから脱退するか
11月5日(米国現地時間)の大統領選挙で、共和党のトランプ氏が当選した。第1次政権では内部からパリ協定留任を支持する声があったにもかかわらず、2017年6月の大統領演説で脱退を表明した。2025年に発足する第2次トランプ政権は温暖化対策などの環境政策に否定的な立場をとるあまり、パリ協定だけの脱退にとどまらず、その前提となる国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からの脱退の可能性も指摘されている。
目次
パリ協定の脱退だけではすまない?
パリ協定は、1992年のリオサミットで採択されたUNFCCCの下に定められた国際条約である。このため、パリ協定の締約国となるためには、UNFCCC締結が前提となる。米国は上院の承認手続きで3分の2の支持が得られてUNFCCを締結したことから、パリ協定の締約国となった。
しかし、第2次トランプ政権ではUNFCCCから脱退する可能性もある。そうなれば、次回2028年の大統領選でパリ協定復帰を支持する候補者が勝利したとしても、復帰の前提としてUNFCCC締結が必要となる。しかし、一度、脱退した条約を再び結ぶのに、どのような手続が必要になるのかが、米国内では先例がないため明確にされていないのだ。
上院での批准手続きが再び求められた場合は、将来のパリ協定復帰の成否は不透明になる。また、米国のUNFCCC脱退によって生じる不確実性は、国際社会における温暖化対策へ長期的に様々な影響を与える可能性がある。
条約と執行協定の違い
米国の国内法では、国際条約は条約(Treaties)と執行協定(Congressional Executive Agreement、Executive agreement made pursuant to a treaties, Sole executive agreementなど)の大きく2種類に分けられる。
執行協定は大統領権限で締約できる。パリ協定はこの執行協定とみなされるため、オバマ政権は大統領権限で締約国となった。バイデン政権が発足直後にパリ協定の締結手続きを進めることが出来たのもそのためだ。2028年の大統領選の先行きは現時点ではまったく読めないものの、トランプ政権がUNFCCCにとどまり続ける限り、次回の大統領選でパリ協定復帰を支持する候補者が勝利した場合のパリ協定復帰は、速やかに行われるだろう。
しかし、脱退した条約を再び締結する手続きは明確ではない。条約批准には上院の3分の2の合意が必要であり、UNFCCCも1992年にこの手続きを経て批准された。条約からの脱退は近年、大統領の権限で行われてきているため、再度就任した後にトランプ大統領が独自の判断でUNFCCCから脱退することは可能である。
将来の米国が改めてUNFCCC締約国となる場合、上院の助言と承認が再び必要になるのか、あるいは既に一度、承認されているから必要とされないのかについては、先例がないため明確になっていない。改めて上院での手続きを経る必要はないとする法律の専門家もいるが、その見解が本当に有効なのかは、現状ではわからない。
もし改めて上院の助言と承認が必要とされれば、上院で3分の2の支持を得る必要がある。しかし、上院での共和党と民主党の議席や投票の動向からすると、3分の2の支持を得ることはほぼ不可能だ。そのため、もし上院の助言と承認が必要とされた場合は、米国がUNFCCCだけではなくパリ協定に復帰することも、非常に困難になるだろう。
温暖化対策への機運に影響
上院で批准がなされないため米国が締結していない条約は、実は数多い。リオサミットでUNFCCCと同時に採択された生物多様性条約は、その好例だ。米国は締約国とはなっていないものの、自然生態系の保全に関する目標設定、遺伝資源の利用とその利益配分に関する「名古屋議定書」の採択など、一定の成果を挙げてきている。
そのため、UNFCCCにおいても、国際社会が米国抜きで温暖化対策を進めていくことはある程度可能かもしれない。しかし、温室効果ガス(GHG)排出量で世界第2位の米国が関与しない状況が長期にわたった場合、UNFCCCの実効性に疑問符が付く可能性がある。
また、米国がパリ協定だけではなくUNFCCCからも脱退した場合、UNFCCCの運営や途上国支援のための資金繰りに影響が生じる可能性がある。パリ協定の運営予算はUNFCCCが策定する2ヵ年計画(2024~2025年)に含まれ、それを踏まえて各国に拠出を求めている。この中で米国は、UNFCCCの拠出金総額のうち、締約国で最大の約20%を割り振られている。実際の拠出額は20%を下回っているとはいえ、米国が脱退した場合の影響は甚大である。そのほか、UNFCCCの下で運営されている「緑の気候基金」への米国からの拠出も途絶えると予想される。バイデン政権は残りの任期中に多くの資金を拠出して悪影響を軽減しようとすると予想されるが、どれだけ効果があるかは分からない。
さらに、パリ協定は、各国が自主的に排出削減の目標値を設定し、自主的に達成していくものである。法的拘束力はないため、パリ協定下での温暖化対策の強化の度合いは国別の判断に委ねられている。そのため、今後、各国が温暖化対策を継続的に実施し、強化していくには国別に機運を維持し向上させることが重要になってくる。
こうした中で米国がパリ協定だけではなく、UNFCCCからも脱退した場合は、国際的な温暖化対策の枠組みへの米国の関与に大きな不確実性が生じ、各国の温暖化対策への機運にも影響すると考えられる。短期的には各国とも現状の政策を維持すると見られるが、長期的に米国がUNFCCCに復帰しない場合、どのような影響が生じるのか予測がつかない。
2025年は第2次トランプ政権がUNFCCCにどのような姿勢で臨むのか、注目が必要だ。
<参考文献・資料>
(※1)Galbraith, Jean. "Rejoining Treaties" (2020). All Faculty Scholarship. 2182.
https://scholarship.law.upenn.edu/faculty_scholarship/2182
2024年11月18日閲覧
(※3)Session 14 of the Congressional Study Group. Congress’s Control Over Treaties. Brooking Institute, May 11.2022.
https://crsreports.congress.gov/product/pdf/RL/RL32528/25
2024年11月18日閲覧
(※4)Steve P. Mulligan. International Law and Agreement: Their Effect upon U.S. Law. Congressional Research Service July 13, 2023.
https://www.brookings.edu/articles/congresss-control-over-treaties/
2024年11月22日閲覧
(※5)Trump would withdraw US from Paris climate treaty again, campaign says. Politico, 2024/06/28.
https://www.politico.com/news/2024/06/28/trump-paris-climate-treaty-withdrawal-again-00165903
2024年11月22日閲覧
(※6)UNFCCC. Status of contributions and fees as at 9 November 2023. Note by the secretariat(FCCC/SBI/2023/INF.6)
https://unfccc.int/documents/632359
(※7)UNFCCC. Decision 19/CP.28, Annex (FCCC/CP/2023/11/Add.2).
https://unfccc.int/sites/default/files/resource/cp2023_11a02_adv.pdf
2024年11月20日閲覧
関連サイト
サステナビリティアドバイザリー|ファイナンシャルアドバイザリー|デロイト トーマツ グループ|Deloitte
M&AにおけるESGトレンド調査 2024 日本版|M&A|デロイト トーマツ グループ|Deloitte